5話
その日は雨だった。
雨のせいか頭が重く、心なしか体もだるい。
ーー風邪でも引いたかな
「白妙」
寝たままであったが、かの男を呼ぶ
たとえ小さい声でも呼べば聞こえると言っていた。さすが力は弱いがあれでも妖というところだろう。
「どうしました?」
何時の間にやら襖の前まで来ていたらしい。本当に凄い地獄耳だ。
「入りますよ?」
返事をしない清香を心配になったのか返事をする前に、この男は襖を開けて入って来た。
もし着替え中だったどうするんだ、と見当違いのことで腹を立ててみた清香だった今までそんな事は一度もなかった事を考えると、妖ゆえに気配などをしっかり読んでいるのだろうっと勝手に結論づける。
どうやら思考までめちゃめちゃらしい。
やはり、これは風邪だろう。
「白妙、どうやら少し風邪を引いてしまったみたい」
「おや、熱はどうですか?」
額に触れる白妙の手は何時ものように少し冷たくひんやりする。
「熱はないようですね、今日は念のため寝ていなさい」
「え〜、それは退屈よ」
「風邪はひき始めが大切なんですよ」
「分かったよ……そのかわり、ね?」
「はい、水ようかんですね」
ポンと清香のことを布団の上から叩きながら、腰をあげる白妙に。
「これだから、白妙が好きよ」
甘えるように笑いかけた。
「フゥ、本当に貴方は何時までも子どもで困りますね」
あの眉を少し下げる笑みを浮かべながら、彼が自分を甘やかしてくれるのを知っていた。
こういう時、少し過保護気味な白妙はめい一杯甘やかしてくれる。
それが、まるで自分が彼に本当に大切に思ってもらえているようで嬉しい。
例え、それが主人と従者としてでも、
それがまるで妹を甘やかす兄のようなものでも、
何時迄も子どもっぽい自分がいやになる。
ただそんな"子ども"のままでいれば、白妙とこうして過ごせる。
いつまでも貴方のそばに居れるんだ。私が子どもで居れさえすれば……
思わず目が潤んできてしまい、布団を頭まで被る。
うーん、やっぱり具合が悪いと考え方まで後ろ向きになっちゃうみたい。
そのまま白妙が戻ってくるまで、気持ちが落ち着くまで布団の中に潜っていた。
気分を持ち直し大好きな白妙に風邪を口実にしっかりあまえる。
お気に入りの果物を入った水羊羹を食べて、白妙に眠るまで枕元で話をしてもらった清香は体調不良は何処へやら幸せいっぱいで過ごしたのだった。