3話
初めの5年ほどは清香のこと何て年に数回顔を見に来るくらいで、白妙に押し付けてほったらかしにしていた甲斐だった。
しかし何時までも華紋が咲かない事に焦れてか、この2年ほど週に1回ほどの頻度で清香の元に通ってくるようになったのだ。
このせいで清香は本宅にいる妾たちに色々文句を言われて困っている。
「人間の分際で」
「小娘が」
「早くでて行け」
「華紋も咲かない半端ものが」
ひたすら言われる暴言や時に手を上げられていることを、この無法者は知っているのだろうか。
否、知らないのだろうな。
だから何もしない。
自分の伴侶になれっと言っておきながらもこの鬼は、華紋以外に私に価値はなく。
私自身には興味が全くないのだ。
だから、そんな私を何時も守ってくれるのは白妙だった。
出来るだけ妾が来ないように、白妙が壁になり対応してくれたら。
妾が来たっと思ったら、白妙と一緒に出って行く。その後、白妙はしばらく帰ってこず何時も白妙が大丈夫か彼が帰ってくるまで清香は気が気でなかった。
そんな白妙も24時間、清香についていられるわけでわない。
白妙が居ない好きにやってくる、妾やその差し金の者たちが清香に危害を加えようとすると、何処からともなく駆けつけてくれるのはやっぱり白妙だった。
仕事とはいえ、そんな風に慈しみ守られて恋に落ちない訳が無い。
清香は知らぬ間に恋していた、妖である白妙に。
鬼の伴侶である華人の証である、華紋を体に宿しながらも。
「清香、こっちに来い」
着物の裾を踏まないよう、優雅に見えるようしずしず甲斐の元に歩く。
こんな奴のために、こんな事はしたくないが全て白妙が清香のために教えてくれた教養。
どんな者の前でも、見せてやろう
白妙が自分に教えてくれたすべてを。
ゆっくり進む清香にしびれを切らしたのか、身を乗り出し清香の腕を引っ張った甲斐胸に縋るような形で清香が収まり男は満足げに顔に笑みを浮かべた。
「さあ、俺の華紋はどうかな」
帯を緩めて甲斐の手に、清香は体が嫌悪で震えるのを我慢するしかなかった。
清香の華紋は胸元にあるので着物の合わせ目を少し開けば見れるのだが、最近この男は清香の着物を脱がせて襦袢だけ羽織った彼女の体を撫で回すのがお気に入りだ。
清香はひたすら下唇を噛みそれに堪える。こんな女として中途半端で凹凸の少ない体の何が楽しいのか。
目に屈辱か嫌悪からか薄い膜が張り出した頃、ようやく合わせ目を緩めて清香の華紋を確認する
「うーん、まだか。全然ほころびもしてねーな。」
そっと、華紋を撫でる指の感触に耐え切れずに薄い膜だったモノが、目から一雫落ちる。
そんな清香の様子を楽しむように顔を覗き込んだ甲斐は、雫を舐めてニヤッとした。
「早く咲かせろよ。待ちくたびれてるぜ」
待ちくたびれるなら、捨て置けばいいものも
「まあ、華が咲く前でも証がくれば先に体は味見してやるよ」
ひたすら無の感情を保とうと意識しながら、この時間が終わるのを清香は願っていた。
「入りますよ」
すっと襖が開く音に、気づけば甲斐が去った後もぼーっとそのままだった事に清香は気づくと。申し訳程度に着物を羽織りながら、いつも通り眉を少し下げた男の顔を見た。
「白妙」
「お腹が空きましたか?」
「白妙」
「まだ夕飯には早いから、甘味でも食べましょうか」
「……湯浴みがしたいわ」
「…分かりました。準備してくるから、ここで少しお待ちなさい」
かの男の顔を見ていたくはなくて、顔を反らしながら言ったが、かの男とは何時ものように眉を下げた困っ笑みを浮かべていたのろう。
最近の甲斐が行う過剰な確認作業を白妙も気づいているのだろうか?
気づいていてああやって気分を変えようとしているのなら逆効果だ。
好いた男にあんな反応される虚しさといったらない。
何時からだろう、確認の時に隣室で待っていたはずの白妙が声が聞こえないほど遠くで待機するようになったのは。
今は何も考えたくない。
早く、この残った感触を洗い流したかった。
目尻から、残っていた雫が溢れる。
いくら確認しにきた所で、この華紋は咲く事はないだろう。
華紋は華人の心に敏感なのだろう、咲かせたくない。
あんな男のために、この華もこの身も結ばれない運命のあの男に捧げると15歳の時に自分自身に誓ったのだ。
華紋は今日も蕾を固く閉ざして咲かない。
華人の想いを含み、咲かないように蔦で雁字搦めにして。
かの男のために生きれないなら、咲かない華でいよう。
硬い蕾と女の証がこない体を固く自分で抱きしめた。