2話
「大丈夫ですか?」
「うん……ありがとう!」
ーー貴方がいるから私はここでも息が出来るの。
10歳の時に急に赤い蕾みたいな痣ができた、その次の満月の夜。
私はあの鬼に攫われた。
この痣は華紋とよばれるもので、それが現れたものを鬼の世では華人と呼ぶらしい。
この華人の華紋は蕾として現れ、何時の日か咲き誇るように華に変わるという。この咲き始める期間を華が時という。
その花の香りは鬼を引きつけ、惹きつけられてた鬼と契約を結ぶと伴侶のとして鬼と生きる。
中でも鬼自身も華紋を持っており、その華紋が華人と一致する場合があり
それは魂同士が引き寄せあった魂の伴侶と呼ばれるものになると言う。
ーーどれも白妙から教わったのだけどね。
私を10歳の時に攫ったのは甲斐という鬼だった。
傍若無人という言葉が似合うとこの男は、俺が初めて見つけたから、お前は俺のものだと勝手に言って自分のものにしたと言う。
もちろん10歳の稚児に食指が動くわけでもなく、甲斐自身2〜3人程の妾を本宅に囲い込んで楽しくてやってくれているのが、私にとっては救いだった。
そして私は食べごろになるまで、ここで過ごせっと離れに捨て置かれる事になった。
ただ10歳の稚児が自分で出来るごとなど限られており、世話役として本宅から連れて来られたのが白妙だ。
白妙という名が体を表すように、白い長い髪に優男風の優しい顔立ち、年齢不詳のこの男はこれでも妖と呼ばれる物らしい。
鬼より力は劣るが妖も妖力があり、人ならざる力があるそうだが、
「私はこの通り出来損ないで、ほとんど人と変わらないですよ」
以前気になって訪ねた時、眉を少し下げって困ったようにこの男は笑ってそう言っていた。
「白妙はどうしてここにいてくれるの?」
「貴方のお世話のためですよ」
「白妙、私も15歳よ。自分の事は自分で出来るから元の仕事に戻って良いのよ」
「貴方は私から見たら、まだまだ赤子のようなものですよ。ほれ、もう少しお世話されていなさい」
そんな風に17歳を迎えようとしている、今でも白妙は私の元で世話役を買ってでている。
この男の事を思えば、こんな役ただずの小娘のもとに置いとくのは忍びないのだが、
「言ったでしょう。私は出来損ないの妖のため、ろくに力もないのですよ」
そう言っては、出世なんて自分には無理だととりあわない。
「それにしても、貴方ももう17歳ですか。」
「何、白妙。どうせ私はまだ娘にもなり切れてない半端者ですよ」
改めてまじまじと私をつめ先から頭まで見ながらいう彼に拗ねたように言う。
「そんなこと言ってないですよ、貴方は変わらず愛らしいのですから」
でたよ、この天然。口説き文句でわなく、子供も愛でるものだと思って!
「白妙は、何時まで私を子ども扱いするのかしらね。いいけど。本当のことだし。私もまだ大人にもなりたくないしね」
私の言葉の裏の意味を知っている白妙はそんな言葉に、何時ものように眉をさげる。
「おい、清香。入るぞ」
そんな空気を壊すように、無遠慮に扉をガラッと開けて無法者が入ってくる。
「甲斐様、いらっしゃいませ」
さっきまで白妙に見せていた顔を一緒にして覆い隠すような、無表情に変えて清香は入ってきて甲斐に頭を下げる。
その後ろで、白妙も何時ものように頭を下げているであろう。
「かたっ苦しいのはいいって、言っただろう」
無作法に着崩した着物の裾を気にせずに、甲斐は座り込むと白妙にあっちいけと言うように白妙に手を振る。
白妙が襖を開けてでて言った事を背中越しに感じながら、何時もの苦痛の時間の始まりだと小さなため息を吐いた清香は顔を上げた。