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月見草  作者: ami
13/14

13話

 呆然とここにいるはずの無い、会いたくてたまらなかった男をまるで亡霊を見たかのような顔で清香は見つめる。


 そんな彼女は喉を震わせながら、ようやく一言呟いた。

 「……白妙」

 「はい」


 「何でここにいるの」

 「だってお呼びになりましたでしょう」

 「えっ」

 「貴方が呼んだでしょう」


 まるで何時もの様に言う男ね、思わず視界が歪んでいく。



 あの家で一緒に住んで過ごしていた時の様に、呼べがすぐに来てくてた人。

 助けてくれた人。

 側にいてくれた人。



 そうなの貴方だけなの、ずっと側にいて欲しいのは。



 「おまえ、何故ここにいる!」

 気づけば男の存在に気づいた周り男衆が騒ぎ出していた。


 甲斐が清香の前に出て、彼女の視界から白妙が追そうとする。

 「おまえは屋敷のものでは無い。直ちに出ていけ!」

 男がいつになく声を荒げる。


 それと同時に周りも殺気立つ。


 ーー大変、このままじゃ白妙が……急いで逃げる様に言わなきゃQ


 清香が甲斐の後ろから必死に顔を出そうとすると、そうはさせまいと甲斐が必死に手で押さえつけようとする。

 「白妙!逃げて!」

 「はい」

 清香がそれでも必死に白妙に訴えたのだが、男は返事はしたが一向に動こうとはしない。



 何で?ここに居たら死んでしまうかも

 お願い貴方だけでも、私をここに置いてっていいから

 早く!

 感情が高まって清香の視界が再びどんどん潤んで行く。


 そんな顔を出そうとする清香を甲斐は自分後ろに押し込む。

 「白妙……」

 それでも声を紡ごうとするが喉に何かひかかって、詰まった様に言葉が出てこない。



 「……一緒にいたいわ」

 思いと裏腹に勝手に出て来てしまった声は、震え音にもなりきれず掠れていた。




 「承知しました」


 甲斐越しにいたはずの白妙の声が耳元に響く。


 「えっ」

 気づけば白妙の腕に捕らえられて、宴が開かれた庭が見晴らせる屋敷の屋根にいた。



 「あの男、華人を!」

 「いつの間に!!」

 「どうやって!?」

 二人が見下す庭でも騒ぎになっている。


 「お前、半端者の妖の分際で鬼の華人になんたる狼藉」

 「分かっているのか?」


 「ええ、十分に承知していますよ」


 「皆さまが仰る様に私は半分しか妖の血の入っていない半端ものです。ただ残りの半分の血がここ最近騒いで仕方ないのですよ」


 白妙の白い紙が月の様に銀色に輝き出す。


 「もしやこの気配は!?」


 「そうです。私は半分鬼の半端者なのです」


 「例え鬼の血が入っていようと、そいつは俺が先に見つけた!」

 「そうだ、甲斐様の言う通り!華人は先に見つけたもののものだろう!」


 「そうですね、この鬼の世界では先に見つけたもの物なって可笑しな決まりがありましたね」

 「決まりは決まりだ!そいつを俺の元に返せ!」

 「返す?ご冗談を先に見つけたのは私ですよ。貴方の様に攫わなかっただけで」


 ーーうん?白妙は私を前から知っていたの?

 疑問が頭に沸く中、男たちの言い争いの熱は燃え上がり続ける。

 「そんなの何とでも言えるだろう!俺が清香を囲っていたのは周知の事実だ!さあ、そいつをよこせ!」

 「ふう、本当に低俗な方ですね」

 「何だと!?」

 「そういえば、鬼の決まりには他のもありましたね」


 急にそう言って腕を捲り出した白妙を皆んな怪訝な顔で見つめる。

 同じ様に何をする気だろうと見つめた清香だったが、めくった先を見て思わず目を見開いた。


 「あ、その紋」

 白妙の上腕に先ほど咲き誇った清香の華紋と全く同じ月見草の華紋が咲いていた。


 「お、お前ー!!」

 怒り狂った様に叫びだした甲斐の姿が理解できず、清香は二人を交互に見る。

 「鬼の決まりでは魂の伴侶は絶対。それは先に見つけた等は関係なくでしたよね」


 「えっ!?それって?」

 思わず白妙に聞くと

 「私と貴方は魂の伴侶ということです。これは誰も邪魔できないものなのです」


 その言葉にくしゃっと清香の顔が歪む、もう涙を我慢できなかった。

 「それって私、白妙といていいってこと」

 「そうですよ。さあ、私の愛らしい子。泣くのは止してください」

 「へへ、嬉しくて」

 「ふぅ、あなたって人は」

 眉を下げた何時もの笑顔を浮かべる白妙に、清香は思わず彼に飛びつく様に抱きついてしまった。


 「さて、宴はたけなわではございますが、私たちはここで失礼させていただきますよ」

 「おい、待て」


 去り際に清香を抱き込み耳をふさぐ。

 「これは俺の華人だということをゆめゆめ承知の上、変な気など起こさぬ様に」



 いつもの笑みはどこへやら、凍てつく様な声を残し消える様に2人はいなくなった。

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