12話
酒の香りと合わさった彼女の香りは、甘くむせ返えるように酔ってしまうかのような香りを放つ。
「まさか……」
「これが!?」
「おい、見ろ!華紋が咲き誇るぞ!」
突然のことに驚いた清香も胸元を見つめると、華がとうとう咲き誇ろうとしていた。
香りがうねる様に清香を包み、それに合わせて痣も徐々に形を明確にしながら咲き誇っていく。
そうして華開いた、鮮やかな赤い華紋が清香の胸に咲き誇った。
「おい」
「見ろ……」
咲く習慣を息を飲んで華紋を見つめていた面々が、ざわざわと騒ぎ出す。
そして唸るような男の声が宴会場一帯に響き渡った。
「どう言うことだ……俺とは違うじゃねえか!」
甲斐の言葉がやけにしんと静まり返った夜に反響するように響く。
清香の願いが届いたのか華紋は甲斐とは違い、月見草のような形をしていた。
思わぬ展開に集まっていた客人も戸惑ったようにざわめき続ける。
その空気を壊すかの様に甲斐は声を張り上げた。
「まあ、華紋の模様が違っても伴侶になっちまえば関係ねえか。よし、皆の者。待たせたな、これから伴侶の儀式を始める!」
そう高らかに宣言したのだ。
「……待ってました!!」
周りも気を取り直したかの様に一斉に騒ぎ立て始める。
いよいよ来てしまった、このときが。
この契約で、清香はこの男のものになるのだ。
心は一生渡すことはできないだろう。
ーー何で咲いちゃったのかな
自分の華紋に手をそっと置いた。
「白妙」
最後に気持ちを振り切る様に小さく呟く。
その震えるような声は喧騒の中に吸い込まれた消え、気づくものはいなかった。
そのはずだった。
「お呼びでしょうか?」
背後から聞こえた、ここにいるはずのない声に怖々後ろを振り返ると、
そこにいたのは清香が会いたくてでもここにいるはずの無いし月夜を背にした白妙が立っていた。