11話:
「九分咲きまでいったか」
「よし、いよいよだな」
「儀式は全家を招いて盛大に行おう」
「清香は今から本家で過ごすといい」
ーー目の前で男が何か言っている……
「咲き誇る瞬間をみんなで迎え祝おうではないか」
そのまま白妙に別れも言えずに、何も持つ間も無く、清香は人生2回目の誘拐にあった。
九分咲きとはもう何時咲き誇ってもおかしくないらしい。
月夜酒と夜の祝いに場に華紋が見えるように少し胸もとを緩く着付けられた清香も甲斐横に座らせられ参加させられた。
今から今かと待ち構える周りの目が纏わりつき、清香は不快感にじっとり汗が背中を伝う。
以前だったらぺったんこの胸でみっともなかった子も知れないが、悲しいから年頃に育ったいまの胸だと何処と無く色っぽくも見え羞恥で顔が赤くならない様必死に無表情を装っていた。
宴もたけなわ。
親族だけでなく友人たちも招いていたのだろう、酔っ払った甲斐の周りには気のおけないお仲間たちも集まってきた。
「いよいよだな、若い衆の中だとお前が一番先じゃないか」
「冷やかす様に騒ぎ立てる声に、甲斐が清香をぐいっと引き寄せて」
「何てったってこいつが10歳の時に見つけて俺ものにしたからな」
「俺のものにしたって言ったって、攫ってきただけだろう」
「はは、違いねー」
そう先ほどから甲斐と一緒に騒ぎ立てる男たちに、清香は吐き気がした。
ーー類は友を呼ぶだ。
「そいえば、あの出来損ないの白いのはもういないのか?」
「ああ、半端者か」
「あいつはこいつの世話が終わったから追い出したさ」
ーーそれって白妙のこと?
「本当俺があんな力なく生まれてたら絶望して生きていけねえよ」
ーー何を言っているのか、この男たちわ
「華人のお世話できただけで有難いと思えよな」
「いや、おこぼれ貰えなくて残念だよな」
「役立たずの半端者の分際でさ」
がちゃん
気づけば清香は勢いよく立ち上がる。その拍子に目の前にあった酒瓶がなぎ倒され、あたり一帯を酒のむせ返るような匂いが包んだが彼女はそんな事はどうでも良かった。
「バカにしないで、あの人は……」
ーー私の好きなあの人は……
胸から沸き立つ怒りの感情に押されるままに、目の前の男たちをキッと睨みつける。
「あんた達よりも何倍もいい男よ!」
その心のままに叫ぶと、自分より小さい少女にまるで男たちは気圧されたかのように目を見開き固まった。
その中で甲斐が眉間に深く皺を刻む。
「清香……お前……」
低く唸るように吐き出す男の声が、一瞬沈黙に包まれた宴会場を震わす。
彼の声に我に帰ったかのように他の男衆も騒ぎ始めた。
「何だとっ!この女!」
「華人だからと調子に乗りおって!」
そんな騒ぐ男たちを負けじと清香はじっと見渡す。
その姿は堂々としており、まるで一貴族のような気高さが見て取れた。
ーーあの人を、馬鹿になんてさせない。白妙がどんなに出来た男だったか、それを証明できるのは彼が育てた私だ。
彼に色々教えてもらった、育てられた、愛情をもらった。
彼は側にはいてくれなくても、彼が私の誇りだ。
そして彼の誇りになりたい。
「いいですか、華人たるもの背筋をしっかり伸ばし、そうです。そう微笑んで。誇り高くありなさい。鬼につかえるのではない。貴方は鬼と同等なのです。華人の貴方が鬼を選んでやるくらい、気高くありなさい」
はい、白妙。
貴方の教えは忘れない。
見てて、貴方が育てた華人は誰よりも誇り高く咲くのだから。
胸がジワリと熱くなる。
力が漲ってくる。
ばさっと着物を改めて綺麗にはらった。
顎を上げて、背筋を伸ばし、微笑みを浮かべる。
「」
ブワッと花あらしが起こったかの様な香りが舞い狂い、芳醇な花の香りがあたりを包んだ。