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月見草  作者: ami
10/14

10話

 本家が華人を迎えるにあたって忙しくしている中、離れはそんな喧騒から切り離れたかのよいのひっそりとしていた。



 「まるでお通夜ね」

 ひっそりとしているのは清香だけ、白妙はそんな彼女に合わせているにすぎない。

 彼は通常運転、むしろ機嫌さえよく見える。



 ーーこんなに自分が白妙の事を考えているのに、ちっとも伝わっていない。勝手に思い上がっていた気持ちが、ぐるぐる思考が回るだけ……


 この間彼女自身で心に決めた事が、揺らいでしまいそうだった。



 そんな憂鬱な清香の心を裏切るように、華紋は7分咲きと言うところまで来てしまっている。


 咲く瞬間まで、実際の華紋も分からないと言われているが毎日少しの時間でもあれば確認しに来るあの男は自分の華紋に似てると勝手な事を言っていた。


 ーーアイツと魂の伴侶なんて冗談じゃない!せめても違う華で!!!

 そう彼女は最近では華紋に念じ続けている。




 「失礼します」

 件の白妙さんの登場だ。

 「貴方の着物を整理しますね」

 そう言って彼は箱を数個持ってきた。


 「持っていきたものはこちらの箱に詰めていきますから」

 「持って行きたいものね……特にないかな」

 「……そうですか、そうですね。伴侶となりましたら、それに相応しい新しい物を仕立てる事になるでしょうし

いっそうのこと、着物も心機一転取り替えるといいかもしれませんね」

 「へえ、そう言うものなのね」

 「そういうものです」

 「それにしても、物を大切にする貴方が全て捨てるのに賛成するなんて珍しいね」

 「そうですか?」

 「捨てるなら、誰かにあげようかな」

 「女中たちが喜ぶと思いますから、ここを出た後に取りに来るように言っておきましょう」

 「うん、お願いね」



 「では他に持っていきたい物は、この箱によろしくお願いします」

 「ありがとう、子どもじゃないから自分でできるわよ」

 「白妙は終わったの?」

 「はい。わたしは当面のもの以外はもう送ってあるので」

 「送って?本家に?」

 「……いえ、この家を出る事になりました。」

 「え!?」

 思わぬ発言に淡々と会話を続けようとしていた清香も、思わず驚きの声を上げてしまった。


 「もしかして私のせい?私が至らない華人だったから?」

 「違いますよ。実家を継ぐように前から言われてたのです」

 「そうだったのね。知らなかった。前から言われていたのね」

 「気にしないでください。貴方は私の愛らしい子。私が好きで貴方に側にいたのですよ」



 ーーああ、彼は仕事関係なく大切にしてくれた

 久しぶりに彼が言ってくれた"愛らしい子"という自分の愛称に、心が勝手に踊りはじめる。

 例え幼子へ、妹へ告げるような言葉であっても自分にとっては紛れもなく嬉しい言葉なのだ。

 ーーこれで満足しなくてちゃね。



 「貴方がいないと寂しくなる」

 袖をキュッと掴む清香に何時もの笑みを見せてくれた。

 でも何も言わず、彼女に袖を握らせているだけで「大丈夫ですよ」「また会えますよ」など慰めの言葉は一切なかった。


 そんな男の様子に、清香の口からポツリと呟きが漏れる。

 「……何で咲いちゃったのかな」

 「7部咲きなんてあと少しですね」


 ーーあれあの男が伝えたのかな?


 「このまま……いっそうのこと枯れちゃえばいいのに」

 苦々しく清香がポツリとこぼした言葉に、白妙は思わずっと言ったようにガッと両腕を掴んで来た。


 久しぶりの白妙の体温に胸が打つ。


 そんな白妙の表情をまじまじと見つめると、いつになく真剣な顔でこちらを見返して来た。

 「そんな事は嘘でも口にしてはいけません」


 思わず、ポロリと涙が溢れる。

 「嘘じゃないわ」

 涙と一緒に溢れた清香の言葉に、同じように白妙も珍しく顔を歪める。


 ーー咲いて欲しくないのに……


 ーー何で勝手に咲こうとしてるの?



 不意に感じる懐かしい体温。


 彼の腕囲われて胸に頬が触れ、溢れたはずの雫は白妙の着物に染みを作る。


 「ごめんね、ほんとなの」


 「せっかく貴方が育ててくれたのにね」


 「私咲いて欲しくないの」


 更に零した彼女の声に、腕の囲いがぎゅっと一層強くなった気がした。

 このまま貴方の体温と一つになって溶けてしまえたらいいのに。


 そんな彼女の心を凍りつかせるように、白妙が一言放った。

 「咲かせてしまいなさい」

 ーーえっ……

 「心のままに、華が時という事は貴方の心は華を咲かせたがっているということ何だから」


 何で貴方がそれを言うの?

 

 貴方だけにはそう言って欲しくなかったのに。



 この人は……

 悪魔だ。



 彼の言葉が固く閉ざそうとすると心に降り積もっていく。



 自分でもわかるくらい、くらりとする華の香りに包まれたのが分かる。

 咲かせたくないという清香の言葉とは反対に華紋は九分咲きまで咲き誇ろび用としていた。



 華が時はとうとう終わりを迎えようとしていた。


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