1話
満月の夜。
月が二人の男女を照らしていた。
背の高い男に囲い込まれるように女は床に縫いとめられている。
少し肌けた着物からは女らしいまろやかな曲線が見てとれた。
その胸は規則正しく上下しており、彼女が深く眠っている事を表していた。
男はそっと彼女に体重が掛からないように労わる様子を見せながらも、彼女の上からは退かずに上から見下ろし続ける。
ちゅ
その薄く開く唇に口ずけ離れ難いと言わんばかりに、ゆっくりと唇を離した。
そして女の首元に顔をうずめる。
それが擽ったかったのか女が少し身じろいだ。
その様子にビクッと男は体を固まらせた。
「…………」
すーすー
再び規則正しく聞こえてきた寝息に、女の首元に体を埋めたまま動けずにいた男は固まった体から少しずつ力を抜く。
ーーまだ彼女にはそのままで
そう思いながらも鼻腔をくすぐる女の香りに、男は無意識にふうっと熱い息をはいてしまう。
その息が首に触れたのだろう女の瞼がピクッと動いた。
その香りを振り払うように、どうしても吸いつけられる香りから己を引き離すように顔を女の首元から離す。
「いや、時は十分に満ちたか……」
気づけば部屋を充満している彼女の香りに、男は全てを絡め取られてしまいそうだと思った。
男は改めて香りを吸い込むと、自分の中に香りを馴染ませるように息をしばし留めてからゆっくり吐き出す。
「早く咲き誇れ、俺の華……」
男は女の頬に思わず伸ばした手を握り込み、待ちきれないと言わんばかりに熱が漂った瞳で月夜が照らす彼女の寝顔を見続けていた。
新連載始めました。
骨組みはできているので、定期的に続きを上げて行きたいと思います。