28 アメリカにて
アメリカ軍人特有の、きびきびした口調で話す部下。
それを睨みつけ、唸る。
「SR71、ブラックバードを二機、モスボール解除要請だと? ふざけるな!」
「はい、日本、それも、 南からの要請ですが……」
「連中、気でも狂ったのか? いくら実働状態を保つモスボール保存とは言え、退役機を稼働させるのに、しかも、現役時代から24時間の事前準備が必要な機を動かせだと? 実働はどれほど急いでも30時間後、おまけにいくら予算が掛かると思っているんだ?」
「32時間待つというのが向こうの言い分です」
「なんだと……」
「ツボウチが言うには、前回の、こちらが誤解して高校生に発砲した件について、きれいに忘れてくれるそうです。当然、その高校生に弾が掠めて、怪我をさせたことも忘れると。
加えて、日本の警察にある銃刀法違反関係の全書類の破棄、また、こちらの出方によっては、その時こちらで情報収集に使った人工衛星について、逆観測したデータも破棄してやってもいいと」
「してやってもいい、だと? ふざけるな、舐めやがって……」
「で、うちの内部から、応じてやってもよいのではという声も……」
「なぜだ?」
「連中、エンドウとオダを、ロンドンから日本に短時間で戻したいらしいです。エンドウとオダは我々との共同訓練がきっかけで、有力な友人が何人も我が方にいますからね。
作戦自体は、我が国の利益に合致しますし、どうせ、次の選挙でも保守が大勝するのは確実なんですから、たかが数億で売れる恩なら売っておいても損はないかと」
その二人とは、話したことがある。確かに、出来る奴らだったし、友人が多いのも分かる。
「ツボウチに言え。36時間だ。それで飲めなければ、くそくらえとな」
「せめてもの嫌がらせですか?」
「30時間と恩を売る手もあるが、腹の虫が収まらん」
「では、30時間後と回答します。6時間も嫌がらせのためだけにロスしたのが部隊内で噂になると、全体の士気が落ちかねません。繰り返しになりますが、エンドウとオダは友人だという者が結構いるのに加え……」
「まだ、なにかあるのか?」
「あなたに、プレゼントがあるそうです。
千年前の御物だとか」
思わず、自分が鼻白んだ表情になったのを自覚する。
「なぁ、グレッグ、それってサザビーのオークションとかに出すと、百万ドル単位の値がつくやつか?」
「さあ、私には判りかねますが」
「俺が、28時間でやれと言ったらどうする?」
「最初からプレゼントの話をしなかった、自分の判断を自分で褒めます。どうがんぱっても、30時間が限界です」
「相変わらず、人を手の平の上で転がすようなことをする男だな、お前は。
ツボウチに伝えろ、前回のデータの破棄につき、確実な履行を望むと。
三機をモスボール解除、そのうちの状態の良い二機を作戦に回せ。
お前のことだから、パイロットの選定、NATO諸国への根回し、空中給油、フライトプランについては進めているのだろう。それらも確実に終わらせておけ」
「了解しました」
「モスボール解除について、ロッキード・マーティンに無償協力をさせろ。
かわりに、日本でのF-35導入について、こちらからもプッシュしてやってもいいと伝えろ」
一旦決断すれば、対応は極めて早かった。
次回、行動開始




