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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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25 骨を切らせて肉を断つような


 整理しよう。

 美岬が、Xの懐に飛び込むことで、三つの目的が達成できる。


 一つ目は、慧思の祖父の身柄の安全。

 たとえ、使い捨てで殺してもいい人質だとしても、拐うとほぼ同時にその価値がなくなるとしたら、そのまま放り出されてしまう可能性の方が高い。

 人質を殺すのは、人質の管理が大変だからだ。

 管理する間もなければ、殺す必然もない。また、今なら人質が見聞きして得た情報も少なく、その漏えいを防ぐという意味もない。すなわち、弾代の方がもったいない。


 二つ目は、美岬が乗せられた車が判明すること。

 日本では、車の管理が徹底しているから、あっという間に所有者、レンタカーならば借りた人間の身元が判明する。偽造パスポートなりを使って借りたとしても、コピーが残されていればそれがどのような物か判明するし、それによって組織の大元が辿れるかもしれない。

 たとえ、美岬が拉致された後、早い段階で発信機を全て外されてしまったとしてもその車だけは確実に判明するのだ。うちを出た美岬の継続追跡がされていれば、その周囲を付き纏う複数の車の洗い出しも可能だろう。

 さらに、最悪、車から持ち主について判ることが少なくても、Nシステムでその動向自体は追跡し続けることが可能だ。


 三つ目は、Xの居場所。

 Xの居場所が突き止められれば、同時にそこから芋づる式に各ユニット全てが判明する。


 変な話だけど、慧思の祖父が誘拐されたことで、得られるであろうものが多いことに驚く。


 敵にとって、これ、骨を切らせて肉を断つような作戦じゃないか?

 Xは目先の目的に囚われて愚かな判断をしたんじゃないか? そうでないとしたら、Xはどんな手があるんだろう?


 もっとも、得られた全てと美岬を天秤にかけたら、俺自身にとっては美岬のほうがはるかに重い。バランスシートは、まだまだ分が悪すぎる。



 次に、今の状況を敵の立場から見たら、どう見えるだろう。

 これを考えれば、Xの持っている手が推測できる。


 今の状況は、不明の人物を誘拐したら本命が棚ボタに手に入った。しかも、一緒にいたガキに重傷を負わせてだ。

 おそらく、これは想定のうちだ。

 本命を手に入れるために打った手が、より早く実を結んだのだから。

 あ、これ、成功に酔うパターンじゃね?


 うっわ、そうなると、得られた成功に酔うか、用心するかで美岬の扱いが変わる。

 酔っていてくれれば、美岬も俺たちもすっげー間抜けに見えるだろう。用心されたら厳しいけどな。


 って、判った(ユーレカ)!!


 俺は、怪我を盛大に見せびらかさなくてはならない。

 怪我を盛大に見せびらかせば、仲間割れを演出できて、俺たちの間抜けさがさらに際立つ。

 俺たちが間抜けであればあるほど、敵のガードは下がる。


 人質を救うため、愚かにも反対する仲間に重傷を負わせてまで出てきた小娘が、発信機などの追跡機器を持ち込む可能性はどれほどだろう? と、設問自体にも誤りをもたらす。

 この設問だと、追跡機器を持ち込むこと自体がありえないという答えになってしまいかねないよな。


 発信機をまったく持ち込まないと考えるほど、敵もナイーブではないだろう。それでも、俺の怪我の重さに比例して、美岬の安全が、そして美岬の身につけた発信機の残存性が確保されるんだ。



 さらに、もう一つ。

 このまま座して時間が経ち、人質交換という儀式を経るまで対応が遅れたとしたら、相手に準備を整える時間を与えることになり発信機のクリーニング等万全にされてしまう。

 今回、美岬が飛び出して行ったことで、思考の枠を超えて、初めて先手を取れる可能性があるのだ。


 慧思はどうする?

 慧思も、怪我がひどい状態を見せる必要があるのか。

 いや、それはまずい。

 女子が、一人の男を制圧するのは、不意をつけばできる。でも、敵から見て小娘に過ぎない美岬が、二人の男に重傷を負わせたとなると、敵の美岬への警戒が増してしまう。

 慧思は、トイレかなんかで席を外した。美岬は、それをチャンスとして、俺に後ろから襲いかかって、怪我をさせて出てきたという方が自然だ。


 そして、だ。

 敵は、美岬を奪って、その結果、この家の監視はなくなっただろうか。

 いや、そんなはずはない。この家から、俺と慧思が出るまで監視は続くはずだ。俺と慧思も敵すら見れば子供だろうが、それでも武藤佐にダイレクトに繋がるユニットなのだから。


 慧思にどう説明するかだけど、起こしてからの課題でいい。

 って、幸せそうに気絶し続けているけど、水でも掛ければ気がつくのかな、こいつってば。


次回、彼女の覚悟

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