19 覚悟、決断、泣
時間だ。
美岬の母親の声が、MacBookから響く。
「決断はできた?」
「はい」
俺が答えた。そう、俺が決めて、俺が説明し、俺が責任を取る。
だって、それしか……、俺にはできないから。
「TXαは使いません。
セカンドプランで行きます。少なくとも、六年……」
馬鹿野郎、詰まるんじゃねぇ。
「六年は会えないのは理解しています」
泣くな、泣かないでくれ、美岬。
泣くな、泣くな、俺。
「解りました。
その決断を高く評価します。
坪内佐の専門領域だから、全面的に任せて安心です。
美岬、よく決められたわね」
「双海くんがそうした方がいいって……」
美岬、後半は言葉にならなかった。ぐしゃぐしゃだった。
声は出していないものの、握った両手に、雨のように涙が落ちている。
美岬の母親も、何も言葉を重ねなかった。いつも、時間を無駄にしないこの人が、ただの一秒も無駄にしないこの人が、黙っている。それだけで娘に寄り添う想いが伝わってくるようだった。
五分も経った頃だろうか。ゆっくりとした口調。
「美岬。
双海くんと菊池くんにお布団出して上げなさい。もう、そちらの時間からすると徹夜でしょう? 最低でも、六時間の睡眠を取りなさい。実戦でハードであればあるほど、睡眠時間は確保しなさい。
『疲れていて負けた』という言い訳は許しません。オンとオフの切り替え、休憩時間の確保も覚えておくのよ。
おやすみなさい」
……おやすみなさい。
確かに、そろそろ、猶予が24時間を切る。下手すると、これから三日間ぐらい一睡もできないということになりかねない。身を隠す、身分を偽るということが、具体的にどういうことをするのかを俺は知らない。ということは、ハードな行動を前提とするべきだ。
少なくとも、人工衛星を含めた敵味方両方の追跡手段、そのすべてから逃げねばならないのだから。
今、寝ておくべきだということは、頭ではよく解る。
寝てる場合じゃない、という思いだけでは人は戦えない。
でも、最後の24時間のうち、6時間を失うんだな……。
……美岬。
次回、する? しない?




