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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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11 作戦会議、のようなもの 疑惑


 慧思は、一つため息のように息を吐いた。

 そして、ぽつりと言う。

 こういう言い方をするときは、内心の(わだかま)りがあるときだ。特に、心の中で自分の真意を誤解されたくないと思っているときだって、俺にはよく解ってきている。


 「美岬ちゃん、死んでくれないかな」

 はあっ? 何を言い出すんだと一瞬混乱した。

 でも、コイツがこういうものの言い方をする時は、なんかある。

 「相手の能力の限界を掴んだ、と言っていいよな。

 超能力にせよ、詐欺な何かにせよ、相手はすべてを見えていない。美岬ちゃんのかーちゃんの指示を事前に知っているように見せたのも、裏がありそうだ。

 ということは、だ。

 相手が神様じゃなきゃ、騙せるってことだ。

 あいつらがクレヤボヤンスだというならば、その透視通りの光景を見せてやればいい。美岬ちゃんが死ぬことを予知しているというならば、そのとおりにしてやれば良い。

 トラックに轢かれるってなら、豚肉の塊でも何でも代わりに轢かせてやればいいさ。その間に、相手のことを観察するんだ。

 で、その次の瞬間から、俺たちの反撃のターンだ」

 なるほど、作戦の方向だね。一度死んだことにしてみるのも良いかもしれない。


 死んでる間は、安全に生きられそうな気がする。自分で考えておいて、何のこっちゃっていう日本語だな、これ。


 慧思の言葉に、俺も対抗策を思いつく。

 どうも、相手が超常現象を駆使する前提で考えると、無意識に負け犬根性に冒される。

 慧思の言葉は、それを払拭してくれたのだ。

 「神様じゃなきゃ騙せるから、大尉たちへの情報のリークもあったんだろうな。

 敵組織の中にすべてが判る神様がいたら、その組織内で絶対裏切りは起きないしリークもされないよ。

 作戦として、こちらに対して裏切ってみせるというのも考えたけど、あまりメリットがない。裏切りました、味方になりますと言われたからって、こちらがほいほい手の内を明かすはずがないもんな。

 情報提供して、ネゴシエーターになって、両方の組織に対して身の安全を図るというのも、一歩間違えれば粛清の対象だし、ここまでの情報を流さなくても十分役は足りるよな。

 あと、こちらのリアクションをトレースするというのもあるかもだけど、あまり意味がないような気がするんだよね。だって、あまりに重要ではあるけれど、切り札的な内容な情報じゃないだろ、間取りって。でも、それを得る過程は超能力って、ちぐはぐじゃないか?

 当然こちらはびっくりするけどさ。相手としちゃ、現状のようにリアクションなしに静観を決め込まれちゃうと、コストが悪すぎる作戦になっちゃうんじゃないだろうか?

 もしかして、坪内佐もそこまで考えているんだろうか?

 あと、美岬が殺されたふりってのは良い手だけど、誘拐されてからの敵中での安全確保と殺される寸前のすり替えが確実に担保されないなら、作戦として欠陥がありすぎるよな」

 と、畳み掛けるようにここまで話して。

 不意に頭を叩かれたような、衝撃が来た。



 もしかして……。

 「それよか、もう一つ、気になることがあるのに気がついた。

 美岬が言った、固定された視点の問題。

 潜入者は女だった? 小柄な男? 子供? もしくは……。美岬の母親さん自身?

 この場合、本人の意志に反して、もしくは、本人も気がつかないうちに、頭の中から情報を抜き出せるかという仮説になるけど、そんなこと可能なんだろうか? でも、それができれば、美岬の母親さんの指示というのもすべてどうにかなる気がする」

 慧思も気がついたように言う。


 「おい、それができれば、予知だの、透視だのっておとぎ話を除外できるんじゃないか?」

 「そうなんだよ、少なくとも、今回の情報、すべて出所が一つといえるんだ。遠藤さん、小田さんが他のバディを救ったことにしても、他の情報リーク内容にしても、通常の諜報の中でなんとかなる問題だよね。不可解な部分は、武藤佐に集中していないか」

 「となると、超能力というおとぎ話から、かなり現実味がある話が可能になってくる気がするな」

 「ああ、俺たちの常識の範囲内で、何が起きているかを突き止められそうな気がするんだよな」

 「その常識も、お前のはだいぶ特殊だから囚われるなよ」


 そう釘をさしながらも、慧思が、何となく遠くを見るような目で言う。

 「なぁ、部屋の写真を撮ったのも、武藤佐だよな。

 図と写真の視点、高さ一致しているよな」


  部屋の気温が、一瞬にして下がったような気がした。


 「間違いないな……」

 俺、呟く。

 「一年前も、こんな話をしたな、お前さんと。

 情報源が武藤佐だとすると、この検討、なおさら重要だ。

 あの時、検討したのは、嗅覚、味覚、視覚、聴覚、触覚だったっけ?

 で、嗅覚は、どう? わかるか?」

 「判らないな。においで部屋の状況ってのはかなり判るけど、四畳半に置いた机のにおいと八畳間に置いた机のにおいを、武藤佐から嗅ぎ分けるってのは、いくら何でも無理だ」

 「視覚も無理かな……」


 ここで、美岬が口を挟んだ。

 「透視は無理。光学的にあり得ないから。

 それより…… 母が裏切っているという、基本的な検討をしないのはなぜ? 私に気を使ってくれているの?」

 慧思が戯けて返事をする。

 「おんやあ、実の娘がそれを言いますか? 可能性として、それが極めて少ないってのは、美岬ちゃん自身が判っているんじゃない?」

 俺も言った。

 「俺はさ、美岬を守りたい。

 で、その思いとは全く別にだけど、『美岬のことをよろしくお願いします』って、俺に言った人がいるんだよね。俺、その人の思いは裏切れない。何があっても裏切れない。だから、多分、その人も、俺を裏切らない。そんな気がするんだ。

 美岬のことを姫って呼んでいる、遠藤さん、小田さんも、その人を裏切らない。だから、遠藤さんたちも裏切られない。なにがあっても、ね」

 俺も、普通の口調で答えたいと思っていたけど、少し声に熱が入ってしまったようだ。


 だって。

 姉が俺を心配してくれているように、娘を心配している母親(アレ)を裏切れるかよ。

 多分、普通に親がいて、そんなこと考えずに反抗して、喧嘩して、そういう方が幸せなんだと思う。

 でも、さ。俺にはもう、姉しかいないんだよ、肉親は。

 その繋がりには替えがないということに、否応なく気が付かされてしまったんだ。


 美岬の母親が美岬に対して、年に数回しか会えないほど離れているからこそ、俺と同じ感情を持っていることを知っている。だから、裏切らないよ、うん。

 「真、やっぱり強いよね。本当に強いよね」

 だから泣くなって。涙はこぼしていないけど。でも、体香の変化は泣きだ。

 どれほど信じたくても、自分自身まで含めてすべてを疑うことを、できるできないは別として子供の頃から叩き込まれてきた美岬だからこその辛さなんだろう。

 近頃、頑なさが減って、それ、全然できていないし、だから余計に辛いんだ。

 もっとも、そうだからこそ、俺、美岬が頑なにならなくても生きていけるように守らなきゃと思うんだけど。


作戦会議、のようなもの 対象の能力の推定

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