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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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9 俺たちなりの現状分析を始めよう


 坪内補佐から、USBメモリを一つ渡された。

 においからして、新品を開封してファイルをコピーし、そのまま渡してくれたようだ。


 そして、先ほどの坪内佐の部下が再び車を運転し、人工衛星のタイミングを見計らって、俺たちを美岬の家まで送り届けてくれた。


 美岬の家に入る。

 美岬が台所で三人分のお茶を入れた後、部屋の鍵まで掛けるのを、用心深さの表れとしても少しオーバーではないかと驚く。

 前にも座らせられたソファセットに、三人で腰を下ろす。

 やっぱり、熊さんパジャマが可愛い。新品かな、これ。美岬が洗濯した後の匂いがするけれど、見た目、妙にまっさらだ。やっぱり新品で、これを着たいから風呂とか早い時間に済ませたんじゃないか? などと疑う。

 選んだ服がお店で何人に試着されたか判る俺は、買って持ち帰ったら真っ先に洗濯するけど、美岬も同じような行動パターンがあるのかもしれない。



 「この家のモニターはどうなっている?」

 慧思が聞く。

 言いたいことは解る。

 慧思は「つはものとねり」も、おそらくは坪内佐も信用していないのだ。

 いや、信用はしているかもしれない。でも、信頼はしていないのだ。

 確かに、これから三人で作戦会議をするのに、その内容がだだ漏れではお話しにならない。


 「大丈夫。この家は、防音施工で、鉛の板が壁、床、天井に入っているから、電波もX線も通さない。窓ガラスに伝わる音声振動を、レーザー反射で読み取るなんてこともできない。

 あとね、保安システムの有線回線は切れる。もっとも切る前に、切るよっていう連絡をしないと『つはものとねり』の緊急即応体制が発動しちゃうけど。

 でもね、ここからは、『つはものとねり』の誰にも絶対内緒にして。

 家の外周のすべての鍵をかけた上で、台所の照明を点けたままにして、各部屋の鍵をかけると、その部屋に関しては、うちの保安システムのサーバーコンピュータが、疑似情報を監視システムに対して流すモードに入るの。

 前に、お願いして声を録音させてもらったことがあるでしょ? あれを使って、サーバーコンピュータが声紋を真似て、自動的に雑談してくれるから。

 中身はせいぜい、テレビ番組の感想なんだけどね。

 常時ではないし、監視という意味でもなく、ただ生存確認のために聞くのは聞く方にもやっぱり心理的なブレーキがかかるみたいで、聞き流しになっちゃっているから大丈夫だって。

 これがないと、私は母と本音で話ができないし、父と母も話ができないから……」


 えっ、前になんか短い文を、いくつか朗読させられたアレか。

 アレって、こんな意味があったのか……。

 まぁ、家族の雑談まで職場の同僚に公開されちゃうんじゃ、確かにたまらないだろうな。って、俺も慧思も家族同様の信頼度があると認識してもらったのか。

 不謹慎にも、ちょっと心が浮き立つ。


 その一方でさ、美岬の母親って、二重三重に手を打っとくタイプなんだな。

 やっぱり、そういうところって、怖いわ。まだ、それを心強いと考えるほど人間ができていないというか、慣れていないというか。


 現状として、この部屋の情報を外部に伝えるモニターカメラ、マイク類は全部切断、その一方で、それ以外を監視するモニターはそのままデータを送る。

 外部モニターについては、こちらでも監視をする。五十二インチのディスプレイを九つに分割し、それぞれが建物の外、街区、建物の出入り口を映し出す。外は真夜中なのに、思ったより鮮明に映っている。



 とりあえず、用心に用心を重ねる意味で、美岬のMacBookのネットワーク機能を落としてから、USBメモリを差し込む。

 内容は何枚かの写真のファイル、箇条書きテキストファイル、通常の文章のテキストファイル。


 それぞれ開いてみる。

 一枚目から三枚目の写真は、殺風景な部屋のもの。角度を変えて何枚か撮ってある。

 灰色の壁、灰色の床、灰色の天井にむき出しの直管蛍光灯。

 チークとかの高級材ではない、安っぽい木製の机。その上にはMacBook、ファイルがいくつか。

 その前に、簡単な打ち合わせ用スペース。とはいえ、ソファがある訳でもなく、文字通りテーブルと椅子だ。安い食卓用の家具セットに見える。

 美岬の母上様、女性のいる部屋には見えません、ここ。

 この環境で半年なんて、男でも殺風景さに耐えられません。家族の写真は保安上無理だったのは解ります。でも、せめて、花とか飾ろうとは思わなかったのでしょうか。


 四枚目は……、白い紙にサインペンで書かれた絵というか、図。壁の一方から部屋が描かれている。定規は使っていないラフ画。机、応接、机の上のMacBook、その位置関係は、手書きだからそれ相応の誤差はあるものの、確かに写真と同じに見える。

 これが、向こうの透視能力者が描いた図らしい。

 その正確さに驚く。


 そして、次がテキストファイル。

 中身は、箇条書き。

 情報漏れを疑い、その対応手段の指示等、武藤佐の言葉がまとめられている。

 最後に、時系列順に起きたことを記した報告書。


 そか、日本とS国時間とは7時間の時差があるのか。意外だったけど、今の季節、夏時間のパリと夏時間のないS国に時差はないのだ。

 遠藤大尉と小田大尉がリークを受け終わり、情報をまとめて報告したのが向こうの21時、日本時間の04時ということになる。パリにされた報告が、日本に転送されて来たのが1時間後の05時。パリでは、情報の洗い出しを美岬の母親が指示していて、S国の政府高官の裏を突き止めたのがS国の11時。まぁ、21時に情報をリークされても、翌日まで裏の取りようがなかったというのは分かる。その一方で、S国が一般的に何時から動き出すのか知らないけれど、2〜3時間で裏を取ったことになるから、相当急いだのが伺える。

 その時点で日本は18時。坪内佐のところで、人工衛星の監視の外れる時間待ちで2時間、で、20時時過ぎ頃に迎えが来たのか。

 そして、現在、翌01時。


 一年前、この家への多くの車の出入りを衛星で見られたことが、要らぬ介入を呼んだので用心したのだろうな。美岬の登校は問題ないんだろうれど、イレギュラーなことがあると、向こうも介入しなくちゃと思うだろうからな。


 まあ、タイムリミットを相手が三日目と言っているんだから、最短で48時間後から最長で72時間後ということになる。そして、すでに21時間が過ぎてしまっている。

 あと27時間か。

 明日の朝4時前から美岬の危機が始まることになるんだな……。



次回、突破口発見

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