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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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7 安全圏への避難勧告


 「これから美岬さんには、防衛省の施設に移動してもらう。双海君、菊池君についても同等に考えている」

 坪内佐は続けた。

 「君たちの安全を確保するためだ。最大限の警備のために、自由を制限させてもらうこともあるが、是非にも了解願いたい。五日間のことだ」


 しかし……、即座に異議を唱えたのは美岬だった。多分、この提案を予想していたんだろうな。

 「ありがたいお言葉ですが、私は、自宅に帰ります。

 五日で事が済む保証はありません。六日目以降も、何かが起きる可能性はあります。それに怯えて、先々までずっと閉じこもっているわけには行きません。

 母の留守を守るのが、私の仕事です。私の家は、三号配備で作られていますから、一般的な攻撃なら対応が可能です。双海くん、菊池くんについては、守ってあげてください」

 「そんなわけに……」

 までは、俺も慧思も、そして坪内佐も同じだった。

 「いくか」「いかないでしょう」「は、いかない」は、それぞれの語尾。

 俺のは怒り、慧思のは心配、坪内佐は説得。それぞれがちりばめられている。


 美岬の声は、冷静だった。

 「じゃあ、考えてみてください。

 私の家は、飛行機の墜落にでも巻き込まれない限り、極めて安全な造りです。ガソリンを掛けても延焼しませんし、爆薬や武器を持った不特定多数の侵入も短時間では不可能です。また、屋外、屋内も常にモニター体制が整っています。飲料水、食料の備蓄も十分で、母と自分で揃えたものです。

 これから行く場所がどこであれ、それらすべてを他の方が用意してくれたものに依存する方が、よほど危ないと思います。

 また、私の家ならば、私有地ですから他者の排除も法的にも問題ないでしょうが、公共の場所であれば、不特定多数の人の出入りを完全に止めることは不可能でしょう……。

 少なくとも、予言されたからと行動し、相手の罠に飛び込んでしまうという事態は避けたいと思います。私は、オイディプスの父、ライオスではないのですから」


 ギリシャ神話かぁ。

 実用書しか読まなかった美岬が、この一年の間で時間さえあれば人文系の本を読んでいたからなぁ。俺の影響だってのが、こんな場だというのに、ちょっとこそばゆく、嬉しくて、そして悲しい。


 美岬は続ける。

 「それに、今の段階で、この情報はリークでしたよね。確実性に欠ける情報です。

 私の安全の確保を最優先としすぎると、敵機関はターゲットを変える自由を行使する可能性があります。その場合、他の『つはものとねり』人員、その家族、親戚に累が及ぶ可能性が生じます。戦線を広げすぎるのは、愚策ではないでしょうか?

 双海くん、菊池くんについては、要望次第で、守って貰えた方が良いでしょう。肉親も保護されていますし、一緒にいたいでしょう」

 会議室は静かになった。


 女子高生の美岬が、たった一人で自分を囮にするという問題はあるにせよ、美岬の案自体には、確かに一理ある。

 逃げ道を作り、そこに罠を仕掛けるのは基本中の基本だ。踏みとどまるという選択は、少なくともその罠には掛からないで済む。



 思わず、疑問が口をついた。

 「美岬さんの父親は、無事なんでしょうか」

 坪内佐が答える。

 「武藤さんの父上は、JICAに属し、現在トルコでプログラミングの指導をされている。トルコは親日国という事もあり、このことが起きてすぐに父上はトルコ政府の保護下にある。だが、お父上の保護は、こちらの方針とまるで異なる。

 お父上は良い仕事をされていたようだ。

 お父上を慕う人々が、人の輪、人の盾となってお父上をお守りしている。この状態でお父上に手を出す事は、周囲のトルコ人に害が及びかねず、トルコとS国の勢力との問題に発展しかねない。

 また、敵国の要請に対し、そこまでの義理を果たさねばならない(いわ)れは、S国のどの勢力にもない。

 したがって、お父上は当面安全だと見ている」


 すげぇ。

 父親さんてば、どんな人なんだよ。



 坪内佐が続ける。

 「話を戻そう。

 美岬さん自身を囮にするプランは、私も検討しなかったわけではない。

 罠に向けて敵兵力を集中させるのは、兵法の常道だ。相手は、武藤さんの身柄にこだわることで、自らの作戦行動選択を狭めているということは言えるのだ。

 逆に武藤佐周辺に留まらず、誰でも手当たり次第害をもたらすという事であれば、こちらは対応しきれないのも事実だ。

 さらに、武藤さんの言うとおり、武藤佐は、三号配備で自宅を造られている。したがって、われわれの別働隊が駆けつけるのに要する、最大三十分の時間を稼ぐことは容易だろう。

 そういったこともすべてを検討し、督の了解を得た上で、だ。

 未だ我々の正式の構成員になってもいない、十七歳の女子高生を国際紛争の囮に使うことはできない。それが私の最終判断だ。督も私の判断を支持している」


次回、それでも、俺たちは逃げない

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