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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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5 悪趣味にもほどがある


 「最後は、誘拐のために出動する作戦遂行部隊だが、クレヤボヤンスとプレコグニションが可能な人材を含んでいるらしい」

 はあ、なんのことやら。

 あれ。美岬、いきなり緊張しているな。アドレナリンまでは出てないが、鳥肌は立てたようだ。意味解ってるのか?

 「ESPってことですか?」

 美岬の質問に、坪内佐は軽く頷いた。


 えっ、それって、超感覚(Extra Sensory Perception)ってこと?

 頭が働き出して、中学の時に同じクラスの奴が学校に持ってきた、カタカナの沈んじまった大陸の名の月刊誌の記述に、さっきの単語が繋がる。

 クレヤボヤンスは透視、プレコグニションは予知じゃなかったか?

 って、待てや、なんだそれ?

 全員がちぐはぐな服装で、なんとパジャマ姿の女子高生までいて、深夜の国の省庁の会議室で、話題がそれかよ?

 ラノベじゃねーんだぞ。

 一応、ハードな世界で生きているって自己認識しているんだけどな。


 「それって、確実な情報なんですか?」

 美岬に替わって、俺が聞く。

 注意はしてたんだが、うさんくさく思っていることが、表情にも語調にも出たようだ。


 「残念ながら、な。

 今まで確認されたことを伝えておく。

 一つは誘拐されたバディの救出された位置、次はS国の政府高官の人脈情報、結果として裏が取れた。したがって、遠藤大尉たちにコンタクトをとってきた男の情報確度は、極めて高いと考えざるを得なくなった。

 となると、超能力うんぬんという話も一笑に付すというわけにはいかない。

 もっとも、それが我々、『つはものとねり』全体に対する罠という可能性は無視していないがね。

 それに、私からすれば、君たちの能力もたいして変わらないと思っているんだが」


 ちょっと、その言い方はないよな。化け物扱いされた気がする。

 「いいえ、一緒にしないでください。

 私たちの能力は、あくまで生物学や医学で割り切れる範囲にあります。遺伝子上でも、人類にありうる能力です。むしろ、私たちと同じような、単に通常の五感のどれかに秀でた力を超能力と偽っているんじゃないんですか?」

 思わず、抗議の口調になってしまった。

 「その可能性も否定できない。だが……」

 今度は、何を口籠ってるんだ?

 「なんでしょう?」

 催促する。

 口籠るというより、表現に困っているのだということに気がつく。

 おそらく、超能力うんぬんをあり得ることだと言うことで、自分自身の認識までを疑われるのを恐れているのかも。

 確かに、謀略だとしても悪趣味にもほどがあるよな。

 対応する方に、思わぬ内部分裂を誘発しかねない。


 「証拠を突きつけられている。

 遠藤小田両名は、高度に秘密保持をされているはずの、武藤佐の潜伏先の部屋内部を描かれたものを渡されている。

 潜伏先の所在はともかく、その部屋の中までを知られるというのは、通常あり得ないことだ。

 加えて、だ。予知事象として、遠藤小田両大尉が武藤佐に報告したときに、武藤佐がどのように反応し、どのようなことを指示するかを正確に記された文書を渡されている。

 残念ながら、武藤佐の反応は、事前に渡された文書と一致した」

 「それは、『言いそうなことをまとめていたので、結果として一致した』ということではないのですか?」

 慧思が初めて口を開く。

 こういう謎は、慧思とブレーン・ストーミングできれば、大抵は解決できると俺は思っている。


 「いや、それもないのではないか。

 君たちに言うのも今更だが、武藤佐は優秀だ。

 通常の指揮官が下す指示とは、一線を画する。それが、他の組織に対してアドバンテージを得てきたことに繋がっている。

 状況に対して臨機応変に対応し、過去の例に縛られない。

 常に相手の一枚上を行き、二枚上を行かない。したがって、武藤佐の思考パターンは表れにくい。つまり、過去の例から未来を推し量りにくいということだ。

 だが、その指示のほとんどすべてを、事前に文書にされている。そして、もう一つ重要なのは、指示しなかったことは書かれていないということだ。

 これは、予知や透視というおとぎ話も、考慮しないわけにはいかなくなったということだ」

 坪内佐は、ここで一息置いた。


 美岬が追求する。

 「おそらく、もう一つあるんじゃないですか? 言わなくてはならないことが」

 坪内佐の、微妙な体温変化から読み取ったのだろう。

 俺にも分かる。坪内佐、冷や汗かいてる。アドレナリンも。なぜ、全てをさっさと明かさないんだ、この人は。

 そもそも、そうそう動揺するような人じゃないだろうに。

 まぁ、普通の人間だったら、絶対に見抜けない範囲とは思うけど。


 「降参だ。単刀直入に言う。

 武藤美岬さん、我々がS国から手を引かなければ、先程言ったように、君は誘拐される。向こうが予告してきた、いや、予知しているという事象としては、三日後に君の誘拐、こちらに取引が持ちかけられる。そして、そのことで我々が折れることはない。それにより、五日目、君は命を奪われる。

 トラックに轢きつぶされ、跡形も残らないそうだ。

 ここまでが、未来として確定している事象だと向こうは言っている。国同士としての交渉は、その後から始めようというのが、相手機関の言い草だ。

 それが連中の言う未来で、こちらに対する現時点での圧力のすべてだ」

 「それは意味がない行動です。おっしゃるとおりならば、美岬さんを誘拐すること自体がナンセンスです」

 慧思が言う。


 坪内佐は答える。

 「現時点での、と言ったはずだ。

 今回の件は、敵からしたら、あくまでモデルケースに過ぎないという意味だ。真意としては、次からは、要人およびその子息がターゲットになるぞと言っている。

 今回は、未成年の民間人を人質にとることで、より倫理的な問題を増大させ、我々への挑発としている。一方で、これは、君たちには申し訳ないが、女性一人を失うだけの政治的には軽微な手段だ。

 これが意味することは、実力誇示と警告だ。

 この手による交渉が始まってしまったら、こちらはずるずるとどこまでも譲歩を続けねばならなくなる。

 無駄な抵抗はやめ、事態が始まる前に、譲歩を決断しろということだ」

 坪内佐は、一気に言うと虚空を睨んだ。


次回、バディとしての覚悟

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