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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第四章 17歳、夏(全49回:アクション編)
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1 中東の古い国で

双海 (しん)    高校二年生。姉と二人暮らし。一千万人に一人の嗅覚を持つ

武藤 美岬(みさき)   高校二年生。サイコパスの疑いが解け、クラスに馴染んでいる

菊池 慧思(さとし)   高校二年生。俺が命を預けられる相棒(バディ)

武藤 美桜(みお)   兵衛佐。実動部隊の長。パリに赴任中。美岬の母親。

遠藤 猛志(たけし)   兵衛大尉。特殊作戦群出身。中東に赴任中。

小田 勇人(はやと)   兵衛大尉。特殊作戦群出身。中東に赴任中。

坪内 玄祥(げんしょう)   兵衛佐。国内維持管理部隊の長。表の顔はキャリア官僚。

双海 真由(まゆ)   真の姉。二十歳。OL。自衛隊員たちの女神。

菊池 弥生(やよい)   慧思の妹。中学二年生。

菊池 慧雲(けいうん)   慧思の祖父。僧侶。

近藤 和美(なごみ)   高校二年生。慧思の片思いの相手。

武藤 純一(じゅんいち)   美岬の父親。トルコでJICA活動中。クマが人の皮を被っているような大男。



 中東のS国。

 風は砂を巻き上げ、黒っぽく痩せた土地を露わにしている。

 灰色がかった茶色い町並みは、昔はそれなりに緑が多かったことを偲ばせているが、内戦による荒廃は目を覆わんばかりだ。イスラム法に従って、遠来の客をもてなす余裕は既にない。


 「つはものとねり」の大尉である遠藤は、背中にのしかかる疲労と戦いながら、首から下げた重いカメラを投げ捨てたい誘惑と戦っていた。

 報道関係者の身分証明を身につけているが、カメラとともにカムフラージュの小道具である。


 日本は梅雨開け時期だろう。

 どれほどじめじめして蒸し暑くても、砂漠よりはまし。日本人の身体はそうできているなどと、思考が下降線を辿る。

 この地に来てから、すでに七ヶ月が経つ。その間も、この国の荒廃は進む一方だった。


 去年の今頃は、バディの小田とともに、上司が高校生を問い詰めるのを眺めていた。その高校生、双海真はものわかりがよく優秀な生徒になった。半年後、菊池慧思(サトシ)が加わり、生徒は元からいる武藤美岬と合わせて三人に増えた。菊池も優秀で、飄々とした外見に似合わずガッツがあった。

 十代で実戦を経験した三人の姿勢のひたむきさと、それによる訓練の成果は目覚ましいものがあった。

 三人は遠藤にとって、内心、弟、妹同様の存在になっていた。


 学校の冬休み利用した彼らの訓練を終えた夕方、成田からロンドンを経由してこの国に入った。もちろん、小田も一緒だ。

 高校生の訓練の面倒を見るのはあくまで余技なので、本業は早朝、昼食時、そして夜中にすることになる。訓練している高校生たちに弱みは決して見せないが、さすがに疲れが溜まっていた。

 飛行機に乗ったあとは、機内食以外の時間を寝とおすことになった。


 彼らの上司である武藤佐は、すでに数日前にパリに飛んでいる。

 他のバディたちも、順次、中東とヨーロッパの各国に散ったが、紛争中の国に飛び込むのは、武藤佐の副官格の男のバディと遠藤小田のバディだけだ。



 このS国では、大統領直属の秘密警察がホテルの部屋および電話の盗聴を行い、ネットの閲覧記録、メールの内容に至るまですべてが監視されている。

 これは、内戦とは関係なく以前からのことで、この国の女性を買った観光客がホテルの部屋に踏み込まれるのはデフォルトだった。

 イスラム法に抵触しない売買春は、然るべき手順が必要なのである。

 だが、実は踏み込まれない方がもっと恐ろしい。

 弱みを握った秘密警察が、自国に帰ったあとでも永遠に付き纏うからだ。


 内戦中の今、その体制はさらに強化されているだろう。

 なので、小田とさえ、日本を出る前に打ち合わせた隠語を使用したものを除けば、内容のある話ができていない。

 今思えば、無頓着に笑えたのも、地面にへたり込んで動けない三人に訓練完了を告げた半年前が最後だ。



 この国の状況をより単純に説明するならば、体制側と反体制側はそれぞれ、東側と西側がスポンサーとなっている。

 遠藤と小田の任務は、体制側を援助する東側諸国の具体的な人脈を洗い出すことである。

 そして、人脈構造の割り出しは、カウンターインテリジェンスの基本であった。


 なお、この仕事自体は、表向きはアメリカの諜報機関からの依頼(下請け)である。

 「つはものとねり」は、世界最古の諜報機関であり、対アメリカとしても正式に国交を結ぶ以前、1846年から二国間の調整を行ってきた。

 なので、その歴史は百七十年を越える。

 その関係(腐れ縁)から、下請け調査の依頼も受けざるを得ない。

 当然、必要経費の請求書はそちらに回すことになる。


 もっとも、「つはものとねり」自身の本音は別のところにある。

 この組織の存在意義は、南朝系の血を引く帝を守ることである。

 今の日本を他国が戦争で破壊し得たとしても、権威・権力のバックアップたる存在と組織が残れば、この国の再建は容易であり王朝も歴史も断絶しない。

 だからこそ、表の権力よりも危険な状況に置かれやすいともいえた。目立たないバックアップから叩く方が、単純に成功確率が高いからだ。

 極東のパワーバランスが大きく変動を続けている中で、部隊を送り込んできたアジアの大国もあるのだ。


 そして、その大国がS国の内戦の体制側スポンサーであることが判明した。

 ならば、この地でカウンターを打つことは、日本国内を戦場にしなくて済むという大きな利点が望める。また、それによりS国の内戦終結を早められれば、なお良い。

 しかも、活動資金が自腹である「つはものとねり」は、調達可能な額は限られていた。必要経費の水増し請求書をアメリカに回せることは極めてありがたい。

 そのような事情から、「つはものとねり」のトップは、積極性を隠し、かつ恩着せがましく依頼(下請け)を受けたのである。


 本来ならば、国として表の機関が対応すべき事案であった。しかし、現在、公式かつ表の諜報機関は動けない状況にある。

 政権交代で生じた傷を癒やし、その能力を徐々に取り返しつつはあるものの、フル稼働するにはまだまだ時間が必要である。


次回、襲撃? 交渉?


第四章開始です。戦闘多めです。

引き続き、よろしくお願いいたします。


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