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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第三章 16歳、文化祭(全10回:学園編)
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10 祭りの終わりに


 紺碧祭終了。

 「純益、十六万円を突破しました! 一人当たり、四千円の配当です!」

 男の方のクラス委員、近藤君が高らかに発表する。

 起きる拍手、跳ねる女子たち。


 おお、素晴らしい。

 結構、中心で動いていたから、赤字が出たら責任を感じざるを得なかった。

 ほっとしたよ。


 お客も多かったけど、それ以上にバウムクーヘンの持ち帰りがたくさん売れた。二日目は早朝から焼き貯める必要があったけれど、持ち帰りの人は一人で五個とか買ってくれるから、売上が一気に伸びたんだよね。

 客単価、想定の二倍以上に伸びたんだぜ。

 レシピを教えてくれたシェフに、お礼しに行かなきゃだよな。 



 − − − − −


 後片付けも終わっての帰り道。

 明日、学校は代休。

 なので、大きく遠回りになるけど、美岬を家まで送る。

 「文化祭の残務処理の打ち合わせをしていた」という、言い訳もできるし。


 二人で自転車を押しながら、稲穂が揺れ、新米の香り漂う田んぼの中の農道を歩く。

 夕焼けが綺麗だけど、俺たちは東に向いて、長く伸びる自分の影を踏んで進む。

 「あれだけ配当が出れば、クラスのみんなでお茶会もお食事会もできるよね」

 「東京ぐらいならば往復できるし、何してもいいけど、夢、広がるなー」

 心地よい、熱気の残りがまだ体内にある。


 「あの二人、やることが早いよね。もう、メールで届いたんだよ」

 「俺を射殺する作戦?」

 はあ。

 他に、なんて言えばいいっ!?

 どっかの漫才師みたいな勢いで思う。

 すごいよね、早いよね、とか言うのは、なんか、とてつもなくヤダ。


 「ずっと見たかったんだよね」

 「なんで、また?」

 「私、嘘、上手くなったよね」

 美岬が何を言いたいのか、わけが解らない。

 「あのね、本当は真の行動分析、真に対する作戦実働時の留意点が読みたかったのよ」

 「そこなん!?」

 「決まってるじゃない。マンウォッチングのプロの分析は、絶対役に立つはずなんだから」

 「何の役に?」

 「真と一緒にいるためだよ」

 美岬にストーカー気質はなかったはずだけど。

 あ……、普通の視力しかない俺でも判る。美岬の耳が、真っ赤だ。夕日だけのせいじゃない。


 「俺は、美岬が見たそのまんまだよ。そんな分析、必要なの?」

 「うん。必要。

 真も私も、これからも変わっていくんだと思う。成長していかなきゃだから。

 私は、どう変わっていけばいいのかな? なんだよ。真のためにね。

 そしたら、真、いなくなっちゃわないよね。

 ずっと、一緒にいてくれるよね」

 無邪気な声。

 そか、美岬のことだ、ストーカー寄りの発想じゃないよな。


 まぁ、ちょっと世のJKたちとは、常識がずれてはいるんだろうけれど。


 ……自転車、邪魔だな。こいつがなかったら、美岬を抱きしめられるのに。

 って、こないだは敵を足止めさせる道具になってくれたばかりなのに、俺も現金だよな。


 「いなくなんかならないよ」

 美岬、見えてるだろ……、俺も相当に顔が熱い。ごまかせるとは思わないけど、それでも、夕日の逆光がありがたい。

 「遠藤さんにも小田さんにもばれなかったよ。作戦記録を読みたい本当の理由」

 そだね、あまり嘘が上手くなって欲しくはないけどな。

 ああ、こんな時、照れると口が重くなる自分が歯がゆい。



 「ねぇ、うちについて自転車置いたら、握手してくれる?」

 「実は、握手をしない自由が、美岬にはないんだ。俺、握手券、持ってきたから」

 「もしかして、同じこと考えてた?」

 「どうだろう? ふっふっふ、握手券、まさか束で持ってきたとは、美岬も思ってないだろ?」

 「うん。

 最後は、真とたくさん手を繋がなきゃ、だもんね」

 美岬の綺麗な笑顔が、夕日の中で輝いて見えた。


この章、終わりです。

お付き合い、ありがとうございました。


引き続いて第四章、「17歳、夏」に入れればとは思っています。


評価とか入れて頂けると励みなります。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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