10 祭りの終わりに
紺碧祭終了。
「純益、十六万円を突破しました! 一人当たり、四千円の配当です!」
男の方のクラス委員、近藤君が高らかに発表する。
起きる拍手、跳ねる女子たち。
おお、素晴らしい。
結構、中心で動いていたから、赤字が出たら責任を感じざるを得なかった。
ほっとしたよ。
お客も多かったけど、それ以上にバウムクーヘンの持ち帰りがたくさん売れた。二日目は早朝から焼き貯める必要があったけれど、持ち帰りの人は一人で五個とか買ってくれるから、売上が一気に伸びたんだよね。
客単価、想定の二倍以上に伸びたんだぜ。
レシピを教えてくれたシェフに、お礼しに行かなきゃだよな。
− − − − −
後片付けも終わっての帰り道。
明日、学校は代休。
なので、大きく遠回りになるけど、美岬を家まで送る。
「文化祭の残務処理の打ち合わせをしていた」という、言い訳もできるし。
二人で自転車を押しながら、稲穂が揺れ、新米の香り漂う田んぼの中の農道を歩く。
夕焼けが綺麗だけど、俺たちは東に向いて、長く伸びる自分の影を踏んで進む。
「あれだけ配当が出れば、クラスのみんなでお茶会もお食事会もできるよね」
「東京ぐらいならば往復できるし、何してもいいけど、夢、広がるなー」
心地よい、熱気の残りがまだ体内にある。
「あの二人、やることが早いよね。もう、メールで届いたんだよ」
「俺を射殺する作戦?」
はあ。
他に、なんて言えばいいっ!?
どっかの漫才師みたいな勢いで思う。
すごいよね、早いよね、とか言うのは、なんか、とてつもなくヤダ。
「ずっと見たかったんだよね」
「なんで、また?」
「私、嘘、上手くなったよね」
美岬が何を言いたいのか、わけが解らない。
「あのね、本当は真の行動分析、真に対する作戦実働時の留意点が読みたかったのよ」
「そこなん!?」
「決まってるじゃない。マンウォッチングのプロの分析は、絶対役に立つはずなんだから」
「何の役に?」
「真と一緒にいるためだよ」
美岬にストーカー気質はなかったはずだけど。
あ……、普通の視力しかない俺でも判る。美岬の耳が、真っ赤だ。夕日だけのせいじゃない。
「俺は、美岬が見たそのまんまだよ。そんな分析、必要なの?」
「うん。必要。
真も私も、これからも変わっていくんだと思う。成長していかなきゃだから。
私は、どう変わっていけばいいのかな? なんだよ。真のためにね。
そしたら、真、いなくなっちゃわないよね。
ずっと、一緒にいてくれるよね」
無邪気な声。
そか、美岬のことだ、ストーカー寄りの発想じゃないよな。
まぁ、ちょっと世のJKたちとは、常識がずれてはいるんだろうけれど。
……自転車、邪魔だな。こいつがなかったら、美岬を抱きしめられるのに。
って、こないだは敵を足止めさせる道具になってくれたばかりなのに、俺も現金だよな。
「いなくなんかならないよ」
美岬、見えてるだろ……、俺も相当に顔が熱い。ごまかせるとは思わないけど、それでも、夕日の逆光がありがたい。
「遠藤さんにも小田さんにもばれなかったよ。作戦記録を読みたい本当の理由」
そだね、あまり嘘が上手くなって欲しくはないけどな。
ああ、こんな時、照れると口が重くなる自分が歯がゆい。
「ねぇ、うちについて自転車置いたら、握手してくれる?」
「実は、握手をしない自由が、美岬にはないんだ。俺、握手券、持ってきたから」
「もしかして、同じこと考えてた?」
「どうだろう? ふっふっふ、握手券、まさか束で持ってきたとは、美岬も思ってないだろ?」
「うん。
最後は、真とたくさん手を繋がなきゃ、だもんね」
美岬の綺麗な笑顔が、夕日の中で輝いて見えた。
この章、終わりです。
お付き合い、ありがとうございました。
引き続いて第四章、「17歳、夏」に入れればとは思っています。
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