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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第三章 16歳、文化祭(全10回:学園編)
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1 文化祭、クラスでなにしようか?

短編です。

この章は、学校が舞台です。


 高校で初めての文化祭、その初日。

 ちょっとどころではない。かなり、いや、おもいきりテンション、MAXだ!!

 だって、模擬店とか、中学の時はできなかったもんな。

 でも、そこじゃない。


 俺、双海真と武藤美岬は、夏休み前にクラスの文化祭実行委員に選ばれた。

 それをきっかけに俺は、自分の嗅覚という特技があだになって、美岬のプライベートに踏み込むことになってしまい……。

 拉致され、命を張ってその場は生き延びたものの、終いには実弾で撃たれ、耳の端っこをちょこっととはいえ吹っ飛ばされた。時系列を省略して言うと凄いな。

 ま、月並みな言い方だけど、人生の大転換を強いられたんだ。

 もう普通の生き方はできないだろうし、バランスシートは誰から見ても、真っ赤かもしれない。

 でも、俺は、満足している。だって、美岬がいるから。


 撃たれてから、一ヶ月。

 普通の高校生として文化祭に参加できることが、今は素直に嬉しい。テンションだって上がるよ。




− − − − −



 文化祭実行委員は学校全体の割り振りされた役割分担だけでなく、クラスの模擬店の仕事もいろいろ押し付けられてしまうので、予想通りなかなかに忙しい。

 体が二つ、いや三つあってもいいな。

 というのも、クラスの模擬店は、バウムクーヘンとコーヒー紅茶のカフェで、そのバウムクーヘン担当になってしまったからだ。これにも紆余曲折があった。


 紺碧祭はこの高校が男子校時代からの伝統の行事で、展示は文化部、模擬店は運動部という棲み分けがされていた。で、今でもその傾向があるので、クラスでなにかをする例は多くない。

 だというのに、そんな案が生まれてしまったのは、俺のせいらしい。


 夏休み前に、クラス全員へ鯛焼きの大盤振る舞いしたのが祟ったのか、「双海に、鯛焼きを焼かせればいいんじゃね?」というのが、いつの間にかクラスの総意になっていた。それで、甘味処やるって。

 で、儲かったら配当が期待できるって、そんな話まで……。いや、むしろそれが話の中心だ。


 んなこた、聞いてねーぞ。

 そもそも、鯛焼きだって、俺が焼いたわけじゃねーっつーのに。



 仕方なく、その時に鯛焼きを焼いてくれたイタリアレストランのシェフのところへ、美岬と一緒に道具を貸してもらう交渉に行ったのだけど、さっくりと断られた。

 「うちは、鯛焼き屋じゃねーんです。あれ以来、おたくの高校の生徒がわんさか買いに来て、趣味の範囲を超えちゃって、本業に差し支えてるんだよね。そりゃ、黒字は出ててありがたいけど……」

 そう、にこにこしながら言われると、何も言い返せなかった。

 「それで、えっとね、今来てくれているお客の分はいいんだけど、一応、俺ってば、イタリアンのシェフなんです。こんなんでも」

 あ、顔がマジになった。


 そりゃ、そうだろうなあ。

 こんなんでもって言うけど、食べ□グで、いつだって市でベスト3に入っている、スパゲッティ屋じゃなくて、コースとアラカルトのリストランテだもんな。


 なお、俺が子供の頃からの知り合いのシェフなので、口調は、砕けたものになったり客に対するものになったり、安定しなくて可笑しい。あと何年かたったら、もう二度と口調は砕けたものにならないのかと思うと、ちょっと寂しい。


 で、鯛焼きはダメだけど、と、シェフはいい代案を出してくれた。

 「教室で調理するんだと油煙は出せねーんでしょうから、スイーツが良いなら、バウムクーヘンをその場で焼いて見せたらどうです?」

 「えっ、あんな綺麗なお菓子を焼くなんて、できるんですか?」

 思わず、美岬が聞く。俺も、同感。

 作り方の想像もつかない。


 「レンタルで、電気のバウムクーヘンオーブンがあるんです。借り手がいないって、この間、遊びに来た営業がこぼしていたから、安く借りられるでしょう。

 生地は、真がいるなら調合しちゃえばいいでしょう。レシピは教えるからさ。

 これなら直火じゃないから、校内でやりやすいと思いますよ。

 おまけに、鯛焼きだと一つ作るのに一工程だけど、バウムクーヘンは一工程で三十人分くらいは作れるから随分楽かなと。

 祭りの場ってのは、客を待たせちゃダメなんですよ。

 だから、事前に何本か焼いときゃ後は切るだけだし、焼いているところはクルクル回って派手だし、すごくいい匂いがするから客も引っぱれるし。

 コーヒー、紅茶はその場で入れるにしても、メインに手間がかからないってのは楽です。

 それでいいなら、レンタル屋には口を利いてあげますよ」

 本当はシェフ、付け焼き刃じゃ鯛焼きは無理って言いたかったのかもな。確かに、十個いっぺんに注文きたら、俺、パニクる自信あるもん。それを婉曲に教えてくれて、ありがとうです。


 でもさ、代案の方が良くないか? 実際。

 クルクル回ってって、そうか、回転軸の周りに、生地を回しつけながら焼いていくのか。

 なるほどなぁ。

 面白いかも。


 この話のあと、シェフは、美岬にティラミスの大盤振る舞いをしてくれた。

 俺は幼い頃に、鋭い嗅覚が災いして、常人には感知不能な異臭を感じては体調を崩していた。それをシェフは知っているから、「犬並みの嗅覚を持つ真ちゃんに、普通の青春ができるとは思っていなかった」らしく、彼女を連れて来たと大喜びをしてくれたのだ。

 いや、美岬との関係は、ちっとも「普通(・・)の青春」じゃねーんだけれども。

 それでも、青春(・・)は青春なんだろうなぁ。


 ま、とにかく、美岬が彼女だってことは、クラスのみんなには内緒だ。シェフにも、そのあたりは釘をさす。同級生も鯛焼き目当てで結構出入りするからな、ここ。

 校内では、隣のクラスで中学の時からのツレ、慧思(サトシ)しか知らないことなのだ。


次回、模擬店準備



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