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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第二章 連理比翼、ハレー彗星の年より(全14回:昭和の純愛編)
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13 人生の奪回


 「ありんこ」

 わしゃわしゃと美桜が、武藤の右の前腕を手のひらでかき回す。

 毛と毛が絡まって、何匹かのアリが腕の上を這っているように見える。

 ベッドの上。


 武藤は美桜を抱き寄せる。

 「いたずらばっかするなぁ、美桜は」

 「十年分、取り返さないとだもん」

 視線を合わせた、美桜の目が青い。

 表情は明るく、血色もよい。

 「それでも、かなり取り返したかな」

 「いーや、まだまだ」

 わしゃわしゃ。今度は武藤の左の前腕にアリが生まれた。

 「次は、何を取り返す?」

 「しばらく、一つだけしか取り返せなくなっちゃった」

 「なんで?」

 美桜の回答には、一呼吸の間が空いた。


 「赤ちゃんができたから」

 「本当かい? 一緒に診てもらっている先生からは、かなりハードルが高いと言われていたのに……」

 「そうだよね。生理が止まって六年? 七年? で、復活する間もなくご懐妊なのです」

 「ごめん、涙が出てきた。嬉しくて嬉しくて、笑えなくてごめん」

 「大丈夫、涙もろいのは十分に知っているから」

 「じゃあ、両家の挨拶ってのをしなきゃだけど、これがまた二つ目のハードルだなぁ。美桜、死んじゃったことになってるし」

 「だから、赤ちゃんを先に作っちゃった」

 「さすが、策士だな」

 組織の中でも、美桜の作戦立案能力は飛び抜けているらしい。だが、このプランはいささか稚拙で、そして狡い。


 「同名の似た人ということで、押し通します」

 「それしかないよなぁ」

 ため息。

 アニメじゃなし、生き返ったという設定は不可能だ。


 「でね、赤ちゃんが産まれたら、家が欲しいの」

 「大きく出たなぁ」

 「敵の侵入を許さない、セキュリティが万全な家が。この子のために」

 「反省を活かすんだね」

 「ええ、おそらく、この子は女の子。だから、しっかり守らないと」

 「そうか、じゃあ、ローンを組まなきゃって、その前に、僕、仕事を探さないとだよ」

 「石田さんが持ってきてくれた、コンピュータのプログラムの仕組みを教える仕事でいいじゃない。それに、石田さん、コンクリートで足を固めたお詫びに、無利子で融資もしてくれるって」

 「じゃあ、うんと大きい家を建てよう」

 「うん」



 「でもね、家より、名前考えるほうが先だと僕は思うよ」

 「名前は考えているのがあるの」

 「ん?」

 「この子には、私の世界から飛び立って欲しいの。もう、この世界ではないところで幸せを得てもいいよね、うちの一族も」

 「そのとおりだね」

 「だから、ここから踏み出せる名前がいいの」

 「『その先』だね。」

 「御先(みさき)とか」

 美桜は指先で空中に記す。

 「良い名前かもしれないね。ただ、字は宿題だな。御先だと神様になっちゃうから」


 「教育もね、がんばる。私の失敗はさせないたくないからね」

 「僕が何かを教える余地はあるのかい?」

 「私に教えてくれたように、たくさん教えてくれなきゃ」

 「じゃあ、『考えることを』だなぁ」

 「そう、そこから全て始まったの」


次回、引き継がれる瞳


次回で第二章、終わりです。

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