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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第一章 16歳、入学式〜夏休み明け(全42回:推理編)
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4 推理、その1


 バカサトシが、五時限目終了の休み時間にやってきた。いつものように、いつものごとく、他のクラスに入るという抵抗感みたいなものも全く感じてもいないげに、だ。


 というか、いつも自然に入ってくるから、それがクラスの中で変に馴染んじゃっているというのもある。

 こいつ、恐ろしいことに、同学年の6クラスで、どこでも濃くなく薄くなく同じ扱いだ。

 もしかしたら、特例的に濃いのは、俺に対してだけか?

 なんか、それはそれでマジでやだなぁ……。


 「聞いたぞ、卵焼き、貰ったんだと?」

 いつものように単刀直入だけど、ひそひそと言う。

 俺もつられて小声になる。

 「噂、早いな。俺は、もう、びっくりしてびっくりして」

 「そりゃそうだろうな。で、どうだった?」

 「素晴らしかった。

 材料は同じものを揃えられるが、肝心の焼きの腕で俺の負けだな」

 「バカが、そっちじゃねぇ! いきなり卵焼きのことを語ってんじゃねぇよ」

 あ、目が三角になったな。


 「解っているよ。極めてまともだ。俺はそう思う。これで、彼女が異常だと言うのなら、極めて特殊だ」

 「なにが言いたい?」

 「だし巻き卵だよ」

 と、あえて返す。サトシが目で先を促した。


 「たいてい、心を病んでいる奴ってのは食が、いや、食も歪んでいると思う。内心の歪みが、なにを食べるかと言う選択にも現れるんじゃないかと思う。ましてや、自分で作って自分で食うとなれば、その歪みがむき出しに現れると思うんだ。

 だから、まともなものを、いや、まとも以上なものをまともな量、きちんと作って食っているとしたら、本人が作るにせよ、家族が作るにせよ、まともな人格なり、環境を意味しないか?

 ということは、食を超越したところの何かに依存しているとんでもない奴か、逆に誤解を受けているまともな奴か、と」

 「そんな単純なものじゃないだろうが……。でも、言いたいことは解った。お前の言うとんでもない奴ってのは、食を超越しているんだから、生き物としてあくまで基本的には存在しないな。となると、消去法でまともな奴という結果になる。

 だが、食以外に、性にも依存できるぞ、生き物は」

 「俺が(・・)、それを判らないと思うか?」

 サトシは、心底呆れ返った表情を作った。

 「時々、お前ってホント最低だな。マジで妹に近づけたくないわ」

 どうやら、自分自身のことも判られていることまでは気がついていないらしい。

 俺も、言うつもりはないけど。


 「薬物はまあおくとして、金に依存とかってのはどうなんだよ?」

 「この場合、どっちも、色ボケ以上に想像ができんわ。

 詳しくは言わねぇけど、ありゃあ、自制心のかたまりだぞ」

 サトシは一瞬天井を仰いだ。

 「そうか。……ただ、油断するなよ。

 例えばだ、彼女が異常だとしたら、それも、より賢い奴だったら、踏み込み位置できっちりお前を落としいれてくるかもだぞ」

 「解っているつもりだ。ICレコーダー、持ち歩くよ」

 「安心した。卵焼きで骨が抜けていたら、どうしようかと思った。

 で、ICレコーダーなんて、オマエ、持ってるんか?」

 「親の事故の示談の時に使ったからな」

 サトシは「しまった」という表情を一瞬見せた。

 俺は、気にするなと、親指を立てる。


 チャイムが鳴り出して、サトシは自分の教室に戻ろうと歩き出す。

 でも、人の噂ってのは微妙に面白いな。だし巻きが卵焼きに化けていやがる。


次回は、文化祭実行委員会〜。

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