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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第一章 16歳、入学式〜夏休み明け(全42回:推理編)
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39 中央突破


 視界が確保できないためだろう。敵のバディは、互いの距離を広げて追い込みに来ている。でも、広げ過ぎだ。お互いが視認し続けられないだろ、それじゃ。

 それとも、日本の墓地を知らないのか?


 一見、日本人に見えたけど、外国人か、外国育ちならば日本の古い墓地の乱雑さと、墓石の高さを知らないということはありうる。


 それにしても、あと九分か、長いな。


 油断はできないけれど、有利な材料も少しずつ見えてくる。

 奴らのアドレナリン臭の強さ、行動から、その考えが手に取るように判る。


 

 武器を持たないガキを、男女一緒にいて腑抜けている高校生を狩るつもりなのだ。そのために、網を広げたつもりで、こちらが能動的に行動するとは微塵にも思っていない。

 確かに油断もしてはいないようだけど、間違っても追い詰められた人間の体臭ではない。狩りを楽しんでいる。

 俺たちの今までの対応に、本当ならば警戒しなければならないのに、ちょっと気が利く高校生程度と舐めた見方をしている。

 だから、墓石の陰で震えている俺たちを、発見できると疑っていない。

 ということは、どのような組織が襲って来たにせよ、下っ端が来ているということだ。遠藤さんと小田さんは、単なる高校生に過ぎない俺に対して、全く手を抜かなかった。そういう徹底した姿勢を取れないということは、精鋭とはいえなかろ?


 頭の中には、いろいろの思考が同時に走り続けている。

   この場を制御し、だし抜く。

   手玉に取ってやる。

   俺ってスゲェ。

   そのつもりで油断して、撃たれたりして。

   舞い上がるな、慎重に行け。

 そして。

 最後に、訓練の時の鬼遠藤の記憶がドヤかしてきた。

 「考えろ、考え込むな! 目的を忘れず、そこに向けて最短距離を走れ!」と。


 塀に囲まれた墓地の奥には、小さな通用門があって外に出られることは知っているけど、前回来た時は鍵が掛かっていた。さらに、その辺りは墓地も狭くなっているので、遮蔽物も少ない。

 なので、奥には行かず、あえて、二人の真ん中の突破を試みる。


 あえてというけど、一番安全と判断。二人の間が開いていることから、死角が大きい。二人の位置が正確に判っている以上、その死角を辿るのは難しくない。

 ま、嗅覚による位置情報がなければ、タイミングを取り損ねて撃たれる可能性の方が高いだろうけどな。


 美岬さんに、口の動きだけでハンカチがあるかを聞く。

 差し出されたそれを、美岬さんの細い右膝に巻き、膝の裏で結ぶ。いきなりの行動にびっくりしたようだけど、おとなしく巻かれてくれた。もう一枚、自分のハンカチを同じように左膝に巻く。前はハンカチを持たなかったけど、鬼遠藤の勧めで大ぶりのものを持つようになっていた。止血帯としてだ。

 しばらく四つん這いで動くけど、美岬さんも制服なのでスカートで膝がむき出しだ。だからハンカチを巻いた。しばらくは痛みを感じなくて済むはずだ。寺から逃げられた後に、さらに続くかもしれない逃亡を考えると、制服が汚れる匍匐(ほふく)前進は避けたかった。



 奴らの真ん中の区画の通路を、蛇のように低く低く移動する。美岬さんもついてきている。石畳を選び、音の出る玉砂利を避け、ゆっくりと進む。墓石が密集しているから、頭を上げなければ見られることはない。相手とこちらを結ぶ通路がある場所が危険だ。一気に視認距離が伸びる。

 しかし……、俺は頭を上げなくても相手の位置を摑み続けている。こうして地面に這いつくばっていても、手に取るように判る。状況は相変わらず、俺の制御下だ。


 犬はにおいに向かうか、においから逃げるかしかない。俺は、犬の能力を持った人間だ。においの横をかすめて、着かず離れずで逃げ切ってやる。


 奴らの中央付近まで来て、位置の確認ができなくなった。こちらが風上に回ったのだ。すなわち、すれ違ったことを意味する。だから、あとはじっとしていてさえ、相手との距離は開くはずだ。

 もしも、相手との間に通路が開けていたとしても、お互いが後ろ向き。奴らも後方確認をするだろうけれど、よほどのバッドタイミングでなければ大丈夫。


 境内には大きな木もあって、蝉の鳴き声がやかましい。それなのに、俺には静か過ぎて恐怖を感じるという、矛盾した感覚に襲われていた。

 おっと、静かといえば、蝉が鳴き止んでもまずいことになる。近づき過ぎないようにしなければ。


 俺は、墓地の行き止まりの通用門の鍵が開いていることを祈った。開いていれば、そこから外へ逃げた可能性を考慮せざるを得なくなり、更に時間が稼げる。鍵がかかっていれば、奴らは引き返してくる。


 最悪を想定しておくべきだろう。すれ違った時からの時間を見計らい、頭を下げたまま小走りに走り出す。そして、山門から死角の位置の、紫陽花の植え込みの中に身を滑り込ませる。

 美岬さんもついてきている。

 あと七分。


次回、STF?


逃げ切れますように。

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