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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第九章 18歳、秋(全43回:高校最後の事件、SF編)
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39 後片付けが終わらない


 グレッグと石田佐も、収束に向けた話をしたらしい。

 グレッグ、一つ立場が上がるそうだ。相当数の人事があったらしい。


 俺、思い出したんだけど、スティーブン・F・ウドバーハジー・センターで、骨董の価格について話をしていたよね。

 石田佐が「右から左へ、すぐに売ってしまうのが悪いのさ。千年の重みも理解せずにな」とか言っていた。あれ、骨董品の値下がりと併せて、すでに二重の嫌味だったんだよね、きっと。

 こんな感じに、ぽつぽつと思い出してはジグソーパズルのピースがハマるように納得が進んでいる。


 そして、一つ役職が上がったグレッグは、配下を俺たちに差し向けることはあっても、もう本人が動くことはない。そんな立場になったそうだ。

 もしかしたら、もう二度と会わないかもな。

 きっと、グレッグの後釜とのほうが、俺たちの世代は長くつきあうことになるんだろう。

 組織同士の付き合いって、縁は切れなくても会わなくなる、こんな見送り方になっちゃうんだろうなぁ。

 許されるならば、一言ぐらいは顔を見ながら文句を言いたかった。

 どーせ、白い歯をきらめかせながら、笑って黙殺されるんだろうけれど。




 − − − − − − − 


 日常が平穏さを取り戻して、三日後。

 学校から帰り、自宅の前で自転車から降りた俺の脇に、日産のマーチが止まった。

 車の窓が開く。

 スケールダウンしているけど、デジャ・ヴュを感じるシュチエーションだ。

 でも、乗っているのは遠藤大尉。

 で、珍しく単独行動だ。

 「乗れ」

 「はい」

 拒否なんかできないからね。俺、勝てない相手には素直なんだ。


 走り出した車は、街中の立体駐車場に入った。

 そして、そのままくるくると階を登り、屋上。

 他に車はない。


 そこで、エンジンを止めた遠藤さんは、いきなりこう切り出した。

 「双海、協力しろ。

 武藤佐以外で、初めて強い女に会った。

 こっちが、通信機を仕掛けるために敢えて手に乗ったとはいえ、負けは負けだ。

 言い訳はしない。

 だが、絶対落とす」

 えっ、なんのこと? そして、誰のこと?


 「お前の姉の話だ」

 ちょっと待てや!?

 「遠藤さん、後悔しますよ」

 思わず口走る。

 「いいんだよ、軽く後悔させるぐらいがイイ女の証だ」

 えっ、そんなセリフ、俺には言えない。でも、それって相当に舞い上がってないか?


 「遠藤大尉(・・)、俺がなんか言ったら殴ったりしませんか?」

 「俺が今までに、そんなことしたことが一度でもあったか?

 何が言いたい?」

 「大尉、姉との歳の差、二十年近くありますよね?」

 「……」

 殴ってる、殴ってるよ。

 その視線で殴るの止めて。マジで怖いし、マジで幻痛で痛いから。

 さてさて、肩書で呼んで冷静さを取り戻してもらおうにも、それがどれほどの抑止力になるのか心許ないよ。


 「そ・れ・が、ど・う・し・た?」

 だから、言葉に力を込めないで、その殺気を引っ込めろよぉ……。

 「大尉、姉が嫌がったら、引いてくれますか?」

 「それは……、当然のことだ」

 あ、風船の空気が抜けるようだね。しゅーっと殺気が消えたよ。しゅーっと。


 「あと、俺が協力するならば、約束して欲しいことがあります。

 なにがあっても、姉より先に逝かないって約束してください。二十年の歳の差を超えて、姉が八十まで生きるなら、百まで生きてください。

 俺たち、もう、そういう感じで取り残されるの懲り懲りなんで……」

 「……わかった。

 だが、それは、お前の義理の母親に言え。一番、俺が死ぬ可能性が高い現場に放り込んでくれるのは、いつだって『アレ』だ」

 「俺が、『アレ』にそれを言うんですか?

 俺、今回は『アレ』の怖さ、骨身に染みましたよ。『焼き払え』って、どこの皇女ですか?

 言えるわっきゃないでしょう?

 そんなことも、判らないんですか?」

 「そ・う・い・う、生意気な、口答えを、俺は、お前に、教えたかぁ?」

 「痛い痛い痛い痛い、痛いですって。手を出しましたね?」

 遠藤さん、俺の頭を脇に抱え込んで、(こぶし)でぐりぐりごりごりと撫で回す。

 車のシフトレバーが額に食い込んでくるのも、計算のうちだろう。

 「撫でてやってるんだ、念入りに。

 だいたい、お前ばかりが、いい思いをし続けられるとは思うなよ」

 「なんの恫喝っすか?

 解りました、解りましたよ。協力しますから、離してくださいよぉ」


 それから、俺は、姉を口説く計画とやらを小一時間も説明された。

 多分、遠藤さんの目はマジだったけど、俺の目はほとんど虚ろだったに違いない。


 で、さ。

 ……なんて無駄に緻密な計画なんだ。

 (あんなの)相手に。

 好きほど、好きにすればいいじゃないか。

 そりゃあさ、人の努力は報われたほうが良いに決まっているけどさ、遠藤さんを兄と呼ぶことになる俺のことも考えてくれとは言いたい。

 今回、発端の「進路って未来」を考えることから、「家族や親戚が増える未来」を考える話に変わっちゃった気がするよ。

 それでもとりあえずは、自分の未来もきちんと考えないとこの問題は終わらないよね。それを決められて、初めて今回の件、後片付けまでが終わるんだ。



 うちに送り届けられて……。

 洗面で、鏡に映った顔を見ると額が仄かに赤い。

 絶対、シフトレバーのせいだ。

 「怒り」なんかより「呆れ」、いや「呆れかえる」のほうが遥かに強い。

 なんで大尉(あの人)、あんなふうに人格が変わるんだ?

 などと思ってから、思い出したよ。


 二年前、武藤さんを「人外」と評しながら、武藤佐に上司に対する以上に気を使う遠藤さんの姿と、それを結果として皮肉った俺に対して「可愛げがない」と言い放たれたことを。

 そっか、なんか解った気がした。

 遠藤さん、なまじ以上に強いからなぁ。

 自分に依存するだけの女性ではなく、ともにいてくれる、ともにいようとしてくれる女性(ひと)が良くても、釣り合う人がいないんだ。

 だから、強い女性である武藤佐に憧憬(あこがれ)を持っていたけれど、「アレ」は人妻でどうしようもないし、その旦那も「人外」で自分では及ばないと存在だと。

 たぶん、結果として、恋愛感情とは違うものにならざるをえなかったんだろうね。

 そして、自分はそんな女性に巡り会えることはないと、半分あきらめていたんだ。

 なんだ、殺気立ってたけど、結構ロマンティストじゃん。

 遠藤さん、今回、姉にしてやられたと聞いたもんな。

 そりゃあ、この機会しかないと暴走するかもなぁ。

 巻き込まれるこっちはいい迷惑だけど。


次回、キューピッド役が勤まらない、の予定です。

今回の話はあと数部分で終わり、次章は後日譚なので、あと少ししかアップする話がありません。

ちょっと寂しいですね。

よろしくお付き合いくださいませ。

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