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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第九章 18歳、秋(全43回:高校最後の事件、SF編)
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2 そんな話、なぜ俺に? 


 翌朝。

 いつものように姉の出勤を見送り、学校に行くために家を出て自転車に跨った俺の横に、真っ赤なスポーツカーが横付けされた。

 シボレーのコルベットだっけ、これ。

 外車なんて知らない俺が、トランザムとこれだけは見分けがつく。だって、それぞれ映画とドラマで見たからだ。


 アイドリングの音からして勇ましい。

 訝しい表情になる俺に向かって、車の窓が開いた。

 「話があるんですが、時間をもらえませんか?

 君と君のガールフレンドについて、良い提案を持ってきました。話を聞いてもらったあとは、サウスの人たちに相談してくださいね」

 アナウンサーが話すようなきれいなイントネーションだ。


 グレッグ!?

 アメリカのどこかの諜報機関に属している男だ。喰えないことでは、慧思に勝るとも劣らない。

 夏休み、石田佐の紹介で、アメリカで会ったのだ。

 アメリカから何しに来たんだろう?

 俺たちに、直接のコンタクトはしない約束のはずなのに。


 俺は、無言で自転車をうちの敷地内に戻し、グレッグの運転するスポーツカーの助手席に身を滑り込ませる。

 本来ならば、こんな誘いに乗るべきでないことは解っている。

 でも、進路の問題で悩んでいるところに、別の選択肢の提示があるかもと、うかうかと誘いに乗ってしまったのだ。

 もう一つ、話を聞いたあとに、武藤佐なりに相談できると大っぴらに言われたのが効いた。

 さすがに、誰に対しても内緒で話がしたいなどと言われたら、俺に話せることなんかない。


 すげーな、こんな仰向けに寝そべるような感覚の車のシートって初めてだぜ。相当に車高が低いのだろう。

 「シートベルトをしてください。ドライブしながら話しましょう。

 君と君のガールフレンドの未来についてです。石田さんとの約束にも反しないものです」

 グレッグは言うと、静かに車を発進させた。


 静かだったのは、高速道路に乗るまでだった。

 エンジン音を猛々しいって感じたのは、生まれて初めてだ。

 新潟に向け、緩やかな上りが続く道を、たぶん時速200キロは越えているスピードで駆け上がる。一度は覆面パトカーらしい車がサイレンを鳴らしたけど、それすら定かでないほど一瞬で後ろに置き去っていく。

 それなのに、怖いと感じさせられないほどの安定感があるのは、車の性能か、グレッグの技術なのか、免許も持っていない俺には判らない。


 「今の私は外交官としてこの国にいるから、日本の法律には縛られませんよ。でも、サウスの諜報は舐められないから、こういう手段で盗聴や干渉を防ぎます」

 グレッグが話しだした。

 なるほどね。

 この車自体がクリーンになっていたら、確かに日本側はどうしようもない。そして、ついでに俺、体のいい人質にもなっているわけだ。

 って、そもそも論だけど、こんなのレンタカーじゃないよな。それとも、外交官ナンバーだったか?

 まさか、横田あたりの米軍基地から乗り出してきたんじゃないだろうな?

 となると、この人、通関もしないで日本にいるのかも。

 頭の中で、思考がせめぎ合う。

 なんか、怖いぜ……。


 「まずは、この資料を見てください」

 グレッグに差し出されたフォルダに挟まれた書類を確認する。

 資料っても、紙が一枚だけじゃねーか。


 紙の表題はNo.19と記されていた。そして、そこには無数の点で構成される、モザイク模様の帯が3種類印刷されている。

 それぞれの帯には、M1からM3までの番号が振ってあった。

 そして、その3つの帯の横線が描くモザイク模様に、ちょっと見では、まったく違いは見つけられない。


 「これがなにか?」

 俺は聞く。

 だって、これ、生物の参考書で似たようなのを見たような気はするけど、なんだか解らないからね、これ。

 そういうときは、素直に聞くのに限る。


 「M1が美繰(みくり)、M2が美桜、M3が美岬を意味します。

 その三人の19番目の染色体の遺伝子発現差異解析(マイクロアレイ)図ですよ。

 当然、発現していないものも含めて、19番目の染色体の遺伝子の塩基配列(シークエンス)はほぼ読み終えていますが、やはり、と言うか当然と言うか、これも三人で一致していましたね」

 こともなげにグレッグは言う。

 「つはものとねり」から派遣されてきた、受験対策の生物の講師が話してくれたことが頭の中で結びつく。


 セントラルドグマにより、DNAの二重らせんの情報は、mRNAに翻訳され、リボソームでたんぱく質が作られるんだったよね。だから、細胞内には機能している遺伝子のRNAがあるわけだから、すでに機能の解析が終わっている塩基配列を釣り針(プローブ)として相補的に結合(ハイブリダイズ)させれば、働いている遺伝子がなにかを突き止めることができる。これが、遺伝子発現差異解析(マイクロアレイ)だ。

 で、エンジンの吹き上がる音の中で、俺の心の中は動揺しまくっていた。

 なぜその話、俺にぶつける?


今回は、生物学ー。

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