表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第七章 18歳、夏(全31回:渡米編)
159/232

31 失敗と漫才


 俺たちの旅行中、慧思の妹の弥生ちゃんは、俺の姉と生活していた。そのせいか、慧思が言うには、食生活の大幅な向上が見られるそうだ。

 そうか、そんなに料理の腕が上がったのか。


 弥生ちゃんを見ていると、辛いものがある。弥生ちゃんより、もっと小さい頃の美岬が、肩の関節を破壊されていたのを連想してしまうからだ。


 やっぱり、辛いわ。

 遠藤さん、あんた、やっぱり鬼だよ。俺はどんな条件があっても、弥生ちゃんに暴力を振るうことはできそうにない。

 でもね、それでも鬼の辛さも理解はできるんだ。俺は、弥生ちゃんに暴力は振るえないけれど、美岬にはどうだろう? 生まれながらの宿命で、それによる洗脳をしなければ生きて帰れないとき、いくら辛くても、それができる方が優しいということなんじゃないだろうか。

 今の俺には、まだ、わからない。論理と心情が一致しないんだ。


 ともあれ、その弥生ちゃんも、今日は再び姉のところだ。

 今日、慧思のアパートには、慧思と近藤和美さん、同じクラスの飯嶋望美さんと浅見香美さんがいる。

 今気がついたけど、むちゃくちゃハーレムじゃねぇか。慧思の奴、羨ましいとまでは言わねぇけど、十分、恵まれているんじゃねーのか?



 「真、行くわよっ!」

 美岬、ノリノリだな。

 近藤さんの慧思への思いは確認がとれているもんだから、気持ち自体は楽だ。

 近藤さん自身は、慧思の告白をもう聞いているけど、その後時間が経ち過ぎていて、自分から言い出しにくくなっちゃっているだけみたい。


 「はいはい」

 と返事して、呼び鈴を鳴らす。

 「おう」

 慧思が顔を出す。

 「来たぜ」

 「おう」

 美岬と一緒に、慧思の部屋に上がりこむ。


 これから、俺が、なんだかんだと飯嶋望美さんと浅見香美さんの注意をひく。その隙に、美岬が慧思と近藤和美さんの間に「あなたたち、両思いだしそろそろいいじゃん爆弾」を投げ込む計画。

 投げ込んだら撤収、デートだ。


 「こんちわー」

 まずは挨拶、挨拶、と。

 のぞみんこと飯嶋さんが、真っ先に口を開いた。

 「ねぇ、双海くんが菊池くんのところに来るのはわかるけど、なんで、みさみさがここにいんのよ?」

 なんだ、そのいじめ発言……。


 あっ!

 一瞬で、顔から血の気が引いた。

 「あ、そこで今、偶然会ったから……」

 もごもご。

 美岬、君も今、気がついたな?

 呆然としてないで、なんとか言い訳考えろ!

 かーみちゃんこと浅見さんが高い声で叫ぶ。

 「もしかして、双海くんとみさみさ、付き合ってるの!?」

 げっ、学校ではバレないように、細心の注意を払ってきたのに。

 あ、美岬が凍ってる。たぶん、俺も半分以上。


 なんで、自分自身の設定忘れるかなぁ、俺たち。

 これって、よりによって、この二人にお題を与えちゃったことになる。

 もう、おしまいだ……、よ。

 視界に白い布がかかったような気持ちになる。

 「人の話を聞けって。偶然だって……」

 「それはないでしょう、さすがに」

 「他の誰にも言わないから、白状しちゃいなさいよ。

 前から、なんとなく怪しいとは思っていたんだよね」


 嘘だ!

 絶対、嘘だ!

 他の誰にも言わないわけあるか!? すぐにでも女子のネットワークに流すだろ、お前ら。


 「本当に、偶然会ったんだって。で、のぞみんたちも来ているって、真が言うから……」

 美岬、君ってばさ、最低最悪に嘘、下手だな。

 つか、舞い上がりすぎ。

 ダメだ、こりゃ。

 「『真』だってぇ!?」

 「やっぱり、付き合ってるじゃん!」


 ……美岬、自ら掘った墓穴の中で即死中。

 何度目だろう、ダメだ、こりゃ。

 美岬、顔、真っ赤。

 俺も、頬が熱い。


 かーみちゃん、急に妙に物分りの良さそうな態度になった。幾多の男子を落としてきたトラップだ。本人はあまり自覚していないってのが、タチが悪い。

 「ねぇ、みさみさ、じゃあさ、付き合ってないならそれでいいからさ。今日はなにしに来たの?」


 あーあ。ダメだ、こりゃ。

 美岬、ガールズトークで攻められると、本当に耐性ないなぁ。いいようにやられちゃってるわ。

 「えっ? あのね、えっと……、双海くんにたまたま会ったら、のぞみんとかーみちゃんもここで勉強しているって聞いたから……」

 ダメだ、こりゃ。間が空きすぎ。嘘は、さらっと吐かないと。

 そう、慧思みたいに。


 「もしかしてダブル・デートの相談!?」

 今度はお前か、のぞみん!

 なんでそーなる!?

 「やっぱりぃ?」

 「菊池くんとなごなごの方は、ほんと、分かりやすくみえみえだったもんねぇ」

 「ぐふぐふ、長い春が続いていると思って、やきもきしておりましたが、ようやくですなぁ」

 「是非とも、いろいろと、逐一、進行状況を細かくお聞かせ願わないとですねぇ」

 「いやいや、生温かく見守って、みさみさとなごなご、それぞれどこまで行くのか、毎日私たちがチェックをしなければですよ」

 「毎日チェックって、あんたの方がえげつないやん。で、どこまで行くのかってなんのこと?」

 「東京まで……って、そんなわけあるかって、でへでへ」

 おまえら、その口調でその漫才はやめろ!

 いや、ごめんなさい。どんな口調でもやめてください。


 慧思と近藤さんも、いきなり矛先が向いて、……針の筵。

 近藤さん、下向いちゃったよ……。

 目的は、果たしたんだろうけど、なんでこうなるんだ!?

 それから、二十分、ボケとツッコミの絶妙な間で問い詰められましたとも。


 「真は、私のだ!! そう言ってるじゃん!!」

 あ、ついに美岬が壊れた。

 「ついに言いやがりましたよ、かーみさん。この娘ってば、恥ずかしげもなく『私のだ』ですって」

 「おやおや、近頃の娘は、ほんまに恥じらいってものを忘れてしもたねぇ、のぞみんさん。ウチは、こないな風に育てた覚えはないんやでぇ」

 「おや、みさみさをお育てになられたんですか?」

 「いや、せやから、育てた覚えはないと」

 「そんな放任されてた娘は、恥じらいもなく、素直にもなれず、ぐへぐへぐへ」

 「はい、シラを切っとるけど、ぼちぼち白状して楽になっちゃいそうな感じやね、うひゃうひゃうひゃ」


 「二人とも、ぶっ殺す!!」

 美岬が叫ぶ。

 あっ、やっばり、そう言い出す?

 のぞみんとかーみちゃん、爆笑してますけど。


 「お前ら、なにしに来たんだよぉ」

 慧思がぼやく。

 俺は、文字通り頭を抱えた。

 本当に何回目だろ、ダメだ、こりゃ。


 漫才は際限なく続いた。

 ああ、酷い目にあっているけど、なんて平和なんだろう。

 日常の有り難さを、そう有ることの難しさを、しみじみと感じているよ。


これでこの章も終わりです。

ありがとうございました。

引き続き、幕末編に続きます。


よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ