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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第七章 18歳、夏(全31回:渡米編)
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15 科学技術の意義


 影響、あるなんてもんじゃなかった。

 骨の髄まで理解した。了解した。

 アメリカ様に逆らってはなんねぇ。

 あいつらが自信に満ちているわけが解った。


 アメリカ人は、そのほとんどを自分の手で作り上げている。

 X−35があった。次期空自導入機の原型となった試作機だ。トムキャットもあった。

 ライト兄弟のライトフライヤー号から、超音速機、スペースシャトルに至るまでが展示されていた。 

 そのスペースシャトルの見上げんばかりの大きさと、完成度。その完成度と相反するような、宇宙までの往復を保証する無骨さ。

 どっかの国からロケットを買って飛ばし、自国での打ち上げ成功なんて言っている国には、決してたどり着けない高みにある領域。


 日本もオリジナルのロケットを飛ばしていて、その展示もあった。そういう意味では日本も捨てたもんじゃない。けれど、その規模においては、残念ながら日本は太刀打ちできない。

 技術ってのは、規模がある程度以上大きくなると、自動的に深化するんじゃないかと思った。その点において、日本の精鋭をとことん先鋭化する方法論では、永遠にアメリカに勝てないのではないかという、深刻な疑問を感じた。



 − − − − − − − −


 博物館内のマクドナルド。

 金属の丸いテーブルが並び、航空宇宙博物館らしいと言えば言えるけど、それ以上に殺風景。


 昼飯のハンバーガーをぱくつきながら、美岬が言う。

 「ビドルが日本に来た時、その戦艦をみてこんな気持ちになったのかな、ご先祖様も……」

 慧思は、ポテトを紙の容器から、ざらざらとそのまま口の中に流し込んでいる。

 激しくお行儀が悪いな、お前は。


 ポテトで口の中をいっぱいにしながら、それでも慧思は興奮してしゃべる。

 「グレッグの分かったような顔にムカついたけど、仕方ない、あの顔させておくしかないよ」

 昨夜、いや、飛行機に乗って以来、ほとんど飯が喉を通らない俺も、日本のマクドナルドよりも作りが粗いハンバーガーを持て余しながら言う。

 「宇宙食になんでM&Mなんだよ? なんで、そこまで自分たちの生活を、そのまま宇宙にまで持ち込もうとするんだ? で、なんでそれが可能になるほど豊かなんだ?」

 会話としては、成り立っていない。

 成り立っていないのは、三人とも分かっていて、それでいながら黙ってもいられないほどのショックだった。


 「石田佐の言いたいことも、グレッグの言いたいことも、日本の立場も、とねりの立場も、みーんな今までの理解をご破算にして考え直さなきゃな……」

 半ば呆然と俺。

 慧思が、いつものように茶化すでもなく、やはり半ば呆然と返す。

 「ああ、でも、救いもあった。宇宙に出かけたカメラはニコン製だったぜ。

 ところどころだけれど、日本の技術の意地みたいなものも感じたよ。アメリカオリジナル以外は、ロシア、ドイツ、日本、少々の英仏以外は展示対象になるものがないのかもしれない」

 「桜花には、泣きそうになったけれどな」

 「ああ。科学技術と物量の差を、根性でなんとかしようというのは、悪い癖だと思ったよ。

 本当に、よく解った。

 根性論、精神論は物量に絶対勝てない。少なくとも、安全保障を考える者が陥ってはいけないことは確かだ。

 それに、根性論、精神論は大切だけど、物量戦ですり減らしていいもんじゃないよ。別のところで使うべきだ」

 お前の、そのポテトの食べ方、やけ食いなのか? もしかして。


 「現在、世界でこれだけのことがこの規模でできる国は、アメリカしかないんだよね?」

 美岬も言う。

 「でも、日本とかドイツとかは突出している得意科目があるから、まだいいのかも」

 「そうだな。そのアドバンテージをどこまで守れるかだなぁ」

 ため息。

 「ドイツは二次大戦の敗戦がなかったとしても、ロケットやジェットの技術、いずれは取られて逆転していたと思うよ。それだけの地力がアメリカにはある。

 でも、たとえそうでも、突出した部分が維持し続けられれば……」

 「ええ、その辺りに日本が、アメリカと協力できる活路がある気がする」

 そうだな。美岬の言うとおりだ。


 国力というものについて、より深く考えないといけないよなぁ。

 その上で、彼我の戦略を立てなければならないよな。その前提において、今まで大きく誤解をしていたと思うよ。

次回、ワシントンからニューヨークへ

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