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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第七章 18歳、夏(全31回:渡米編)
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1 文化祭実行委員会

 登場人物

双海 (しん)    高校三年生。姉と二人暮らし。一千万人に一人の嗅覚を持つ。

武藤 美岬(みさき)   高校三年生。特殊な視力を持つ。

菊池 慧思(さとし)   高校三年生。俺が命を預けられる相棒(バディ)

武藤 美桜(みお)   兵衛佐。実動部隊の長。美岬の母親。

石田 源信(げんしん)   兵衛佐。組織のナンバー2。表の顔は骨董商。

グレゴリー・ハント  グレッグ。米軍諜報機関極東担当。

武藤 純一(じゅんいち)   美岬の父親。

近藤 和美(なごみ)   高校三年生。慧思の片思いの相手。


 学校の生徒会館。

 今日は、会議会場として利用している。

 「皆さん、集まって頂いてどうもありがとう。

 今日は初顔合わせですから、文化祭実行委員の全員にここに来て頂きました。今日は、テーマ募集とポスター募集のそれぞれの要項をお配りし、委員名簿にご自分の名前を記入していただいたら解散です。

 要項に書いてありますので確認をいただきたいのですが、締め切りは、夏休み後、二学期初日です。皆さんから、クラスの方に応募を働きかけてください。よろしくお願いいたします。

 なお、勝手ながら、名前を書いていただいた名簿の中から、ゲート班、展示用資材班等、班決めを割り振って後でお知らせしますので、ご協力よろしくお願いいたします。

 最後にお配りした紙は、当校の文化祭にふさわしい、文化的な取り組みの案を皆さまにいただくためのものです。私たちで紺碧祭をより良いものにしていきましょう。ご協力をお願いいたします」

 会場をゆっくり見渡しながら話す。


 今年のテーマ募集とポスター募集の採用記念品は、ピンク色のビーズクッションと卓上扇風機。

 某安売り店で、予算範囲内で、授与式映えする単純に大きいもので、過去二年に選んでいないもので、かつ、無難なものを買ったらこうなった。

 正直センスはない。

 いや、センスとしてはへこんでる。これは渡す文化祭当日まで密かにしまっておくので、モノがバレるまで非難はされないだろう。


 というか、自分が三年になって解った。

 歴代の文化祭実行委員長の仕事は、前年の踏襲で無難にこなせていくのだ。俺は、二年前に聞いたセリフを、ほぼそのまま話している。

 おまけに、なんでいつも採用記念品のセンスが悪いのだろうかと思っていた、二年間の疑問も氷解した。予算は決まっているし、あまりにとんがったものを買うと顧問の先生がうるさいし、予算執行上、通販は使っちゃいけないと言われてるし、選ぶ時間は限られている。おまけに、セレモニー用に大きいものという、ほぼ致命的な項目がある。

 だから、最大限の努力は、あまり報われない。

 組織の活動って、外から見ていたんでは分からんことばかりだよな。


 最後に話した、新たな企画の募集が、せめてもの俺の反抗。

 一つだけでいいから、何かを変えたかった。

 去年、教職員の趣味の展示が、美術部の展示より芸術的だった。こんな事態は、個人的に何とかしたかったしな。まぁ、俺のこんな足掻きでは変えられない、変わらないとは思っている。


 もしかしたら、今年限りであれば変わるかもしれないけれど、それが続いて伝統のものになるかどうかなんか、分からない。でも、それでもいいと思っている。

 その努力が、俺が委員長として残した爪痕だ。

 内心ため息が漏れるが、仕方ない。


 生徒会長と生徒会会計と協議して、生徒会費から文化祭実行委員会への予算の移動時期だけは確認しておかないとな。こればかりは、去年の日程だと日曜日になってしまうので、変更しないとだ。

 と言ったって、生徒会長は慧思(サトシ)だけどな。


 夏休みまで、あと二週間。高校三年生にとっては、最後の夏休みが来る。

 それどころか、一クラスしかないとはいえ、就職組には人生最後の長期の夏休みだ。有意義になんて言っても、具体的にはぴんと来ないけれど、まぁ、後悔しないように過ごして欲しいわ。

 って、なんで上から目線で言っているんだろ、俺。


 受験勉強も追い込みの時期になってきて、試験の時などは何となく殺気立つ度合いが深まっている。とはいえ、平和な毎日の中、文化祭の準備。

 いつものようにのらくらと逃げ回っていたんだけど、今回、逃げきれなくて文化祭実行委員長。やるからにはしっかりやりたいけれど、トライアンドエラーの繰り返しになりそうな気がする。


 慧思は、推薦されての投票結果で生徒会長だから、去年の秋からずっと逃げられる訳もなし。

 で、慧思へ投票した生徒たちの複数の声。

 曰く、「誰とも話せて、人畜無害」とのこと。なんか、仕事をしそうというのは無いわけね。まぁ、確かに、その通りだと思わざるをえない。

 よく見ているよなー、みんな。


 美岬は、全国高校生徒会大会実行委員だと。

 県外他校との会議に出てから、身辺が賑やかに。その時に撮られた写真がネット上に出回って、はい、陳腐な言い回しですが、物議を醸しました。

 失礼にも顔面偏差値がどうのこうのと、ネット上で世界の皆様に顔が公開されそうになって、組織が手を回して、総削除。本人承諾なしの盗撮風味の写真だったので、肖像権を盾になんとかなったらしいけれど、公開された画像から切り抜かれるようなことになれば、画像検索もしきれずどうにもならない。こればかりは、公開される情報への露出を避ける以外の手の打ちようがない。


 それだけじゃない。

 現在の一番の問題は、卒業アルバムをどうするかなんだよね。まだ、うだうだ検討しているけど、組織内でも誰も妙案が浮かばない。高校をまともに卒業してアルバムに残るって、美岬が始めてみたい。

 美岬の母親の武藤佐は、大検で進学していて高校を卒業していないらしいし……。

 何があったんだか。

 さらにその上の世代だと、写真は白黒でちっちゃかったからごまかせちゃったそうだ。


 こういう公開情報含め、一度ネットの海に放流れた情報は、どうやっても削除しきれなくて再びアップされちゃうけれど、もう、それはしょうがない。爆発的拡散になるようならばその度に削除してもらうということ以外、他に手の打ちようがない。

 まったくの、場当たり的対応。

 なんか、こればっかだな。

 美岬の母親の時代には想定していなかった事態で、これまた、まぁ、仕方ない。で、仕方ないで済まないから困る。

 結局、こうやって考えが循環するばかりで、妙案が出ないのだ。



 まぁ、なんにせよ、四十日間の休みが始まる。

 訓練、受験勉強がみっしり。

 訓練は、レンジャー訓練と同等のものが予定されているとのことで、遠藤さんだけでなく、他のとねりまで準備にかかっているのが、マジに恐ろしい。


 俺たち、同級生たちからリア充だと思われている気配があるけど、ここまでの苦労しているって校内の誰も知らない。なんか、ため息出ちゃうよな。


 とはいえ、なんとか五日に満たないけど、フリーな日も確保した。美岬とのデートの日数も、すでに確保済み。

 俺たちだけじゃない。慧思も、近藤さんと、勉強会と称したデートの機会作りに成功している。

 いや、違うな、この時期に来ちまっていると、デートと称したとしても、マジに勉強会だよな。一年前ならば、デートらしいことももっとできたんだろうけれどねぇ。


 理系なのに文系科目で点を稼ぐ慧思は、近藤さんをはじめ、理系らしい理系で歴史なんかはまるでダメという女子にモテモテ。だって、ほら、人畜無害だし。

 本人は、面と向かってそう言われるので、その度に憮然としているんだけどね。

 そもそも、歴史が得意って、本や参考書すらまともに買ってもらえなかった慧思が、捨ててある週刊誌等に至るまで読めるものは全て読んだ結果だからなぁ。不思議と週刊誌って、歴史関係の記述が多いんだそうだ。


 ま、なんでもいいや。慧思としちゃ、近藤さんと一緒に居られる機会ができれば、それで十分だろ。


次回、迂遠な出張命令


新章です。

引き続きお付き合いのほど、よろしくお願い致します。

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