1 合宿、朝
新章です。
お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。
夢の中で、空を飛ぶってのは、「浮遊」だよね。
エンジンのついた飛行機みたいな「飛行」じゃあない。ふわふわ浮かんではゆっくりと降り、足が地面に触ると再びゆっくり舞い上がる。
そんな感じだ。
こんな夢を見ているのは、きっと、昨日の訓練で延々と続く匍匐前進中に、慧思のバカが漫画で見たとか言って「五点接地ってのは本当に有効なんですか?」なんて質問をしたからだ。あいつ、辛くって、一回立ち上がりたかったんだろうけどな。
それにしても、そんな質問をしたら、すぐに自分の体でその確認をさせられるということに、あいつはどうして気がつかないのだろう?
そして、その確認に俺も美岬までもが巻き込まれることに、どうして考えが及ばないのだろう?
教官の遠藤大尉は、「つはものとねり」最大の戦力で、夜間に高空から正確にダンプカーの荷台に降下できるほどの空挺のプロなんだぞ。
あ、大尉は、「つはものとねり」の階級で、天武天皇の時代からのものだ。この組織は、諜報機関としては世界最古の起源を持っている。
夢うつつの中で、空を飛ぶという行為に勤しみながら、脳の別の部分は舌打ちをしている。
このまま、深い眠りに沈むことも、目覚めることもできるニュートラルな状態。
その微睡みは、鼻腔を漂う味噌汁の香りで、浮上に舵を切った。
次回、朝食
全8部分、行くか行かないかの短い章になります。
よろしくお願いいたします。




