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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました  作者: 林海
第一章 16歳、入学式〜夏休み明け(全42回:推理編)
11/232

11 推理、その2


 例によってスタバでコーヒーを買う。今日は、タイミングが良かったのか、あっさり店内に座ることができた。


 「気がついたか? 彼女の反応」

 サトシが言う。俺は頷くだけ。

 「何やってんだ、お前?」

 サトシは、ちょっと不審そうに聞いてきた。でも、俺はメールの文章を組み立てるのに忙しい。

 「近藤さんに報告しようと思ってさ。うちのクラスの女子と、連携取っときたいし」

 「なんでお前さんごときが、近藤さんのメアド知っているんだ?」

 「そりぁ、今日の事件みたいなことを想定して、情報共有のためだ。で、クラスの女子達の保険、俺自身の保険、当然、武藤さんがまた孤立しないための保険にもなる。

 ついでに、『ごとき』は余計だ」

 隣のクラスの三人が来た最初から、ICレコーダーに顛末を録音済みのことも記す。でも、そのことは、誰にも黙っていてくれと口止めをしておく。これからも証拠収集を続けるために、存在は明かさない方がよい。つか、電源を切り忘れて、今の今まで録音していた。


 「で、聞いたら教えてくれたんか?」

 うるさいな、こいつ。何言っているんだ? 「メールを打っている」と言ってるのに。

 「ああ、もうちょっとで終わる。もうちょっとな」

 「CCで俺にも寄越せよ。目を通しておきたい」

 「ん、了解。BCCでいいよな?」

 「CCだ」

 目を上げる。

 「CCで?」

 「うん」

 気持ち声を大きくする。

 「普通、BCCだろ?」

 「CCだ」

 「なにを照れているんだ、お前は?」

 サトシはコーヒーを前に、スタバの小さいテーブルの幅以上に身をくねらせている。見ていて、非常に気持ちが悪い。


 ふと気がつく。

 「もしかして、近藤さんのメアドが欲しいのか?」

 「いや、俺は、一応メールの本文を読んでおきたいだけだ。あくまで、あくまでも君のためだ。解ってくれ」

やっぱりバカだ、こいつ。

 「BCC?」

 「CC」

  非常に、不毛な会話を繰り返す。

 「送信したぞ。今日のところはBCCだ。来週にはCCになるよう、近藤さんにはお願いしておこう」

 「君との友情のために尽くしてきて、本当に良かった」

 「正直に言え。お前、最近は、近藤さん目当てにうちのクラスに入り浸っていたんか? こら、身をよじるな、気持ち悪い」

 これがあのサトシかと思うほど、恥ずかしがっている。

 冷たい視線を向けて、十秒。


 あ、こいつ、開き直りやがった。

 「女子はな、癒し系が一番だぞ。一緒にいて疲れる相手より、な。近藤さんのあの雰囲気、やっぱり、アレが素晴らしい。もしもあんな感じでいてくれる人がいたら、男は外に七百人の敵がいても……」

 「うるせぇ。黙れ」

 唸ると、サトシはぴたりと静かになった。

 「来週、メアドの件はお願いする。でも、期待はするな。これとそれは別の話だ。今回の件で、お前のことを凄い奴だと思っていたけど、やっぱ、バカだわ」

 「バカはないんじゃ……」

 反論は、無視する。


 「お前のクラスの、あの三人の状況報告を頼む。多分、その情報を共有するということでお願いすれば、近藤さんもメアドを教えてもいいってなるだろうしな」

 「ああ、任せておいてくれ。俺はいい仕事をするぞ。まさか、工場の件の親族が同じクラスにいるとは思わなかったが」

 「頭痛くなって来た。おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 「お前な、隣のクラスの女子のことを調べるってのは、これで結構大変なんだぞ。

 俺自身が疑われないように聞くことしかできないし、いくらでも話してくれる良いソースは、あの三人とつるんでいる奴だから、近づきたくても近づけないし。

 話の裏を取るのだって、おおっぴらにはできないんだよぉ。

 でも、現在進行形の状況報告ならば楽だ。

 だから、メアド、頼む」

 最後の一言にため息が出るたけど、「そうか、情報の確度まで押さえてくれていたのか」とも思う。

 口には出さなかったが、サトシには感謝しかない。


 「解ったよ。信頼している。それはそうとレシートを出せ、二杯目のコーヒー買うぞ」

 「おごろう」

 こいつ、俺に初めておごりやがった。二杯目価格だけど。


 彼女の話に戻る。

 さっきのサトシの照れようを見せつけられたので、こちらは逆に極めて冷静だ。だいたい、男子高校生がスタバで二人、揃って身をよじって恥ずかしがっていたら、どんな目で見られても反論できん。


 ICレコーダーから再生し、落ちがないよう検討する。俺があれっと感じた部分は、やはりサトシも気になっていたらしい。


 「教室で、お前、武藤さんにビビっていたな。なにがあった?」

 「気のせいだと思うから、俺の言うことは冗談だと思ってくれ。眼がな、黒目が青く底光りしていた。固く冷たい感じだった」

 「なに、その中二病設定?」

 「知るか。俺は見た、としか言えん」

 「中二病設定にならずに、説明できるか?」

 サトシの問い自体は、問題の取りこぼしを避けるためで、俺が見たものを信じているわけではないだろう。

 俺も現実的に考えたいが、仮説の立てようがない。白内障など、外見的に眼の感じが変わる病気があるのは知っているけど、気分次第で目の色が変わってたまるかと思う。

 まっとうに説明するならば、光線の加減、涙、それらのことでそう見えたとしか言いようがない。


 「とりあえず、この問題は置いとこうぜ。俺の見違いという可能性が高いからな。それより、帰りの会話、面白かったな」

 「ああ、interestingだ」

 「はいはい、高校受験英語、乙。興味深いね。お前は何が気になった?」

 サトシは一瞬考えた後、話しだした。

 「二つある。まず、お前と話していて、一瞬怖がってなかったか? が一つ。もう一つは、家族との関係が上手く行っていない可能性があることだ」

 「一つ目は、俺からも話す事があるよ。家族のことは気がつかなかったな」

 「母親の話を二回振った。が、一回目はともかく、二回目もスルーされている。何かあるんじゃないのかと」

 サトシ、計画的だな。


 頭の中で整理しながら話す。

 「確か、母親のことを賢いとお前が褒めて、そのあと笑って終わり。その後はしゃべらなかった。でも、料理といい、服がきちんと洗濯されているとことか、悪い母親じゃなさそうなんだけどなぁ」

 「自分で家事をしているって線は、無しか?」

 サトシの口調が刑事ドラマみたいだ。

 「判らん。料理の腕は、上手いってレベルを超えているし、弁当は本人が作っている。でもなぁ、すべて独習ってより母親に習うって方が筋が通らんかな?

 それに……、あまり考えたくないけど、学校で孤独、自宅で孤独なんて、可哀相すぎるわ。それに、母親に対する敵意ってのも感じなかったし。

 どうも、尻尾は出すが、頭を抑えられないな」

 「そうだ。総じてだが、武藤さん、上手すぎる。自分の情報をほとんど出さずに、間を持たせ切ったという気がしてしょうがない」

 よく見ているなぁ、こいつ。

 俺は、母親のところは気がつかなかったよ。


 次はこちらの番だ。

 「まず、なんだけど、俺の幼い頃の話をしている間中、緊張しまくっていた。怯えに近いほどにな」

 サトシは、気がついているよ、という顔をした。

 「例によって、においで分かるんだな?」

 「そうだよ。その後も、顔では笑っていても、感情的には泣いているんじゃないかとも思った。『ガキの頃に嫌われる』という言葉に反応したのかも、とその時は思った。あと、給食を食えない話でも反応していたな」


 サトシが逆に聞いて来た。

 「逆に、何時ならリラックスしていた?」

 「うずらの卵のときは、リラックスしていたな」

 「ちょっと待て」

 そう言うと、サトシは考え込みだした。


 「うずらの卵と母親はリンクしている。母親との関係は、おそらくだけど、仲が悪いというのではないよな。それより……」

 サトシは思わせぶりに、一旦コーヒーを啜った。

 「お前の嗅覚の話のときに緊張してないか? 彼女」

 ICレコーダーを取り出し、高速で再生してポイントを押さえる。


 愕然として同意する。

 「確かに。

 俺にとっちゃ当たり前だから気がつかなかったけど、俺の嗅覚それ自体というより、それと社会の関わりで緊張しているな。どういうことだ?」

 「彼女も、嗅覚が鋭いとか?」

 「ないないないない、絶対ない」

 「素早くて、念入りな否定だな」

 「俺と同じ能力なら、俺と同じことに気がつく。俺の擬態と違う擬態を身につけたって、においを感じた時のリアクションってのは生じるはずだからな。それが俺と同じタイミングで起きない以上、少なくとも嗅覚じゃないな」


 ……間が空いた。

 「もしかしたら……」

 サトシが二杯目のコーヒーを飲み干して、早く言えと視線で先を促す。

 考えが纏まらないまま、思いつきのまま口に言葉を乗せる。まとめるのは後でいい。

 「お前の言うとおり、何かの感覚が鋭敏だという、遺伝的に発現した何かの能力。で、母親から受け継いでいる。そのために孤独になる。でも、本人は孤独が好きではない。もしかしたら……、俺を同一視していて、その上で俺には、友達がいたりするのがうらやましいんじゃないか?」

 「うらやましいとは?」

 「『男同士なんて、一年二年会わなくてもこんなもん』と言ったとき……、涙が出るほど、ぐっときていたかもしれん」

 「武藤さんが、か?」

 「他にいるのか?」

 聞き返して、俺もコーヒーを空ける。

 「いないな」

 しょーもない確認をする。


 確認したい気持ちは解る。悪く言えば、鉄仮面の如く感情を露わにしない武藤さんが泣くということに、納得しがたいものを感じているのだ。

 サトシは、改めて聞いてきた。

 「で、友達って誰のことだ?」

 「お前以外の、俺の大切な誰かだ」

 振られた分は、きっちり返す。

 サトシは鼻先で笑うと、さらに考えこんだ。


次回、謎解明? 確認作戦開始できるかな。

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