41 軍用犬、走り出す
ガキどもの姉妹の拉致の報告が来るはずだ。そうすれば、この事態からでも交渉、逃亡が可能になる。相手を倒して逃げる必要はない。まずは時間を稼ぐことだ。この事態を見越していたわけではないが、手は打っておくものだ。
この期に及んで、まだ、こちらに優位がある。
「犬を放て」
部下に命令する。軍用犬を使って、相手をかき回す。これは、時間を稼ぐどころではない効果があるはずだ。
次の瞬間、さすがに驚いた。娘が走っているのが、遠くに一瞬だが見えた。死角を選んではいるが、もともと広い場所だ。見えたのは僥倖だが、一方で拳銃ではどうやっても当たらないだろう。
騙されたのか、何らかの手段で死んでみせたのか。
怒りで視界が赤くなった。
許さん。
許すものか。
その詐術のおかげで、党の長老から追い込みを食らったのだ。家族諸共、処刑されるかも知れない未来は、この小娘のせいだ。
「待て! 目標変更だ。犬には娘を追わせろ! 絶対に殺せ!」
ハンドラーが犬を放つぎりぎりで、命令が間に合った。
犬の係の部下が、娘のにおいのする布を嗅がせて犬に合図する。二匹のドーベルマンは、カタパルトから打ち出されたように走り出す。
未だ、事態を制御できている自信はあった。しかし、いつダンプカーが乗っ取られたのか、それはどうしても理解できなかった。
次回、髪
今回、あまりに短いので続けてアップします。




