36 足が地を踏む暇もない
新潟空港の自衛隊側の倉庫は、冷房機が持ち込まれ、大きなファンも何台か用意されていた。
SR71、ブラックバードは日本領海に入ると、スピードを落とし、機体の冷却をしながら着陸態勢に入った。
すでに夕闇が迫っていて、遠目での機の判別は難しい時間帯ではあったが、着陸後もかなりの速度でタキシングを続け、その倉庫に入った。
機の独特な形状は、できるだけ目撃されたくないからだ。
その倉庫に入ると同時に、機体の部材にストレスをかけない範囲で強制冷却が始まる。ロンドンから二時間に若干足が出る程度の時間しか掛からなかった。空中給油の手間がなかったら、どれほど短縮していたのだろうかと遠藤は思う。
通常の冷却時間を半分以上短縮して、遠藤は機体を降りることができた。
小田も即席のクレーンのような機械で、機から一旦釣り上げられてから降ろされている。
冷却されたと言っても冷えているわけでは決してないからだ。触ったら火傷ではすまない。
前席のパイロットを見上げて、親指を立て合う。また何処かで会いたいものだ。パイロットとして、一流中の一流。これでもう会うことがないというには、勿体なさすぎる男だった。
機体には、給油が始まっている。今度は逆に、機体が冷えきらないうちに離陸しないと、部材が収縮して隙間が生じ、オイルが漏れ出してしまうからだ。そのオイルも、常温では固体という特殊な品なので、さっさと飛ばしてしまったほうが後腐れがない。
さすがに、SR71の整備のノウハウを日本は持っていない。ならば、「動いている機体は問題が生じていない」という考え方に立つしかないのだ。
さらには、軍民空域の複雑な日本本州近辺で、空中給油機を飛ばしたくないという事情もあった。
SR71二機は、このままアメリカに戻り、再びモスボール保存に戻って何事も起きなかったことになる。新潟空港はすでに日が落ちて暗く、黒い機体は目立つことなく再び滑らかに離陸して行った。
当然のことだが、遠藤と小田は、その離陸までを見届けることはなかった。
大型のナイフが、背中から突き通される。着るのにあれほど苦労した宇宙服のような飛行服は、十数秒でバラバラになった。そのままトイレの時間もあるやなしやで、用意された軽飛行機に飛び乗った。
最新状況のブリーフィングは、機の中で行われるはずだ。
まったくもって、久しぶりの日本の地を踏みしめる余裕すらない。
次回、追いつく?
次次回、危機
次回、次次回、激短なので、併せてアップできればなぁ、なんて考えています。
まぁ、今回も短いですね。




