1 ボーイ・ミーツ・ガール
双海 真 高校一年生。姉と二人暮らし。一千万人に一人の嗅覚を持つ。
武藤 美岬 高校一年生。中学生の時から、サイコパスと噂され孤立。
菊池 慧思 サトシ。高校一年生。
双海 真由 真の姉。十九歳。OL。大酒飲み。
近藤 和美 高校一年生。真のクラスの学級委員。慧思の片思いの相手。
菊池 弥生 慧思の妹。中学一年生。
武藤 美桜 つはものとねり兵衛佐。実動部隊の長。表の顔は財務省官僚。
遠藤 猛志 つはものとねり兵衛大尉。表の顔は自衛官。
小田 勇人 つはものとねり兵衛大尉。表の顔は警察官。
関東の北。新幹線の走る、古い城下町。そして、市の名前がそのまま付いた高校。
天気、あっけらかんと晴れ。
入学初日。ホームルームというか、ガイダンスが終わったら入学式。
初めて見る顔、そりゃもう全部。どんな運なんだか、クラス内に同じ中学出身の奴がいない。もっとも、出身中学の合格者数より、この高校のクラスの数の方が多いんだから当たり前かな。
少し浮かれてざわざわしていながら、会話が弾んだ様子も無く、和やかというのにはちょっとぎこちない空気。芽吹く桜の葉の匂いに混じって、雑多なアドレナリンのにおいがするけど、周りの生徒の誰のものやら区別がつかない。
校庭周りには保護者がいるのが見えるし、浮足立った中で同じ中学の出身者で集まっているものの、その群れは別の群れに無関心ではいられないという探り合いの真っ最中。
「俺は、双海真。長所は素直なところ、欠点は内気消極的人見知りなところです〜」
最初のホームルームで自己紹介するには、こんなところかなあ。
ウケを狙いすぎても、誰も反応してくれないかもしれないし……。
ヘタすりゃ、ずっとぼっちになりかねない。
俺は、なんとなく窓から見える新緑の公孫樹並木を眺めたり、何も書かれていない黒板を見たり、自分の机以外のテリトリーを見つけあぐねていた。
ふと、甘い匂いが流れてきた。
俺は、幸か不幸か、同じクラスとなった全員の体臭を嗅ぎ分け、それぞれの緊張という心の動きまで判るくらい嗅覚が敏感だ。犬並みと自分でも思う。
服を買いに行くと何人が試着したものか分るし、痴漢に間違えられたお兄さんを助けて、真犯人を名指ししたこともある。
中学では同じクラスの男子女子問わず、大人になったのが判ったりして、まぁ、その、なんだ、不幸になったこともある。
それでも男同士ってのは、楽なんだけどねぇ。
女は怖い。
その時は変態扱いされたけれど、ひととおりのアロマオイルやハーブ、リップクリームやらコロンやらを嗅ぎ分けてみせたら、女子たちは手の平を返した。
俺のことを変態呼ばわりしたことも忘れ、自分のオリジナルの香りとやらを俺に調合させるようになりやがった。
で、それでも、恋愛の対象からは外されて今日に至っている。
で、この匂い、初めてだけど健康な女性のもの。虫歯、なし。歯槽膿漏、なし。体外、体内とも出血、腫瘍なし。虫歯もガンも、においがあるんだぜ。
新陳代謝はかなり速い。激しいスポーツをしているのかもしれない。シャンプーは○○○社のナチュラルなシリーズのもの。服は洗濯石けんで洗っているらしい。女子っぽい香料が極めて少ないのは評価できる。普通の男子だと物足らないかもしれないけど。
まあ、我ながら本当に犬並みだ……。
とにかく、率直に言って、ここまで良い香りの女子って初めてだ。
風向きからして、俺から見て廊下側の横、二つ置いた席。
首をまわすと、ビンゴ。
そちらの方向にいたのは、同じ中学出身者もいるだろうに、たった一人で座っている女子。まぁ、一人しかいないのは判っていたけれど。
なぜか、むこうも同時にこちらを見た。
視線が合う。
細面、黒い髪は背中の真ん中辺りまであるのを、一か所でざっくり纏めている。色白。切れ長の大きな目。唇は桜色。鼻は小さめだけど綺麗に通っている。内気そうでおとなしそうで、あまりに整っているので、可愛いと言うより美人。親しみやすいとか、しっかりしているとかより、「聖」とか「高貴」ってイメージ。笑顔が想像しにくいタイプかな。お嬢様よりお姫様、巫
昔書いたもののブラッシュアップです。