Ⅳ
「だ、誰って! 出会い頭に誰とは随分とご挨拶だな。人がこうして引きこもりの彼女の身を案じて来てやったのに」
「蓮先輩・・・・・・きっと忘れられてるんですよ・・・・・・うぅ・・・・・・僕、今結構ショックです」
ドアの向こうにいたのは、もちろん迎えの者などではなく。
怪しい男子二人組だった。
「あ・・・・・・いや、えっと。私、あなた達のこと知らないんですけど」
そして私は俗に言う「コミュ障」、会話が苦手、数ヶ月間人と話していない引きこもり。本領発揮の時間である。
悲しきかな。
っていうかこの人たち、ホント誰。
「ほらやっぱり忘れられてるじゃないですか!」
「そ、そんな馬鹿な・・・・・・。ま、まあ落ち着け、祐平。まだ話は終わっちゃいねえ」
「始められる段階にすらないんですよ!」
「お、おう、まあ、それは・・・・・・」
あれ、ちょっと待てよ。
思い当たる節がある。
さっき、この二人組の大きいほう、「れんせんぱい」と呼ばれたほうは、私を「引きこもりの彼女」と言ったではないか。と、いうことはこいつ、さっき私の回想シーンに登場した・・・・・・。
「あーっ、あの男!」
「ど、どの男だよあの男って! ひっでぇ!」
「思い出していただけたようで何よりです」
「かなり悪い方向で思い出されてないか、これ!?」
「れんせんぱいって言うんですね。名前までは覚えてなかったもので」
「菅原蓮だ! 泣きてぇよ、俺は・・・・・・」
「蓮先輩、落ち着いてください。・・・・・・ともあれ、僕もショックですよ。奏音先輩、あなたは引きこもる前に、蓮先輩に敬語なんか使ってなかったじゃないですか」
「そ、そうなんだ?」
「はい、そうです。奏音先輩の近況が気になって何度かここを訪ねたのですが、僕たち臆病なもので、会う前に華麗なる回れ右を決めていたんです」
「華麗なる回れ右って・・・・・・。てか、私、この人とまだ付き合ってたんだねぇ」
「かのぉ――――――――ん‼」
さっきからこの「連戦パイ」とやら、叫んでばかりで近所迷惑だ。それに身を案じてと言われても、さっきまで忘れていたような人たちに案じられる身は無い。
押し付けがましい人たちだ。
しかも男子二人で女子の部屋を訪問しようと思っていただなんて、変態疑惑をかけられても仕方ない。
・・・・・・いや、でも。
と、私は思い直す。
この人たち、もしかしたら使えるんじゃないか?
長らく引きこもっている私の身を案じていたというのなら、それなりに私とは深い関わりを持っていて、それなりに好意を持っているのだろう。だとしたら、もしかしたら。
「生贄落札会」が行われているという「館」に。
「玄叢館」に。
ついてきてくれるのではないか?
だとしたら丁度良い。
男手が欲しい場面も出てくるかもしれないし、この二人についてきて貰わない手は無いだろう。
なんという幸運。
「・・・・・・という訳なんだけど、ついてきてくれない? そこのお二人さん」
「いや、どういう訳だよ。華麗なる回れ右から話が飛びすぎて理解が追いつかないって」
しまった、長い間人と話さなかったせいで・・・・・・。思った通り、ばっちり本領を発揮してしまった。
発揮したくも無い本領を!
「とりあえず説明をお願いします、奏音先輩」
「あー、いや、実はね・・・・・・? 『生贄落札会』の話って知ってる? 私、今からそこに行くんだけど」
「ついて来いってか」
「うん、そゆこと」
・・・・・・・・・。
「はぁ―――――――!?」
叫ばれてしまった。
大音量で。
ああ・・・・・・近所の方から苦情が来るんだろうな・・・・・・また母に迷惑をかけてしまう。
「連戦パイ、うるさい」
「俺はパイじゃねぇ! 菅原蓮だ! 何だよ連戦パイって! 誰と戦ってるんだ!」
「え、だってそこの人が連戦パイって」
「僕ってそこの人扱いなんですか? 小林ですよ? 小林祐平ですよ?」
「はあ、祐平ですか。・・・・・・で、連戦パイ。あと幽閉。ついてきてくれるの? くれないの?」
「俺はパイじゃねえ! 話はそれからだ!」
「・・・・・・僕も幽閉じゃないですからね? 何ですか幽閉って。可哀想な子じゃないですか」
「えーっと・・・・・・連戦? あとyou,hey?」
「お前わざとやってるだろ! ・・・・・・まあ、今はそれでいいとして、だ。『生贄落札会』って、アレだろ、『玄叢館』だろ。祠のない鳥居をくぐると・・・・・・ってやつ。そもそもあの噂自体が眉唾にしか思えねが・・・・・・。もし仮に、その噂が本物だったとして、そうだったらまず帰って来られないだろうな。いくらお前でも、タダではついていけねえ。・・・・・・そうだな。理由を聞かせてくれねえか」
顔をしかめて、菅原蓮が問いかけてきた。
「僕も同感です。理由を教えてください、奏音先輩」
「ああ、理由ね。・・・・・・って、急がなきゃ! そうだよ私急いでるんだよ! 早くしないと風花がチータスにあんなことやこんなことされちゃう!」
そうだ、すっかり失念していたが、私は急いでいるのだ。さっさとついてきて貰わねば。
「えっ・・・・・・風花先輩があんなことや・・・・・・? チータスって落札会の主催者って噂の人ですよね。チータスさんは変態さんなんですか!」
「変態さんって何だよ・・・・・・兵隊さんみたいに言うな。で、何だ、奏音。風花と連絡が取れないのか」
「飲み込みが早くて助かるよ、連戦。そういうこと――」
「俺は! 連戦じゃ! ないっ!」
……と、過程はともかくとして。
私は無事、二人分の男手を確保したのだった。
――余談だが、菅原蓮については完全に忘れていたものの、実は小林祐平に関しては明確に覚えているのだ。まだ学校に通っていた頃、風花以外に味方でいてくれて、相談に乗ってくれたり雑談をしてくれたりした、あの姉弟だ。
――小林ミドリと小林祐平。
しかし彼ら――少なくとも彼――は、記憶にないようである。忘れているようである。
いや、そもそも最後まで気付くことは無かったのかもしれない。
自分たちが犯した、罪の事なんて――。
先に言っておきます。
祐平とミドリの「罪」に関しては、充分な伏線回収がされておりません。
いや、それっぽいことは書きました。
頑張って読めば、それと読めないこともないです。
けど伏線回収と言うには、あまりにもお粗末な……はい……。
見逃してやってください……これからも「館」をよろしくお願いします……!