エピローグ
「……はっ……っくしょぃっ!」
暗い部屋で、くしゃみを一つ。
「……なんだってまあ、こんなに制服が埃っぽいわけ? いや理由は知ってるよ? 知ってるんだけど」
ハウスダストアレルギーの方が不登校を経験するのは、非常にお勧めできない。再び登校する決心がついたときに、ダニと埃が全力でその決心を萎えさせに来るからだ。
──と。
ピンポーン、と、ドアのチャイムが鳴った。
「はいはーい、今出ますー」
時間割を知らないので、全教科の教材を詰め込んだスクールバッグ。この重みも、悪くないと感じる。
ドアを開けた。
「おはよ、奏音」
風花がいい笑顔で迎えてくれる。やはり委員長様は制服を着ると真面目にしか見えない──が。
こいつアニヲタなんだよなぁ……。
私だって引きこもっている間、結構色々なアニメを観たけれど。暇だったし。だからその趣味を否定する気はさらさらないけれど。でも。
この外見から誰が想像できようか?
あの日の衝撃を──私はきっと、一生忘れない。二重の意味で。
あんなに驚かされる日は、きっと、後にも先にもあれ一度きりだろう。
──空を見上げると、どこまでも深い青空。少し雲が多いが、日差しが強すぎても元引きこもりの目には毒だ。これくらいがちょうどいい。
こんな明るい、今の私の感情は──貰い物だ。大切な親友と、あれからまだ話せていない恋人と、可愛いが変態の後輩と、頼れる先輩たちに、貰ったものだ。
それを、大切に育てて、いつか誰かに何らかの形で返せれば。
元引きこもりの所業としては、上々じゃないだろうか?
「──おはよう、風花」
「─、ところでさ、風花」
「うん?」
数ヶ月ぶりに歩く通学路。歩いて行ける高校がいい、と言っていた風花だが、もしかしたらこんなシチュエーションまで想定内だったのかもしれない。何せ、あの「館」の計画だって二、三年前からあったというし。
「結局、あの館は何だったの? どっから沸いたの?」
「いや、沸いてない沸いてない──ホントに、ただ最初っからあそこに建ってたんだって。調べたら本当に孤児院だったみたいだけど」
「えっ、あんな大豪邸が? ずっとあの山奥に建ってたって? 正気?」
「いやあ、世の中には変わったひとがいるんだねぇ」
風花さん、あなたも充分変わってますからね? もちろん私も。
「あと、ネット上……掲示板で誰だかが言ってた、変なサイト名……暗号? あれはなんだったの?」
「ああ、あれ? 確か、変な文字列の方は、パソコンのキーボードに書いてある平仮名を見て本来のサイト名で打ったらああなるんだったような……。で、明日紗、みたいな方は、サイト名をローマ字で書き出したのを反対から読んだらああなるんだった筈。あれ考えたの、直人先輩なんだよね」
「へぇー……」
序盤の出来事過ぎて、どんなものだったかはよく思い出せないが。
「あ、そうそう、チラッと言ったかもしれないけどさ、チータス役、あれ本当は蓮先輩がやる予定だったんだよ」
「マジ? 蓮があれを? ……キモッ」
「うわぁ、学校一のモテ男をキモいって言ったよこの人……。ま、でも、結局この計画、蓮先輩がいなかったら何も成立しなかったわけなんだからさ。妥当だよ」
「う……ん。意外だった。蓮があそこまで私のこと想ってくれてたなんて」
「小春先輩じゃないけど、愛する者を救うのは犠牲を払っても当然──蓮先輩は、あれくらい当然って思ってるよ、きっと」
ああ、チータスといえば。
紅暮葉が華先輩だ、と、よくあれで祐平に感づかれなかったものだ。確かにあの「ゆーへいきゅんはアタシのだから! にゃふふ」というキャラからは想像もつかないだろうが、声で分かってもおかしくはないだろうに。
健先輩も然り、だ。私は面識がなかったが、祐平は健先輩と親しいようだったし……。
あいつ、私が思っていたより馬鹿なのかもしれない。
──などと、失礼なことを考えていると。
「あ、風花、高校って、──あれだっけ?」
「だっけ? って……。忘れるほど休学すんなよ」
私たちの通う高校だと思われる建物が、眼前に迫っていた。
某県立西高校。どこにでもありそうな公立高校で、校舎は割りと古い。何の偶然か、それとも立地上仕方ないのか、中学校の頃から変わらず略称は『西校』だ。
そんな『西校』の、少し塗料の剥れた校門を前に、思う。
今度の『西校』では、せっかく貰ったこの感情と共に、楽しく過ごせますように──。
「さて、奏音」
「うん?」
「改めて新生活の抱負をどうぞ?」
夏休みは目前。遅刻確定のスタートダッシュ。それでも皆の思いやりで重々しく踏み出す私の『第一歩』は──。
「じゃ、『友だち百人できるかな』で」
──重く、しかし、軽やかに──。
〈【Story Of Mansion】The Happy End〉
はい!
遂に……遂に!
完結、です!!!
まずは、ここまでお読み下さった皆様に、心より感謝申し上げます。
改めまして、この作品は木染維月が中学二年生の頃に書いたものです。今に比べればストーリングも文章も表現も未熟なものですし、何より、直接登場しないとはいえいじめというテーマを扱っていることから、不快に思われた方もいらっしゃるかもしれません。若し不快に思われた方がいらっしゃったら、遠慮なく木染のTwitterのDMまでお越し下さい。全力で謝罪致します。
ですが、未熟なりにもこのお話は、物書きを志して早六年、実質はじめて完結させることが出来た作品です。自分で納得のいってない部分ももちろんありますが、キャラクターの一人一人が愛おしいですし、どの章にも迷ったり悩んだり改稿推敲を重ねた思い出があります。この作品をなろうに投稿するかどうかは先程も述べたようにテーマもテーマですし正直かなり悩みましたが、このような形で皆様に見ていただくことに致しました。
私事になりますが、この作品を書いている最中本当に色々なことがあり、沢山の人に助けて貰いました。奏音ほどではないにしても厭世的になってしまうような出来事もあり、奏音の心理描写にはそのあたりが大きく影響しています。ですので「曰く付きの館」完結というこの場を借りて、当時私が迷惑をかけた人たちにお詫び申し上げると共に、深く感謝申し上げます。
最後にもう一度、ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました!
引き続き木染維月をよろしくお願い致します。




