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曰く付きの館  作者: 木染維月
終章 贈情
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 ……気まずい沈黙が、食堂全体を覆っていた。


 風花だけが「あ、あれ?」と、不思議そうに首を傾げている。


「わ、私……何か変なこと言った?」


 変なことしか言っていない。

 とりあえず、私は、風花にずっと聞きたかったことを聞くことにした。


「風花……言いたいことは、お礼も苦情も山ほどあるんだけど」


「うん」


「でもまずは、これだけ聞かせて。……あんたどんな趣味してんの? 幼女メイドがあんたの趣味で投入された人材だってことに私は一番驚愕を覚えたよ?」


 ……食堂内の沈黙が、一段と気まずいものへと変わるのが分かった。

 見かねたのか、チータス(健先輩)が、「あ、あのな──?」と、口を開きかけた──のを、遮って。

 風花が、両手をバン!とテーブルについて立ち上がる。


「だって! しょうがないじゃん! いや奏音は知らなかったかもしれないけど──!」


 一息、



「私、アニヲタなんだもん!」



 …………………………、は?


「だってだって! 異世界って聞いたら可愛い女の子呼びたくなるじゃん! もはや異世界とメイドさんなんてセットじゃん、ニコイチじゃん! 奏音今まで黙っててごめんねでも小野さんこういう人間だから──ッ!」


 チータスを除いた、この場にいる全員が口を開けたまま静止する。にもかかわらず力説する風花は、まあ何というか──悪くない表情では、あった。


 あった、けど。

 何この衝撃のカミングアウト──。


 さっきの話も、序盤は「ここ異世界じゃないのか、っていうか、私ひとりのためにそんな──」と普通に感動していたのに、途中から流れがおかしくなり、最終的には風花がよくわからないことを口走り始める、という謎の結末に至ったわけで、うん、なんか今日の小野さんおかしくないですか?


 ──いや。

 恐らく──こっちが、「素」なのだろう。

 だって、こんな楽しそうな風花、見たことない。

 なら──。


「──っていうのも、実はこの計画のうちだったりするのよ? なにしろ、この計画の全容を把握してるのは私だけだもの──どう? 祐平、おねーちゃんのこと、見直した?」


 突然言葉を発するミドリ先輩。


 ……ん?

 つまり、この計画の目的は──


「二つあった、ってことですか? 私の心を救うっていうのと、風花が私たちに素の姿を晒せるようにするっていう目的」


「違うわよ。二つどころじゃない。色んな人から色んな裏の目的を持ちかけられてたから、私、結構大変だったのよ? まぁそりゃあこんな壮大な計画、色々やりたくなるのは無理もないけどね。えーっと、まず、蓮くんの、自分に向いていた愛を他人に向けること、とか。蓮くんと奏音ちゃんの仲を修復する、とか。あと、祐平にすっぱり奏音ちゃんを諦めてもらうこととか。華ちゃんの、祐平といちゃいちゃしたいっていうわがままとか。健の、迷子になった自我を見つけてもらうこととか」


 ──色々理解が追いつかない。

 が、つまるところ──。


「四つ目のはどうでもいい気がしますけど」


「やっぱり奏音ちゃんもそう思う? 祐平はおねーちゃんのものだよねぇ」


「……じゃなくて」




「誰もが皆、結局何かしら悩んでる。もちろんそれの大きい小さいはあるだろうが、その大きさなんて個人の主観によるものだし、こんな『世界』、異世界規模で見ればその大きさの差ですら誤差でしかない。だからまあ、ちょくちょく悩みながらも『なんで私だけが』なんて妄想に囚われることなく精一杯生きなさい──そういうことですか?」




 そんな私の言葉に──ミドリ先輩は、親指を突き立ててにっと笑った。


「うん。そゆこと」


 そうか。


 どうやら世界は──私が思っている以上に暗くて。

 そんな世界を──皆で、明かりを持ち寄って、足元を照らし合いながら、時には月夜に照らされながら──そんなふうに、補い合いで生きてるんだ。


 その場凌ぎかもしれない。

 一時的な感情かもしれない。


 それでも──これだけの人に、こんな大規模なことをさせるくらいには、世界は暖かい。


 だから──。


「──────ありがとう」


 涙の花が一輪、咲いた。

 きっと私だけではなかった筈だ。



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