Ⅴ
数分間――。
気まずい沈黙が、続いた。
そりゃあそうだろう。俺もミドリも、彼氏彼女を作るのは初めてのことなんだから。
――男ならしっかりしろ、だって?
ふん、笑わば笑え。「日本男児たるもの――」なんて時代はとうに過ぎた、今は男女平等の時代だ。真の男女平等主義者たるものこうでなくてはいかん。うん、現代社会生活的適合者の鑑だ、今の俺。素晴らしい。
――とは言え。
気まずいのは事実だし、さっきミドリに心を救って貰ったのもまた事実。俺が日本男児だとか現代社会の模範だとかそういうのはともかくとして、ここは普通に俺が声を発するべきかもしれない・・・・・・。
「・・・・・・お、おい」
「――あ、あのっ!」
――ハモったぁ――・・・・・・。
気まずい沈黙、再び。
ああ、なんか恥ずかしい・・・・・・。というか、情けない。もう、ミドリと俺で性別を入れ替えたほうがいいのではないだろうか?
せめてもの意地、と、俺は再び声を発した。
「さ、先に言えよ。俺のはたいした用じゃねぇし」
「え、あ、そう? じゃ、お先に・・・・・・。あの、さ」
「おう」
「・・・・・・さっきの返事、まだ聞いてない」
あっ。
確かに。
俺がしたことといえば、華への怨み節をアホの一言に代えて発散させただけである。
――どなたか。
俺より馬鹿で情けない男を見つけたら、速やかに俺の携帯電話にお電話ください。堀口健が狂喜いたします。電話番号は――。
「わ、わりぃ・・・・・・。実は、華に、『センパイが愛のコ・ク・ハ・クしなかった場合には! アタシの手によって健センパイの恥ずかしい画像がバラ撒かれますにゃー!』って脅されてたんだよ。それでさっき、あんな神妙な面で、いつお前に告白しようか悩んでたところだったんだ。――って、これでお察しいただけますかね?」
「え、何? さっきの、華ちゃんの真似? 似てなさ過ぎて面白いよ。もうそっち方面のキャラでいけば」
――ミドリってこんな毒舌キャラだったっけか。
俺が知ってるミドリと何か違うぞ。
「もしかして・・・・・・小林さん機嫌悪いので?」
「理由を述べよ、三十字以内で」
どうやらご機嫌がよろしくないらしい。
「えーっと・・・・・・お前が告白してくれた後の俺の対応がクソだったから?」
「はずれ」
「数分間にわたる気まずい沈黙を、俺が男らしくもなく情けなく放置したため?」
「はずれだし字数オーバー」
「えー・・・・・・。あ、分かった! 俺の髪型が気に喰わないんだろ、お前!」
「失格」
あれ。
おかしいな。
「せ・い・か・い・は~? 告白されてから数分間にわたって相手を放置するという乙女心を踏みにじるような真似をした挙句に散々待たせた後の返事が明言を避けるような非常に回りくどい言い方でありなおかつ相手に自分で察するように要求してきたこと――でしたー!」
いい笑顔で言い切るミドリ。
――いや小林さん! 目が笑ってないよ! この人怖い! しかもお前、思いっきり字数オーバーしてるからな!?
「あ、いや、その、悪かった! 悪かったけど、ついさっきまで彼女いない暦=年齢だった俺に対する要求レベル高すぎません!?」
「高すぎません」
俺の必死の弁明(という名の悪足掻き)も、絶対零度のトーンで一刀両断されてしまう。
――こいつ、怒らせちゃいけない奴だ。
いや知ってたけどな! でもそれは幼馴染としてであって! こう、立場が変われば捉え方もまた別――!
・・・・・・分かったよ!
言うよ、これで言わないのはさすがに男としての沽券に関わるもんなァ!
さすがに情けねぇもんなァ!
くそっ! やってられるかっ!
「ミドリ!」
「は、はい!」
「―――――――――――――――す、好きだッ!!」
「し、知ってるっ」
ぷい、っとそっぽを向くミドリ。
でもその横顔が嬉しそうなのを、俺は見逃さなかった。
――はぁー・・・・・・心臓に悪ぃ! 当分言わねぇ。でもまぁ・・・・・・今日のは、こんな顔見られたんだから、まぁいいか・・・・・・。
俺は心の中でそう呟いて、ため息をついた。




