Ⅲ
「健、なにボーっとしてるの?」
「ん? ああ、わりぃ」
それから数ヶ月。
風花の公私混同も甚だしい計画は着々と進められ、ついには風花の趣味でストーリ本筋とは全く関係のない幼女メイドやきのこ大好きっ娘、チータスと暮葉の部下、等々の人材が投入され、「せっかく作った舞台だから人をたくさん呼びたい」というこれまた物語とは全く関係のない理由で他の幼馴染や風花の知り合いがお呼ばれし――今の惨状に、至る。
「そんな深刻な顔しなくたっていいじゃない。これはこれで楽しいわよ? 祐平も元気そうだったことだし、作り物とはいえこんな異世界、めいいっぱい楽しまなくちゃ損だと思うけど」
「そうかもしんねぇけどさぁ・・・・・・」
今この館にいる人物で「舞台裏」を知らないのは、奏音と祐平だけである。嘘が下手すぎる彼に舞台裏を教えるのはもちろんしてはならないことだが、それにしたって当事者以外で知らないのが一人だけというのはかわいそうな気がしてこようというものだ。
それはそうと。
先程の「可愛い後輩の笑顔が云々」のくだりで何か勘違いされていると困るので、ここに明記しておきたいことがある。
俺の大本命は――。
小林ミドリである。
意外に思うだろうか? だが頭が良かろうが悪かろうが所詮男は男、そういった感情のひとつやふたつもないなどかえって不健全である。可愛い女の子には劣情も抱くし、そういう願望も抱く。大きなソレを見れば変な感情も沸くし、アレな本を見せられればそういうことも起きる。当たり前だ。
だって男だもの。
もちろんミドリに対してはそんなやらしい感情はないが、要するに俺も思春期男子だということだ。何もおかしなことはない。
そして、この、『紅暮葉』こと華の善意によって生み出されたこの状況。要するに、二人っきり――。
いや何これ。彼女いない暦=年齢の俺に、何を求めたわけ? 金井華さんよ。
ハードル高すぎ。無理。帰る。帰って寝る。そんな心境でしかない。
ああ、そう、ちなみに、「たくさん人を呼びたい」の一環で呼ばれた、ストーリー本筋に関係ない人物のひとり――風花の同級生、楓さんは、俺に要らない気を使ってどこか別の場所へ行った。自称するとおりに馬鹿なのだったら、要らない気を使わないで欲しい。
・・・・・・いや、まあ、あのペア分けが、ある程度仕方ないこと――例えば華が一人、というのは、まあ、分かる。あの後早着替えして、たそがれる小林祐平少年に『裏設定』を教える、という重要な仕事があったから。そして小春と直人がペアなのも――分からなくはない。あの謎にハイテンションな幼女気取りをどうにかできるのは、冷静沈着な直人しかいないから。だから俺とミドリが消去法で――ってのも、分からなくは、ない。
分からなくは、ない、けど、でも!
俺に――この状況で、どうしろってんだ!
事前の打合せで「ちゃーんとするんですよー? 愛の、コ・ク・ハ・ク! しないとー・・・・・・健センパイの恥ずかしい画像がー・・・・・・バラ撒かれちゃいますにゃ! アタシの手によって! にゃふふふふん」などと耳打ちされては。どうしようもないではないか。あの後輩、地味にえげつないことをさらっとしてくるのだ。「恥ずかしい画像」が一体どんな画像のことを指しているのか俺には皆目見当もつかないが、きっと「バラ撒く」というのは、冗談の類ではないのだろう。
はぁ・・・・・・せめて、「恥ずかしい画像」が何なのか、華を問いただしておくべきだった。やましいところは何もないから、もしかするとバラ撒かれても問題ないものかもしれない。それに、あの後輩に限ってはそんなことはないだろうが、ブラフの可能性もある。そうだった場合、実際に告白して結果がどうだったにせよ、華を激しく怨むだろう。ただのブラフに乗っかって告白しましたなど、誰に誇れようか。
だが――だが、冷静に考えろ堀口健。もし華が本当に俺の恥ずかしい画像を手にしているとして、さらに華を無視して告白しなかった場合――その場合、俺の恥ずかしい画像はバラ撒かれ、後に告白しようと思ったときには既にミドリに幻滅されており、勝算はゼロとなる。それは良くない。非常に良くない。だから、リスクを回避するためには、今この場で告白するのが最善手。最善手、なの、だが・・・・・・。
だが――だが、今告白した場合の、気まずい空気はどうすればいい? それもリスクのうちではないだろうか? ならばリスク回避という思考のもと、今ことに及ぶのは――。
だが――だが、この機会を逃した場合のリスクの方が大きい。それは分かっている。分かっているが――だが――だが――だが――!
いや、本当は結論などとうに出ているのだ。それを認めたくないがために、だがだが言い続けているに過ぎない。それこそ冷静に考えろ、だ。
今・・・・・・言うしか、ないのか・・・・・・。
はぁ。
全く、告白するしないでこんなにうじうじと悩んで、女かっつーの。
やってられるか。
確かにこんな風に、半ば強制的に告白せざるを得ない状況にでもならなきゃ、間違っても告白なんてしないだろう。だから、もしかしたら華には感謝すべきなのかもしれない。
それに、きっと――この機会を逃せば、一生、想いは伝わらない。もう二度と、そんな機会は訪れない。
まぁ、でも――華には、後でたっぷり怨み節を吐かせてもらうがな。
覚えてろよ。
では――堀口健、一世一代の――。
――って、あれ?
ちょっと待て。
と、いよいよ告白してやろうという時に、俺は――。
――重大なことに思い至った。




