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曰く付きの館  作者: 木染維月
第五章 紙上
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 昔むかし――なんて言うつもりはないが、それでも、ある程度昔の話。


 山奥にひとつ、やたらと豪奢賢覧な内装の、明らかに設立者の公私混同を窺わせる、とても孤児院とは思えない成金趣味の孤児院があったという。

 そこには外を知らない子供たちがたくさん住んでいて――外を知らないままに死にゆく者がたくさん住んでいた。その者たちはしかし、設立者の暖かい愛情と、何一つ不自由しない、設備の整った館、広すぎる敷地故に、毎日が不幸であることも、平淡であることもなかったそうだ。それなりに幸せで、それなりに充実した日々を過ごしていたのだという。

 しかしそんな山奥の孤児院がそう長く続く訳もなく、当然のように経営破綻。ただ山奥に、やたらと場違いな成金趣味の洋館が残されるのみとなった。


 ――そして、その洋館にはいつしか『鬼』が住まうようになったという。


 『鬼』は生きてゆくのに『生贄』――即ち人身御供を必要とし、また、他人をも『鬼』に変える能力を持った、そんな生物だった。

 どこからその『鬼』なる生物が沸いたのかは不明だが、おそらく民間伝承『生贄伝説』の成れの果てであろう。元の伝承に登場した加虐趣味の老婆がどこへ行ったのかも、また不明である。


 そんでもって『鬼』どもの間では、圧倒的に慢性的な『生贄』不足。こんな山奥を訪れる人間などいる訳がないのだから、当然だ。だが、それで飢えに苦しみつつ己の身体が果てるのを大人しく待つ『鬼』ではない。そんな良い性格をしていたなら、そもそも『鬼』とは呼ばれなかっただろう。だから数少ない生贄を『公正に』奪い合うために、オークション形式で生贄を手にする者を決めましょう、それが『生贄落札会』――で、ある。オークションを開催するにあたっては、館内では独自の通貨も作られたり、秩序・ルールが整えられたりして、それこそ独立した一つの国家――まさに『異世界』のような空間となっていったのだそう。そしてその主催者はチータスなる人物、しかしそのチータスさえも実は駒であり、実際に全ての糸を裏で引いているのが、かつての孤児院の設立者の子孫である美しき熟女、紅暮葉なのだ。


 暮葉は未だにこの場が孤児院であるかのような妄想に囚われているふりをして、『生贄』として連れてこられた人々――『書庫の番人』であったり『厨房の番人』であったり――を、逃がすまいとしている。だがチータスは、『生贄』を解放しようと、暮葉に逆らう算段を立てていた。


 そんな『生贄』のなかに、ある少女のドッペルゲンガーが、一人。ドッペルゲンガーとはいっても本人と出会っても死ぬことはない、いわば少女の「もう一つの人格」が肉体を持って一人歩きしだしたという、そんな人物が紛れ込んでいた。彼女はいつしか『植物室の番人』となり、ほかの番人と同じように『鬼』に喰われるのを待つ身となる。


 が。


 運命というのは数奇なもので、そのドッペルゲンガーに引き寄せられるように、少女もまた、ふらり、とその洋館に足を踏み入れることとなる。何のことはない、次なる『生贄』としてチータスなり暮葉なりに攫われた親友、小野風花を助けにやってきたのだ。年上の恋人と、少女に想いを寄せる一人の少年を引き連れて――。




「・・・・・・ってかんじで。よろしくな、先輩」


「うん、んじゃまあ、俺にとりあえず一言ぶんの発言権をくれ、ブラザーよ」


 俺は、とびっきりの笑顔で、ぴしゃりと言い放った。


「――お前ら馬鹿なの!?」


 ズバーン! と、シンプルかつ的確な正論に、しかし蓮、


「・・・・・・いやー・・・・・・これ考えたの、全面的に風花だから・・・・・・何とも・・・・・・」


 と口ごもる。


 だが――誰が考えた、とか。

 そういう問題じゃ、なくないか!?


「いや、誰の案かは何となく察しつくけど、だとしても! だとしても何か出来たろ! 反対しろよどうしてこんな大掛かりなことしようと思ったんだテメェら馬鹿なのか! いやもう馬鹿なんて表現じゃ申し訳ねェよなァ、ホント! まずテメェら、とりあえず! 馬と鹿に! 誠心誠意! 真心こめて! 一生分の土下座かましてこいアホぉぉぉおおおおおおッ!!」


 きっと、人生でこんなに叫ぶのは後にも先にもこれきりだったろう。

 それくらい叫んだ。

 そして、こんな大馬鹿野郎を見るのも、人生でこれっきりに違いない。

 それくらいの馬鹿だと思った。


 ――このいけ好かない色男が本気で惚れた女。

 それは分かる。


 ――堅物学級委員長アニヲタが本気で大切に思っている親友。

 それも分かる。


 ――その二人が本気で高橋奏音を救おうとして考えて、その結果である。

 それも、分かってる。


 だが――だがッ!


 こんな、たかが女ひとり救うのに大掛かりすぎる計画、俺にどうしろっつーんだ!? スケールが壮大すぎて引くわ!


「い、いや・・・・・・だからな? これ考えたの風花なんだってば、先輩」


「いやでもお前、ノリノリじゃねぇかよブラザー!」


 そう、この色男、風花が考えた風花が計画した、と風花のせいにばかりしているが、しかしこの俺を相手に嘘をつこうなんて甘い。何を隠そう、こいつ、内心ではノリノリで計画を楽しんでやがるのだ。


「・・・・・・そういうところで天才性発揮すんのやめろよ!?」


 図星を突かれて逆ギレする色男。いやもう色も何もあったもんじゃない、ただの男だ。こんなトンデモナイ計画に賛同しているような奴に色気などあってたまるか。


 俺は、ため息をひとつ。こんな計画が実行されても困るので、仕方なしに問題点を羅列してやることにした。


「そもそもだな、ブラザー。この計画が色々おかしいんだ。まず一つ、その計画聞く限りじゃ長期戦になりそうだけど、そんな山奥の館に篭城して食料飲料その他諸々ライフラインはどーすんですか」


「・・・・・・確かに」


「そして二つ、それ祐平に隠したままやるんだろ? そしてバレたら高橋奏音にもバレて終わりだろ? 絶対バレないって確証はどこにあるんですか」


「・・・・・・確かに」


「最後に三つ、そうそういつまでも隠し通せるとは思えないけど、高橋奏音にはいつのタイミングで打ち明けるんですか。そして『騙されてた』って知った高橋奏音がまた人間不信になる可能性は考えなかったんですか、お前らの頭ン中にはスーパーで詰め放題やってる入浴剤か飴玉か何かでも入ってるんですか」


「・・・・・・確かに・・・・・・って、最後のは何なんだよ!」


 何なら栗とかでも構わなかったが。秋になれば栗の詰め放題とかもやってるし。


「三つ目は深刻だな。そんじゃあ元の木阿弥だ」


「そーゆーこった。だからそんな計画はさっさと・・・・・・」


 廃止しちまえよブラザー、と言いかけた俺に。

 しかしこの馬鹿は。


「そんなら、風花と組んで奏音のアフターケア頼むわ。よろしくな、先輩」


 爽やか系モテ男の笑顔で、さらっととんでもないことを言いやがった。


「・・・・・・もう一回だけ聞くぞ。お前ら・・・・・・いやお前、マジもんの馬鹿なの?」


 入浴剤ですら詰まってれば御の字、もしかしたらこいつの頭の中って空洞なんじゃないだろうか?


「だから、怨むなら風化を怨んでくれよ。俺はただ、学級委員長様から、先輩に協力を仰ぎに行く役を仰せつかっただけ。だって、あんな無表情だった奴にあんなにいい笑顔で頼まれちゃ、断れねえよ。先輩、分かってくれ」


「分かってくれ、って言われてもなあ・・・・・・」


 風花も仲の良い後輩には違いない。だから、そんな無表情な奴のそんないい笑顔、何となく想像がつく。きっと、いつぞやに俺に「ハマってるアニメがあるんです」と一歩的にアニメの話をまくし立ててきたときのような――・・・・・・。


「・・・・・・・・・・・・あー・・・・・・もう――くそッ! やるよ! やってやるよしょーがねェなァ! 可愛い後輩のためだもんなァ、ぁあ!?」


 ホント、仕方ねえよなぁ――なんて、言って、でも。


 あの堅物な後輩のあの表情がもう一度見られるのなら、人助けも悪いもんじゃない――そんなことを、思うのだった。


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