Ⅰ
俺が初めてこの計画を知らされたのは、何時だっただろうか。
俺――つまり堀口健と、小林ミドリ、森直人、そして小川小春の四人は幼馴染である。そしてその計画を知らせに来たのは、小林ミドリの弟である小林祐平と、その先輩である菅原蓮だった。
無論、祐平のことは知っていた。というか、割合仲の良い後輩だった。ミドリ経由で知り合ったのはかなり幼い頃で、彼は俺によく懐いてくれていた。
そして、菅原蓮のことも知っていた。こちらは、俺が一方的に知っているだけである。どうやら菅原蓮のほうも祐平から話を聞いて俺を知っていたようではあるが、あくまで伝聞であり、互いに面識はなかった。俺が彼を知っているのは、彼が校内有名人だから。「西校天下の女たらし」とか呼ばれているというので前にこっそり吹奏楽部に見に行ったら、なんともまあいけ好かない色男だった。最近だと、ミドリが可愛がっている後輩でいじめられっ子の高橋奏音と付き合い始めたとか、何とか。どのみち俺には縁の無い話と思い、適当に聞き流していた。
そして、その可愛い幼馴染の弟と、いけ好かない色男が、神妙な面を下げて俺を訪ねてきたのである。
「おっ! 祐平じゃねーか! で、そっちは・・・・・・菅原蓮君、だよな? 蓮でいいよな。どうした?そんな顔してっと、世の中が暗ぁーくなって、闇の大魔王サマにマインドコントロールされちまうぜ!」
「ゆ、祐平。こいつ、本当にお前が言うような天才なのか?」
「聞こえてるぜ、蓮! まぁそうだな、確かにこの俺がギフト・オブ・ゴッド、天からの賜り者だッ! 崇め奉ってくれても、いいんだぜ?」
「・・・・・・健先輩。とりあえず落ち着きませんか?」
可愛い後輩に痛烈な突っ込みを喰らったのをよく覚えている。まあ予定調和。
そもそも俺のこの「中二病」キャラは、俺なりの処世術なのだ。
俺の頭脳の出来が他人より少々良い、というのは、どうやら否定しようのない事実らしい。ガキの頃から何となくそれは分かっていた。
だが、頭の良いだけの人間というのは、往々にして疎まれる。別に疎まれたって構いはしないが、それで万が一幼馴染たちまで変な目で見られるのは避けたかった。だから俺は、この「中二病」キャラを確立したのだ。常にやたらとハイテンションで言動はいちいち面倒臭い、あまり関わりたくないような気もするけれど憎めないし放っておけない。そんな立ち位置に、上手く収まったと思う。
でも――俺は。
代償として、本来在るべき、ありのままの自我を見失った。
自分ひとりで考え事をする時なんかは、まあ良い。だが、他人と接するときの自分の言動。どこまでが本当でどこまでが嘘なのか。何が真実で何が虚構なのか。
分からなくなって、相当な年月が経つ。
だんだんに、他人との関わりを持つことが苦痛になってゆく。
――それでも俺は、今までどおり、あのハイテンションを維持したまま、他人との関わり方も変えぬまま、日々を過ごした。
だから最近、思うのだ。そして、一人の部屋で、呟くのだ。
「××××」
その言葉を人前で口にすれば、俺が十八年間かけて必死で築き上げた虚構は、崩れてしまう。全てが水泡に帰してしまう。それだけは――どうしても、避けたかった。
閑話休題。
菅原蓮が訪ねて来たとき、正直、面倒くせぇ、帰れ、と思ったことは事実。しかし、彼の口から告げられた壮大な計画を聞いて――俺は、人生でおよそ初めて、驚愕というものをした。
まず彼は、祐平に席を外すように言った。俺は立ち話も何だし、と、彼を屋上に誘った。彼は一瞬赤面した後、それに応じた。赤面の理由は謎である。
「・・・・・・祐平にも、協力してもらうつもりではいるんです。でも、あいつ、嘘吐くの下手だから。隠しておきたい」
「そうだな、祐平はピュア・ホワイトな奴だ。そんなホワイトボーイに嘘吐きを強いるのは、万死に値する犯罪行為だぜ!」
そんな適当な相槌を打ち、本題に入るよう促す。彼は、ゆっくりと、壮大過ぎる計画を話し始めた。
「先輩――この町に、マイナーながらも細々と語り継がれている民間伝承、『生贄伝説』を知ってるか――?」
彼の話をまとめると。
この土地には、どうやら『生贄伝説』とかいうよく分からない伝承があるらしい。内容はどうも、山奥の鳥居をくぐった先にある民家に『鬼』と呼ばれる老婆が住んでいて、訪れた人を『生贄』として取って喰うのだとか、なんとか。さらにそのババアの気まぐれで、『鬼』に変えられる場合もあるのだとか、云々、そんな話のようだ。
して、その加虐趣味の鬼ババア伝説を小野風花から聞いた蓮、実際にその山奥に立ち入ったのだそう。そうしたらなんとビックリ、本当に鳥居があるではないか。しかしその先にあったのは、ドSババアの住まう民家ではなく――首相官邸も真っ青の、広大な敷地を持つ洋館だったのだ。だがライフラインも通っていない山奥のこと、まあ当然のように空き家だったそうだ。
中に入ってみると(不法侵入だ)、そこは異世界と見紛うような、絢爛な内装の洋館。で――山から下りてその話を風花にしたところ。
「なっ――い、異世界!? 異世界みたいって言いましたか蓮先輩! 異世界って! ね、蓮先輩、私、いいこと考えました! その館を使って、奏音を助けましょう! もう決めましたから! 決定事項だから! 異議ありませんね? っていうか受け付けないから!」
菅原蓮は、思った。
――『キャラ変』って怖い――。
「・・・・・・という訳だ。理解してもらえたか? 先輩」
「いやちっとも!?」
それ、ただの「小野風花の素の姿にショックを受けた話」じゃねーか! 俺は、心の中で盛大に突っ込みを入れる。だいたい、この色男の真意が未だに読めない。その洋館とやらを使って何かを企てているのは理解したが、その話を俺に持ちかけてどうしようというのか。
俺の表情を見て蓮は、本題に入っていないことに気が付いたらしい。コホン、とひとつ咳払いをして、話を再開した。
「つまり、風花の計画はこうだった。『あの民間伝承をベースにして、例の洋館を舞台にした、新たな都市伝説を作ろう。そして、その都市伝説を軸にして一つの物語を作り、私たちで演じるのだ。もちろん主人公は奏音。異世界と思えば奏音も堂々と行動できるかもしれないし、最終的に奏音の心を救えるような物語にすれば、この状況から奏音を救えるかもしれない。奏音が、また人間を信じられるようになるかもしれない』と。それで俺は、先輩に協力を仰ぎに来たって訳だ」
語り終えた蓮の、微妙な顔。俺は、とりあえず思ったことを口にした。
「はぁ。まあ理解はしたぜ。で、一つ言うけどな、その『異世界を舞台に』みたいなノリは――」
「風花の趣味、だよな、完ッ全に」
なぜ風花がそこまで異世界好きなのか――何となく俺は知っているが、それは風花のために黙っておくことにした。
言ってしまえば、まあ、アレだ。
超マジメな学級委員長が実はヲタクでした、ヲタクってやたらと異世界好きですよね、と、まあそういう話だ。
なぜ俺がそんなことを知っているのかと言われれば、それは、風花がミドリにこっそり打ち明けたのを、ミドリが俺に喋ってしまった(そして後日、それを知った風花に蹴っ飛ばされた)というあまり思い出したくない経緯がある・・・・・・。
だが、結局、俺に何をして欲しいのか、という部分が分からない。キャストとしてなのか、それとも他に何かしてほしいことでもあるというのだろうか。
「ああ、そうだ。俺が健先輩に何をしてほしいか、言ってないよな。まあ、キャストといえばそうなんだが――ちょっと、特殊な立ち位置についてほしいんで」
「はぁ?」
「えーっと、詳しいことはまた話すが・・・・・・。まず『設立者』紅暮葉役が、金井華。『主催者』あるいは『管理人』チータス役が、俺、菅原蓮。そこまでは決まってるんだ」
「うん、何言ってるかサッパリ分かんねェよ?」
「――俺、途中で殺されるかもしんないから」
さらり、と。
ただの予定を述べるかのように。
「今日、夕方から雨降るかもしんないから」というのと変わらない口調で。
そんな些末事はどうでもいいんだけどな、という口ぶりで。
蓮は、そう言った――。
――俺は、何も言えない。
「その場合には、先輩に『チータス』役を引き継いで欲しいんだよ」
蓮は澄ました顔でそう続けるが、俺には到底理解が出来ない。
「いや、お前、そんな――」
――風花たちは・・・・・・一体、何をしようとしている?
そんな、死ぬかもしれないような・・・・・・そんな御伽噺をひとつ、生み出して。
そうまでして、何がしたい?
「あ、誤解しないでくれ、先輩。死ぬかもしれないのは俺ひとりであって、本来ならそんな、死ぬような話じゃないんだ。ただ・・・・・・」
「ただ?」
「――俺が、奏音に怨まれすぎてる。それだけの話だよ」
俺は、人生でおよそ初めて――他人に対して、恐怖心を抱いた。
皆さま!五章ですよ!
連載始めて以来ずっと言ってる五章です。ハードル上げすぎたなと思います。でも「館」の中じゃ一番面白いんです。まず健がいいキャラしてますしね。(自画自賛)
そういうわけですから、皆さまぜひ!五章を!読んでやって下さい!よろしくお願いします!!




