Ⅰ
「ゆ・・・・・・ゆうへ――――――――い‼」
「祐平きゅ――――――――――ん‼」
「ぐふっ!?」
二匹の雌狼に突進され、僕の身体は壁際まで吹き飛ぶ。目の前で火花が散った。
「祐平、久し振りね! おねーちゃん心配してたんだよ? 元気だった? ねえ元気だった?」
「祐平きゅん、アタシも心配してたんだから! 大丈夫? アタシとミドリ先輩以外の女の子にちょっかい出されなかった?」
「とりあえず黙ってください」
僕はぴしゃりと言う。
女の子は好きだ。とりわけ小さい女の子は大好きだ。
でもこいつらだけは・・・・・・ッ!
獰猛過ぎる!
っていうか普通に怖いです!
「なんでよー! このおねーちゃんとの再会が嬉しくないのね!? おねーちゃん泣いちゃうわよ!?」
「いえいえミドリ先輩、アタシには分かりますぜ・・・・・・! 照れてるんですよ、この子! まったくもー、祐平きゅんは素直じゃないんだからにゃー。ねっ、祐平きゅん」
「ねっ、じゃないですよ」
ため息・・・・・・。
・・・・・・と。
そこに、口を挟んできた人物がいた。
「オイオイ、ミドリ、その辺にしとけよ? 祐平の奴が困ってんだろーが。てめーがブラザーのこと愛してんのは分かるけどよ、行き過ぎたラヴは時に人を破滅へと追いやるぜ?」
「健先輩・・・・・・!」
そう、この人こそが、僕の尊敬する「神からの賜り者」堀口健先輩である。中二病であることを除けば、こんなにも天才と称するに相応しい人物はいない。・・・・・・中二病であることを除けば。
聡い、というのとはちょっと違う。
頭が切れる、でも何かが足りない。
頭の良さとは理解力と記憶力だ、なんて言う人がいるが、この人の才はそういったものを超越しているように思う。むしろ、ただ「天才」という言葉でしか称することが出来ないのだ。
世でよく言われる、安っぽい天才どもとは一緒にしないで欲しい。
ちなみに彼は、「西校に潜む封印されし伝説の勇者と魔王の覚醒の時を見届けようの会」名誉会長を務めている。
「・・・・・・そうだな。・・・・・・ミドリも華も、程々にしておけ」
ぼそっと健先輩に賛同したのは、「三点リーダー直人」との異名と、「全ての台詞の前に必ず三点リーダーがついている」という伝説を持つ、森直人先輩。とにかく無口で表情の変化に乏しいのだが、真顔のままピースサインをしたり突然駄洒落をいったりするという、なかなか憎めないキャラをしている。所属は「pcゲーム製作同好会」。
「あら、そうですこと? わたくしはいいと思いますわ。だって、見ていて面白いですもの! ・・・・・・・祐平、睨まないでくださる? 失言でしたわ」
この似非セレブのような口調で話すのは、小川小春先輩だ。小春先輩は小さい。とにかく小さい。中三の僕より頭二つ分くらい小さい。もはや発育不良だ。そんでもって、もちろん、言うと怒る。ただ、この口調といい、痛々しいロリータファッションといい、狙ってやっているのではないかとの疑惑が根強く存在する――まあ僕に言わせれば、本物の幼女には、似非幼女では再現できない言い表しようのない魅力があるので、小春先輩のようなのには需要はないと思われ・・・・・・何でもないですごめんなさい。
所属は「紅茶に合う駄菓子を探す会」である。
「はあ・・・・・・まあ、いいです。とりあえず座ってください。だいたいのことは『彼女』から聞いていると思いますが、僕からも説明したいことがあるのです」
僕は改めて先輩たちの方に向き直って、言う。
が。
「え・・・・・・? 祐平、おねーちゃんは何も聞いてないわよ?」
「祐平きゅん、アタシも」
「・・・・・・俺もだ」
「わたくしもですわ」
え、嘘。
「――だそうだ、祐平。俺たちは何も聞いてねーっつう訳なんだけどよ・・・・・・ちょいと面倒くせえとは思うが、説明してくれブラザー! このスリリングかつエキサイティングな――」
「健、うるさいわよ」
お姉ちゃん、ナイス突っ込み。
ともあれ、僕はため息を一つつき、「彼女」がいる部屋のある方向を少し睨んだ。まったくあの人は・・・・・・。色々と僕に任せすぎじゃないだろうか?
仕方ない。僕は立ち上がってため息を一つ、やれやれと説明を始めた。
「さて、どこから話しましょうか――」
第四章に突入しました!
さてさて、ここからは個人的にちょっと好きなんですよね。五章の方が好きなんですが。
登場人物が多すぎるのが四章の唯一にして最大の難点なんですが、とにかくここからはそこそこ面白いですよ。作者が保証します。何より四章五章は明るいし。
そういうわけですので、これからも「館」をよろしくお願いします!