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曰く付きの館  作者: 木染維月
第一章 死情
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 さて、私こと高橋奏音は先ほどから散々、「死」がどうとか「都市伝説」がどうとかと言ってきたが――実際のところ、私には何ら関係のない話なのである。


 なぜなら。


 私は・・・・・・引きこもり、だから。


 理由はよく覚えていない。何となく虐めが原因だったような気もするが、確実に分かるのは、両親を亡くしたショックではないことくらいだ。――両親は共に健在である。


 あえて分かろうとも思わない。


 しかし、引きこもりとは案外楽ではないもので――とにかくすることが無く、ひたすら暇と闘わなければならないのだ。昔のことを回想しようにも忘れてしまったものはどうしようもないし、インターネットや読書もずっとしていれば飽きも来ようというもの。最近では掲示板の友人に勧められたアニメを観たり、掲示板に書き込まれた噂話の出所を探って遊んだりしているが、やはり暇なものは暇だ。


 ――だが今日は、久し振りに、することがある。


 親友の小野風花に、ひとつ調べ物を頼まれたのだ。いま掲示板を賑わせている噂――とはいってもこの地域の周辺だけでの噂だが――、「生贄落札会」についてである。彼女としては、都市伝説そのものよりも、それに付随する「死」についての考察のブームの方が気になっているらしく、学級委員として、クラス内を飛び交う厭世観は放置出来ないものであるらしい。そこで、インターネットに強い引きこもりである私に、依頼が来たというわけだ。


 確かに私は掲示板が好きだ。噂話の伝わり方や流した当人の意図など、掲示板の民には「裏」が多くて面白い。こと「生贄落札会」に関しては未だ発信源が分かっておらず、その裏に何か意図されるものを感じざるを得ない。もしかしたら、この噂に限っては真実なのかもしれないとさえ――思えてくる。


 非常に面白い。


 しかも、これだけ噂されているのに、内容が殆ど変わらず伝わっているのだ。これはもう、「向こう側」の意思が働いているとしか思えない現象だ。


 ――案外、部屋の外も楽しそうかもね。


 ・・・・・・なんて思ったりしても、やっぱり外に出ようとは思わないけれど。自分は、高みの見物をするくらいが丁度いいのだ。安全な部屋から、のうのうと。


 まあ……こうも噂が苛烈を極めると、親友の身を案じない訳にも行かなくなってくるが。小野風花――先ほど登場した、この件の依頼主である。


 眼鏡、黒髪、ショートカット、真面目――こんな私とは、正反対の外見と性格。


 ・・・・・・ちなみに私の外見と性格は、裸眼、茶髪、伸び放題の癖っ毛、根暗。


 そんな風花が外の世界で、傷ついたり抱え込んだり、事件、まして都市伝説なんかに巻き込まれていないか、非常に心配だ。


 いくら引きこもりでも、親友の心配くらいはする。


 その人の身に何かが起こっても周囲の人間が気づかない、そんな噂が流れているのならなおさらだ。もちろん、噂が真実だと決まった訳ではないが。


 風花とは、メールで連絡を取ることが出来る。普段は週に一回くらいのペースで近況報告のメールを送りあっているが(とは言っても私の方からは特に報告する近況なんて無いが)、依頼を受けてからは殆ど毎日メールでやり取りをしていた。私が風花を心配するように風花も私を心配してくれているようで、彼女からの返信が半日以上遅れることは無い。


 決めた。今日送るメールの内容は、「生贄落札会」についての情報ではなく、彼女に対する警告にしよう。真面目な彼女はきっと、この噂の危険性を理解してない筈だ。


 この暗い部屋から見てさえ、明らかにあの噂は異形なのに。


 メーラーを起動して、メールを打ち始める。携帯電話は持っていないので(連絡をとる友人がいなかったのだろう、覚えていないが)パソコンから送信する形だ。薄暗い部屋の中で長いこと電源を切っていないデスクトップの光が、今更不気味に見えた。


 できることなら、外に出て話したい。普通にしゃべれば、相手からの返信を待つ時間を「迷惑じゃなかっただろうか、大丈夫だろうか、返信は来るだろうか」なんて要らない心配をして過ごす必要は無いのに。せめてこの閉め切った窓を開け放って、ガラスに貼り付けたダンボール板も取り払って、窓越しにでも喋れたら。そうだったら、どんなに楽だろう。でもそれができないのは、結局自分の弱さ故なのだ。こんな奴に、人を心配する資格なんて無い。


 そんなことを考えながら、返信を待つこと三時間。既に夜の十時を回っている。早寝早起きの風花がそろそろ眠くなる時間――。


 返信は、ついに来なかった。


 何かが動き出した予感のする部屋で、パソコンの画面だけが怪しく光っていた午前二時――。



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