Ⅴ
「風花先輩って、そんな、鋼鉄製杓子定規みたいな人だったんですか? 僕の知ってる風花先輩とだいぶ違うんですが」
祐平に口を挟まれて、俺は祐平をぎろりと睨む。今いいところだったろうが。
「あの後キャラが変わったんだよ。いいから黙って聞きやがれこの極悪人」
「なんですかもう、さっきから言わせておけば自覚がないだの歯周病だの極悪人だのって。だいたい、当時の僕は小学生ですよ? 責めるのは少々酷ってもんじゃないですか?」
「知ーるーかっ。それに、別に酷じゃねえだろ? だってお前ら姉弟はちゃんと健先輩に口止めされてた筈なんだからよ。小六なら、充分ことの深刻さが分かる歳だったはずだ」
「言い訳させてもらいますけどね、小六の僕には事の深刻さはぜんっぜん分かってませんでしたよ! 一ミクロも理解してませんでした! 酷です!」
「うるせえよ馬鹿」
「なんて月並みな・・・・・・。でも、責任転嫁する訳じゃありませんが健先輩らしからぬミスでしたよね、あれは。ミスするということ自体が健先輩らしくありませんが・・・・・・。僕らにそのことを言ったのは、普通に健先輩の判断ミスです」
確かにそれは、俺も当時疑問に思っていたことだ。でも、それと小林姉弟の責任とは別問題じゃないだろうか?
「というか、あんな夜遅い時間に華先輩が訪ねてきて『祐平きゅーん、キミの素晴らしく優しく天使なおねーさまに会わせてくれない? お・ね・が・い』なんて言ってきた理由が、やっと分かりましたよ。まさか華先輩のふざけた訪問の裏にそんな事情があったとは」
「あいつ、そんなこと言ってたのか? ・・・・・・でも、アレだよな。その日のうちに小林家に行っていたとは俺も驚いた。時間も時間だったろうに・・・・・・。あいつ、あれでいて意外と優しいところあるもんな」
「ま、それ以上に周りに迷惑かけてますけどね」
俺と祐平は、思わず顔を見合わせて笑いあった。
――と、その時。
ずん! という地響きのような衝撃が、床を伝わってきた。方向的には、書斎のあるほうだ。続いて、ばらばらと物が落ちる音――恐らくは書斎の本だろう――と、ラピスたちの悲鳴。
「何だ・・・・・・? 何があった?」
地響きのした方向を見やる。ここから目視出来る範囲に、特に異常は見られない。・・・・・・となると、書庫の中だろうか?
「おい、行くぞ、ゆうへ――」
祐平に声をかけながら、彼の方へ視線を戻しかけて――
言葉を失った。
俺が祐平から目を離した、十秒にも満たない短い時間のうちに――
彼は、姿を消していた。
この場には、ただ行き場を失った俺の視線と、尻切れトンボに終わった回想シーンだけが残されていた――。
先にお断りしておきます。
祐平くんが消えた伏線、回収されません……っ!
ごめんなさい!黒歴史供養ですのでお手柔らかに!
そしてこれからも館をよろしくお願いします。