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曰く付きの館  作者: 木染維月
第二章 私情
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 さて、と。



 ・・・・・・いや、今たしかに俺は「さて」と言ったが、何も「名探偵一同集めてさてと云い」というシチュエーションなのではなく、単に自分の考え事に一区切りをつけただけだ。


 じゃあ何を考えていたんだ、って?


 そりゃあもちろん、あの日のことだ。

 俺、菅原蓮が大罪を犯したとも言える、あの日のことを――。


 ・・・・・・とか言って回想シーンに入るかと思えばそういう訳でもなく。

 過ぎた過去を振り返るなんて馬鹿のする事だ。

 だって、

 俺は今、

 やっとあいつに俺のことを思い出して貰えて、

 同じ空間で、

 隣に居られる。

 それだけで――別に、良かった。


 ただ、一つ不満なのは――不安なのは、きっと今の奏音は俺の事を彼氏として認識していないだろう、ということだ。心理学の本、みたいなもので読んだのだが、トラウマじみた過去をまるまる忘れてしまう、なんてままあることらしい。だから、俺達に会うまで何もかも忘れていて、もしかしたら今だって思い出した振りをして話を合わせているだけ、ということも充分あり得るのだ・・・・・・というか、きっとそうなのだろう。


 だから。

 思い出せとは言わない。

 思い出したら彼奴は辛いに決まっている。

 でもせめて・・・もう一度、俺に惚れてみてはくれないだろうか?

 あの頃のように――。



「・・・・・・ぱい。先輩。蓮先輩。せんぱーい」


「うわっ!」


 突然聞こえた祐平の声に驚いて、俺は思わず飛び上がる。

 なんでここに、祐平が?


「・・・・・・驚きすぎですよ、先輩。どうしたんです? ぼーっとして」


「あ、ああ・・・・・・いや、まあ、ちょっと思い出し事を、な。気にしないでくれ」


 そう、今現在、俺、奏音、祐平は食料と情報を求めて別行動をしている。奏音には書庫付近を担当してもらい、俺はその少し先、祐平は少々離れた所を調べていた筈なのだが・・・・・・。

「そんなことより祐平、お前はどうしてここに?」


 俺は自分の思い出し事をこれ以上言及されないように、無理矢理話題を逸らす。


「僕ですか? 僕は、調査の成果があがったので、先輩方にご報告申し上げようかなー、と」


「お、マジで? ご報告申し上げてくれ」


「えー? 嫌ですよ。・・・・・・あ、嘘、えーっと、ご報告申し上げたいのは山々なんですが、全く誤魔化しきれていない話題転換をしてまで訊かれたくない、そんな蓮先輩の思い出し事が気になって気になって、非常に残念ながらご報告申し上げられないんですよー。いやー残念だ」


「・・・・・・俺と語り合うか? 拳で」


 ここで奏音なら「拳で鼓舞するのさ。なんちゃって!」と言いそうなものだが、俺はそんなつまらないことは言わない。


「蓮先輩、こわーい・・・・・・。まあ冗談ですけど、でも思い出し事が気になるのは本当です。もしよろしければ、話していただけませんか。っていうか話してください。話せ。さもないと調査の成果をご報告申し上げることはできません」


「冗談ですって、結局同じ脅しに行き着いてるじゃねーかよ。・・・・・・まあ・・・・・・そうだな。お前も聞いておいたほうがいいかもしれん。『あの日』のことだ」


 俺がそう言うと、祐平は露骨に顔をしかめて


「あの日、・・・・・・あー、あの日、ですか・・・・・・」


 と呟いた。

 そして、普段のこいつの顔つきからは想像もつかないような鋭い目つきで俺を睨みつけ、言う。


「言っておきますけど、こうして先輩と仲良くやっている振りをしているのは奏音先輩が絡んでるからです。あの日のことを僕が許した、だなんておめでたい、脳内お花畑みたいな勘違いをしているわけでは、まさかないですよね? 何なら、今すぐチータスとかいう人の手違いで、連先輩だけ『鬼』に喰われればいいと思ってますから」


 俺も、できる限り感情を殺した声で言い返す。


「わーってるよ・・・…。別にお前に許して貰おうなんて、最初っから思ってねえ。だいたい、脳内お花畑はお前のことだろうが? それに…・・・」


 そして俺は、祐平に絶対零度の冷たい視線を向け、言い放った。


「自覚症状のないお前よりは、数百倍マシだろ」


 どうやら神様は、回想シーンを避けて通らせてはくれないようだ。



今のところ連載ノンストップ宣言を守れてます、木染維月です。

ついに二章へと突入しました。二章は奏音の彼氏(?)、菅原蓮くん視点でのお話になります。

殆どが回想シーンですが、険悪な二人の掛け合いと共に二章をお楽しみいただければ幸いです。

これからも曰く付きの館をよろしくお願いします!

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