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MOIRA  作者: 流民
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六章 ~リング~

 


 小型端末が頭にコツンと当たり、カミュは気が付くと、そこはもう宇宙空間だったのだろう。シートに体が固定されてはいたが、重さは感じず、身体が浮き上がりそうな感覚が、もうここは地上ではないのだという事を再認識させた。

『カミュ、気が付いたか?』

 目の前で浮かんでいる端末からメルキゼデクが声をかける。

「ああ……ここは何処だ、おっさん?」

 カミュが何とかそう口にすると、メルキゼデクは答える。

『ここはリングポートの接合点だ。地球から約三八〇〇〇キロの所だな。どうだ、初めての宇宙は?』

 メルキゼデクにそう言われると、改めて宇宙に来たのだと、再確認したカミュ。

「まだあんまり実感ないな……それに、なんか気持ち悪い……」

『ふむ、宇宙酔いというやつかな……まあ、そのうち慣れるだろ。それよりも、他の奴らを起こしてやってくれ。ここにもあまり長いは出来んだろうからな』

 カミュはシートベルトを外して、まだ気を失っている他の三人を起こす。そして、ようやく眼を覚ます他の三人。眼を覚ました氷室がメルキゼデクに話しかける。

「メルキゼデク、ここは何処ですか?」

『リングポートの接合点だ』

「そうですか。ところで、どれくらい気を失っていましたか?」

『そうだな、出発してから、丸一日は経ってる。そろそろ行かないと拙いぞ?』

「そうですね……急ぎましょう」

 氷上はそう言うと、少し慌てた様に他の三人に準備をさせる。

「もうあまり時間が有りません。急いでジュピトリスに接触しないといけません。さっさと行きますよ」

 準備が整ったところで、四人はジュピトリス側の入り口に向かう。地球の赤道上をぐるりと一周廻っているリングポートは煙突を中心に東西で別れており、煙突から東側がジュピトリス、西側がガルメシアの持ち物として管理されていた。煙突周辺は煙突公社が管理しており、どちらからも不干渉という状態だ。そのリングポートを移動する四人。無重力での移動は慣れておらず、なかなか進む事が出来ない四人だったが、ようやく動きに慣れだした頃にはジュピトリス側の入り口に差し掛かっていた。

「もうすぐジュピトリス側のゲートです。急ぎましょう」

 氷上の言葉に三人は頷き、無重力の中をあちこち身体をぶつけながら進んで行く。

『あれが、あのゲートを超えれば、ジュピトリス側のゲートに着くな。さて、守衛にはなんと言うんだ氷上?』

 メルキゼデクが氷上に聞いたその時、突然周りに人の気配がする。そして、それに気が付いた時にはもう四人は取り囲まれていた。そして、その一人が話しかけてくる。

「遅かったじゃないですか。もう来ないのかと思いましたよ?」

 歪んだ笑みを浮かべる男。

「誰だよ、おっさん?」

 カミュの言葉に気を悪くしたのか、男はカミュに近づくと、カミュの頬に平手を打ちつける。いきなり平手打ちをされたカミュは直ぐに反撃しようとするが、取り囲まれた兵士に取り押さえられる。

「口に利き方を勉強しませんでしたか? 目上の者に対しては敬語を使うものですよ。まあいいでしょう。私はガルメシア警備局のモーゼルです。あなた達の生殺与奪権を持つ者ですよ」

 モーゼルはそう言うと、また歪んだ笑みを見せる。

「さて、あなた方にはいろいろと聞きたいことはありますが……まあ、場所を変えてお話ししましょうか。こんな所で話すのも無粋ですからね」

 モーゼルはそう言うと他の三人もとらえるように指示する。抵抗を試みる氷上。

「メルキゼデク、何とかして下さい。ここはあなたの身体の中でしょう?」

『何とかと言ったって……全く、人使いの荒い奴だ。いいか、三秒たったら眼を閉じろよ』

 メルキゼデクがそう言ってきっかり三秒後、凄まじい閃光が辺りを包む。何も準備をしていなかったガルメシア情報局の人間は突然の閃光に眼をつぶされる。ユーリとヒロキは何とか眼を瞑っていたが、カミュは突然の事で間に合わず、蹲っている。しかも、警備部の人間がカミュに生まん折になっているため、カミュは身動きが出来ない。少しずつ、警備部員達の目は回復しだしている、急がなければまたつかまってしまう。ヒロキはカミュの上に載っている警備部員に体当たりをして、カミュの身体を自由にするが、カミュの目は見えないままだ。そして、ヒロキはカミュをつかむと思いっきり氷上の方に投げる。その反動でヒロキは反対方向に投げ出され、三人と離れていく。カミュを受け取った氷上は、ヒロキにロープを投げるが、ロープはヒロキには届かず、ヒロキは笑いながら親指を立てる。

『氷上、これ以上は駄目だ! ゲートを閉める。ヒロキは後で助けに行くしかない』

 メルキゼデクの言葉に、氷上は周りの状況を見ると、明らかに眼が回復してきている者が増えてきており、これ以上ここに止まるのは明らかに危険だった。

「解りました。閉めて下さい……」

「そんな! 氷上さん、ヒロキはどうなるの? お願いメルキおじ様、ヒロキを助けて!」

 ユーリの言葉を無視するかのようにゲートは閉じられた。


ゲートが閉められた後、暫くユーリはゲートの向こうに向かってゲートを叩きながら叫んでいたが、カミュがようやく視力を戻すと、ユーリの肩に手を当てる。

「ユーリ……ごめんな……俺のせいで……」

 申し訳なさそうにカミュが呟く。カミュに声をかけられてようやく少し落ち着いたのか、ゲートを叩くのを止めて、項垂れるユーリ。そんな二人を見て氷上は冷たく話しかける。

「いつまでもここに止まっている訳には行きません。早く行きますよ」

 その言葉にユーリは氷上を睨み付ける。

「氷上さん、あんたこんな時に良くそんな事言えるな!」

 カミュは氷上を睨み付けながら叫ぶ。

「こんな時? 私は今の状況を一番理解しています。それを理解していないのはあなた達です。いいですか? もう戦争が始まるかもしれないのです。そして、もし戦争が始まってしまえば、これと同じような事が世界中で繰り広げられる事になります。それをあなた達は解っているのですか? もし解っていないなら、悪い事は言いません。今のうちにガルメシアに投降した方がいいでしょう。まだあなた達は子供です。命を取られる事は無いでしょう。それはヒロキ君も同じだと思われます。だから、こんな所で心配している暇があれば、私は先に行かせてもらいます」

 氷上はそう言うと、二人の事を置いて先に進んで行く。氷上がジュピトリス側のゲートに着く時にはカミュもユーリも氷上の後ろに着いてきていた。

「帰るんじゃないのですか?」

 ユーリに話しかける氷上。

「私の端末、返してもらってませんから」

 先ほどよりもかなり表情が明るくなったユーリ。氷上のヒロキは生きているだろうという言葉を、ユーリとカミュは信じた。いや、信じざるをえなかった。

 もう目の前にはジュピトリス側のゲートが見える。その前には重武装の守衛が二人、奥の詰所と思われる所には後数人いるようだ。そして、氷上達に声をかけてくる。

「止まれ。ここから先はジュピトリスの管理区域だ。ガルメシアの者は許可なく入れる訳にはいかない。許可書は有るか?」

 守衛の言葉に、氷上は近づき、話しかける。

「許可書は無いが、エイジアの首長からの親書を預かっている。これをジュピトリスのキャプテンに渡したい」

 氷上の言葉に守衛は答える。

「エイジアだと? なんで? どうやってこんな所に……まあいい、とにかく身分証を見せろ」

 氷上は身分証を守衛に見せる。偽造防止の処置がされた身分証を見た守衛は頷く。

「本物のようだな。解った、とにかくキャプテンに連絡を取る。中に入って待っていてくれ」

 守衛は氷上達三人を応接室に案内する。応接室と言っても、無重力空間なので、家具などは固定されてはいる。ソファーや、椅子などは特に無く。部屋の中で漂う三人。暫くするとようやく誰かが部屋に入って来る。開いた扉を見ると、そこには筋骨隆々のスキンヘッドの厳つい男が立っていた。その男に向かって氷上は頭を下げる。

「エイジアの首長より親書を預かってまいりました。貴方が、ジュピトリスのキャプテンでいらっしゃいますね?」

 氷上の言葉を無視するかのように扉を潜り、部屋に入ると直ぐにその脇に立ち、次に入って来る人物の為に道を開ける。そして、次に姿を現した人物にカミュとユーリは開いた口がふさがらないようだった。

 茶色く長い髪を揺らし、ジュピトリスの制服は身体にピッタリのサイズで、その身体のラインが解るほど密着している。ボリュームのある胸に括れた腰、その制服はその女性のボディーラインを見事に表していた。女性が氷上に向かって口を開く。

「あたいがジュピトリスのキャプテン、フェリス・ワカバヤシだ」

氷上は流石に表情を変える事は無かったが、カミュとユーリはまだ茫然としたままだった。暫くしてようやくユーリが口を開く。

「フェ、フェリス姉さん? 何してるのこんな所で?」

 その言葉でようやくそこに誰かがいる事に気が付く。

「あたいの事をフェリス姉さんと呼ぶのは誰だい?」

 フェリスはそう言うとその声をかけた人物の顔の目の前まで行き、眼を細める。

「おや、あんたはユーリじゃないか! 久しぶりだね~元気だったかい?」

 そう言ってフェリスはユーリを抱きしめる。

「フェリス姉さん、合変わらず眼が悪いんだね……」

 カミュがそう言うと、カミュの声がする方にフェリスが顔を向ける。

「そう言うあんたは……カミュかい?」

 そう言うとユーリにしたのと同じように顔の近くまで行って目を細める。

「あんたも懐かしいね~、じゃあ、あんたがヒロキかい?」

 フェリスはそう言うと氷上の方に行き、今までと同じように氷上の顔に自分の顔を近づける。そして、じっとその顔を見るフェリス。

「ヒロキ、あんた随分変わったね~」

「姉さん……その人ヒロキじゃないから……」

 ユーリの言葉に氷上から少し顔を離すと、先ほどのスキンヘッドの男に右手を差出す。その右手にスッとかなり厚いレンズの眼鏡を渡すスキンヘッドの男。眼鏡を受け取り、それをかける。そして、先ほどよりも少し離れた所から氷上の顔を見るフェリス。

「あんたヒロキじゃないね……誰だい?」

 ようやくヒロキと別の人物だと気が付くフェリス。鋭い眼光で氷上を睨むフェリス。それを気にすることなく、改めて氷上はフェリスに自己紹介を始める。

「私はエイジアからの特使としてエイジアの首長、春日首相から親書を預かってまいりました、氷上と申します」

 氷上はそう言うと頭を下げる。

「ふーん、エイジアからの特使ね……まあいい、親書とやらを貰おうじゃないか」

 フェリスの言葉に、氷上は懐から親書を取り出し、フェリスに渡す。それを開き、中身に眼を通すフェリス。読み終わると、それをスキンヘッドの男に渡し、スキンヘッドの男も内容に眼を通す。

「で、あたいらにどうして欲しいんだい?」

 フェリスは氷上に話しかける。

「現状はご存じの通りだと思いますが、このままいくと近い将来必ず戦争が勃発します。出来ればそれを回避したく、努力はしておりますが……」

 氷上の後に言葉を続けるフェリス。

「無理だろうね~、ガルメシアはやる気満々さ。ガルメシア宇宙軍も最近動きが活発になって来ているし、インビジブル・ハンマーもどうも監視態勢から警戒態勢に引き上げられたようだねぇ。ジュピトリスの艦も警戒はしているが、かなり遠くからでも照準レーザーを照射されてる状態さ。まったく、迷惑な話だよ……」

 フェリスの言葉を氷上は黙って聞いている。

「まあ、それでもだ。あたいたちがあんた達に協力するメリットはなんかあるのかい? あたいらだって慈善事業でやってるわけじゃないんだ。相互にメリットが無いとね」

 氷上は頷く。

「確かにそうでしょうね。エイジアが提示出来る物は今の所先ほどの親書の内容だけになるかと思います。足りませんか?」

 フェリスが何か言おうとした時、スキンヘッドの男に何やら連絡が入り、それをフェリスに耳打ちする。それを聞きフェリスは目を細める。

「全く、面倒な事になったもんだよ……」

「どうかしたの姉ちゃん?」

 ユーリがフェリスに話しかける。

「あんたら一体何やらかしたんだい? 今ガルメシアからあんた達の引き渡し要求が来たよ、本当に厄介な事を……」

 そう言ってスキンヘッドの男に向き直り、話しかける。

「サンダース。あたいが戻るまで客人のもてなしたのむよ」

 フェリスはそう言うとすぐに部屋を立ち去る。その後に残ったサンダースは相変わらず無口で、睨み付ける様な鋭い眼光で三人を見つめる。


「これはこれは、ガルメシア警備局のモーゼル局長。私どもに何かご用ですかな?」

 先ほどとはうって変わった丁寧な対応をするフェリス。モーゼルは歪な笑みを浮かべ、フェリスに話しかける。

『相変わらずお美しいですなフェリスキャプテン。なに、たいしたことでは無いのですが、そちらに三人ほど紛れ込んでいる者達に用がありましてな。もしまだ捕えられていないようでしたら、こちらからも人間を出して逮捕に協力しようかと思いましてな』

 モーゼルの言葉にフェリスは冷たい笑顔で返す。

「確かに三人は今私共が客人として対応しておりますが?」

 客人という所を少し強めにいうフェリス。

『なんと! あの三人は先日の煙突破壊のテロリストと関わりが有る者と思われております。今すぐにでもこちらに引き渡しをお願いいたします』

「ほう……そんな危険な三人には見えませんでしたな。ましてや二人はまだ子供。それに一人はエイジアから首長の親書を持ってきた方です。IDも本物である事は確認されておりますし、何かの間違いではありませんかな?」

 フェリスの言葉の後、直ぐにモーゼルの顔色が変わっていく。

『何を言っておられるのですかな? これは人類全体の危機ですぞ? そんな事で騙されてどうするのですか? あなたもテロリストの一員としてガルメシアで法廷の被告人席に座りますかな? それが嫌なら今すぐに三人をガルメシアに引き渡していただこうか!』

 声を荒げるモーゼル。いつもの冷静な表情は消え、今は完全に我を失っているような状態だ。

「なぜですか?」

 相手の神経を逆なでするように冷静に答えるフェリス。

「まだわからないのか? そいつらがテロリストだからだよ! いいから早く引き渡しをしてもらおう! それに応じなければ、ガルメシアがジュピトリスの敵に廻る事になるが、それでも良いなかな?」

 その言葉にフェリスの周りにいた者達は少しざわめく。しかし、それでもフェリスは冷静に返す。

「仮に三人がテロリストだったとしても、三人をガルメシアに引き渡すのは筋違い。引き渡すのであれば、煙突公社でしょう? モーゼル局長、何を勘違いしておられるのかな? とにかく、ジュピトリスとしては、煙突公社から正式な引き渡し要求を書面として提出していただかない限りは、三人を引き渡す訳には参りません。よろしいですかな?」

 終始冷静なフェリス。それと対比するように頭に血が上っているモーゼル。

「後悔するなよ?」

 モーゼルはそう言って通信を切る。そして、直ぐにフェリスの周りにいた者は一斉にため息を吐く。こういう事は慣れているといった感じで、きびきびと次のフェリスの言葉に従う為の準備を進めだす。

「さあみんな。聞いたとおりだ。次の喧嘩の相手はガルメシアだ! 準備を怠るんじゃないよ! いいね?」

「イエッサー!」

 全員が声を揃えて返事をする。

「よし、いい子達だ。この戦いが終わったら全員にあたいから一杯おごるよ! ご褒美が欲しければ気合い入れて行くんだよ!」

 コントロールルームに歓声が響く。

「よし、では今の状況をまとめておいてくれ。 あたいは客人の相手をしているからね。何かあったらすぐに連絡するように!」

 フェリスはそう言うとすぐにコントロールルームを後にする。

そして氷上達がいる部屋に戻るフェリス。三人を睨み付けるフェリス。

「全く、あんたたちはいったい何をやったんだい?」

 フェリスの言葉の意味が解らない三人。

「ガルメシアがあんなに強固にあんたら三人の引き渡しを要求してくるなんぞ、よっぽどの事だろう? 本当に煙突破壊のテロリストなのかい?」

 驚く三人。

「ガルメシアは我々がテロリストだと、そう言ったのですか?」

 氷上の言葉に頷くフェリス。

「もちろん、あたいはそんな事は信じちゃいないよ。でもね、ガルメシアには関係ない事だよ犯人が誰だなんてね。もちろん、ガルメシアからの要求は拒否したよ。でもね、正式なルートで来られると簡単には拒否できない。あんたら一体どうするつもりだい?」

 ここで今まで黙っていたメルキゼデクが話しかける。

『正式なルートというと煙突公社からの引き渡し要求の事か?』

 突然発せられた言葉にフェリスは驚く。

「誰だい!? どこにいるんだい?」

 フェリスの言葉にメルキゼデクは姿を見せる。

『私だよ。初めましてフェリス嬢。私は煙突を司るAIのメルキゼデクだ。今は故合って三人と行動を共にしている』

 メルキゼデクはリングポートの投射装置を使って、部屋の中に姿を現す。その姿を見て驚いたフェリスは眼鏡を落としてしまう。

「メルキおじ様、その姿久しぶりですね」

 ユーリが呑気に話しかける。

『うむ、リングポートも煙突の一部だからな。投射装置が使える』

 ユーリにそう説明するメルキゼデク。そして、メルキゼデクはフェリスに向き合うと、また話しかける。

『で、先ほどガルメシアから煙突公社に緊急連絡が行っておったようだ。私が通信不調を起こさせてまだ煙突公社には届いてはおらんがな。恐らく、先ほどの通信の件だろう。で、どうする?』

 まだ目の前のメルキゼデクにフェリスは驚いていたが、少し冷静さを取り戻すフェリス。眼鏡を拾い眼鏡を拭いてから、フェリスに渡すサンダース。それをかけ、メルキゼデクを改めて見るフェリス。

「おや、あんたどこかで見た覚えがあるね……まあいい、今はそれどころじゃないね。とにかく、今は通信を止めてはいても、いずれ煙突公社にガルメシアが正式な依頼をするのは時間の問題だろう。そうなればさすがに無下に突っぱねる訳にもいかなくなる。どうするんだい? あたいとしては、氷上さん、あんたには今すぐにでも出て行ってもらいたい所だよ」

 氷上はそう言われるが、無表情に答える。

「確かに私がいなくなれば、ジュピトリスは取りあえず無事ですむでしょう。しかし、その後はガルメシアからの嫌がらせの様な事が起こるでしょう。今回の件を理由に。そうなった時、あなた方は我々の協力なくしてガルメシアと戦う事が出来ますか?」

 氷上の言葉に考えるフェリス。ジュピトリスは太陽系内惑星から資源や水を運んでそれをガルメシアやエイジア等に下ろしている。そして、各国はジュピトリスに対して食料を輸出している。それをガルメシアの嫌がらせで他の国への資源の供給や食料の調達を止められてしまえば、ガルメシア以外の国は干上がってしまい、国力は著しく低下するだろう。しかしガルメシアは違う。ガルメシアは小規模ながらも、太陽系内惑星船団を有しており、宇宙軍も動員すればある程度は自給自足できる。それを考えれば、今のうちに手を組んでおかなければ、ガルメシアに各個撃破されてしまうのは目に見えている。氷上はその事実をフェリスに提示した。

「食えない奴だねあんたは。悔しいが、確かにあんたの言う通りさ。それで、あたい達はどうすればいいんだい大将?」

 微かに微笑みながらフェリスは氷上に問いかける。

「答えは簡単です。我々エイジアと同盟を組んでいただければ、相互に援助を行うことが出来ます。そうなる事で今のところは静観している欧州連合も我々に迎合する可能性が十分にあります。あなた方はそれで十分に潤う事でしょう。我々もガルメシアに干渉される事も無くあなた方と取引もできる。これはウィンウィンの関係だと思いませんか?」

「解ったよ! あんたの言う通りにしよう。まったく、見た目は優男なのに、豪胆だねあんたは。いいよ、気に入った。あんた達と手を組もうじゃないか」

 フェリスがそう言うと、メルキゼデクが話しかけてくる。

『結局はこうなってしまったか……致し方ないのかもしれんな……』

「申し訳ありませんメルキゼデク。しかし、まだ戦争は始まった訳ではありません。まだ食い止める事も可能でしょう。その為にも力を貸してください」

『そうだな。その為に私も尽力しよう。おっと、どうやら煙突公社から通信が入ったようだぞフェリス嬢。どうする? なんならここで繋ぐ事も出来るが』

「そうだね、ここで繋いでもらおうか」

 メルキゼデクは頷くと、通信を開く。

『ジュピトリスのキャプテンフェリスでいらっしゃいますかな? 私は煙突公社の最高責任者のゴップと申します』

 冴えない小太りの男がハンカチで汗を拭きながらフェリスに話しかける。

「ええ、私がフェリス・ワカバヤシです。初めましてゴップCEO」

『早速ですが本題に入らせていただきますがよろしいですかな?』

「そうですわね、このさい時間はダイヤモンドより貴重ですわ」

 フェリスの言葉に頷くゴップ。

『ガルメシアのモーゼル警備局長より連絡がありまして、そちらで煙突破壊のテロリストをかくまっておられるとか?』

 フェリスはその言葉に少し笑って答える。

「とんでもない、エイジアからの大使はお見えになっておりますが、テロリストなどかくまってはりませんよ? いったいどんな話をモーゼル局長よりお聞きになられたのでしょうか?」

 ゴップはハンカチで汗を拭きながらおろおろとした様子で、画面の外に眼をやる。明らかにそこには誰かがいるのだろう。その指示を受けながらこの通話をしているのがはっきりとわかるほどだ。

『しかしですな、そう言った疑いがある以上、そのテロの容疑者の引き渡しをお願いしたいのですが?』

 ゴップの言葉に満面の笑みで返すフェリス。

「お断りします」

『は? 今なんとおっしゃいましたか?』

 あまりの言葉にゴップは聞き返す。

「物分りの悪い男だね……」

 横で見ていたユーリとカミュが慌てだす。フェリスの本性が出そうになっているからだ。

「いいかい? もう一回しか言わないよ? 断る!」

 唖然とするゴップ。そのゴップを無視するかのように怒涛のごとく話始めるフェリス。

「テロだか何だか知らないけどね、リングポートに来た以上、犯罪者の引き渡しの条約も結んでいない以上、もうこっちの主権の中での出来事なんだよ! それとも内政干渉するのかい? なんなら、ジュピトリス全員で相手になるよ? それに、何処に三人がテロリストだって証拠が有るんだい? そんな物ありはしないのに、ガルメシアの良いように扱われてあんた男として情けなくないのかい? その腰にぶら下がってる物ちょんぎっちまったらどうだい?」

 フェリスがそう捲くし立てると、ゴップは黙ってしまい何も言葉を返せなくなってしまう。そのゴップを無視するかのように更にフェリスは捲くし立てる。

「あんたじゃ話にならないね。そこにいるんだろうモーゼル局長? これがジュピトリスの意志だ。それが解ったらこれ以上内政干渉するんじゃないよ! もし、これ以上ちょっかい出してくるようならこっちにも考えが有るからね。解ったかい?」

 フェリスの言葉に歪んだ笑顔を見せながらようやく姿を現すモーゼル。

『もういい、下がれ』

 モーゼルに追い払われゴップが汗を拭きながら画像の外に出て行く。

『フェリスキャプテン。それはガルメシアに対しての宣戦布告と取ってもよろしいのですかな?』

 少し笑って答えるフェリス。

「あんたらにそんな根性が有るのかい? こちとら何年も死と隣り合わせの宇宙で命張って生きて来たんだ。ガルメシアのヘタレ宇宙軍なんかとは訳が違うんだよ。それが解ったら家に帰ってママのおっぱいでも吸ってな! それでもこっちに喧嘩売って来るって言うのなら、こっちは大歓迎さ! 解ったらあんたの所の大将にそう言ってやんな!」

 フェリスはそう言うと一方的に通信を切る。

「ちょ、ちょっとフェリス姉さん? なんか今凄い事言ってたけどどうするの? このままじゃ戦争になっちゃうよ!?」

 ユーリが慌ててフェリスにそう言うが、それを冷静に返すフェリス。

「じゃあ、あんた達を引き渡して何もなかったように澄ました顔でこの先生きていけばいいかい?」

「いや、そんな事言ってるわけじゃないけど……」

「氷上だけならあたいは直ぐに渡しただろうけど、あんたらまで渡すつもりは無いよ。そんなことしたら、カミラ母さんに申し訳が立たないからね」

 ユーリもフェリスの言葉に黙り込んでしまう。その時フェリスの下に通信が入る。

『キャプテン、ガルメシア宇宙軍の戦闘艦五隻がジュピトリスの領有宙域に入ってきます!』

「早い対応だね……解った、今動ける艦は何隻だい?」

『エウロパ級輸送艦四隻、ガニメデ級工作艦七隻です。その他はまだドック入りで動けません』

「解った、稼働全艦に出動命令。これは訓練じゃないよ! 実戦だ、それも相手は海賊なんかとは訳が違うからね。栄光のガルメシア宇宙軍様だ! 気合い入れていくんだよ。それとジュピター級の護衛艦の準備も急がせてくれ。あたいも出るよ!」

 そう言うや否やフェリスは直ぐに部屋を出る。サンダースが直ぐにフェリスに続き、それに三人も後を追う。



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