prologue
二十一世紀初頭、各国が提示した地球温暖化に対する宣言は功を奏さず、二〇四〇年頃には、地球はいよいよ生命が住むには向かない惑星になりつつあった。
終わらない泥沼とかしたテロとの戦い、人口の増加による森林破壊。枯渇しつつある化石燃料、それらを奪い合う戦争。人間のエゴによる大気汚染……
それらに伴う地球温暖化は、もはや歯止めのきかない所まで来ていた。最初に影響を受けたのはシベリア、アラスカの永久凍土だった。永久凍土の氷が徐々に溶け出し、その地下に眠っていたメタンハイドレートが大気中少しずつ逃げ出していく。そして、それが大気中に放出されることで、地球温暖化は人類の予想以上の速度で進み、極地の氷は加速度的に溶けだす結果になる。そして、二〇五〇年を待たずして北極、南極とグリーンランドの氷のはその殆どを消失させる。
極地の氷の消失に伴い海面は上昇し地球の海岸線は大きく陸地に入り込み、人が住むことが可能な場所、耕作地などは大幅に内陸側に後退した。
その結果、海は地球の人口の半分以上を海の底に呑みこんだ。もちろん直接海に呑みこまれたわけではない。
海面が上昇するに伴って、陸地を奪い合う戦争が起こり、死んでいく人達。それに生き延びても今度は少ない陸地で多くの人口を養えるほどの食料は生産できない。それによる餓死者が大量に発生する。そして、今日を生き延びるために、人が人を食べるというような状況まで発生し、それはまるで、カンビュセスの籤を引くかのような状態になっていた。
このままでは人類文明は後十年も待たずに地球上から滅びるだろう。そうなる前に、何とかしなくてはならない。まだ、何とか国として機能していた国々は、それぞれに生き延びる道を模索し、そして、その殆どの国は、地下に眼を向けた。
各国の調査の結果地下にはまだ広大な、人類が居住可能なほどの巨大な地下空洞が幾つか見つかっており、そこにジオフロントを作り出すしか、もう人類に生き残るすべはなかった。そして、自国の領内に地下空間を持たない国、地下空洞を自国で整備できないような貧しい国は他国のジオフロントに受け入れ貰うしか生き残る方法は無かった。
しかし、人類がジオフロントを作っている間にも、地球の温暖化は進み、ジオフロントが完成するよりも早く二酸化炭素を含む温暖化物質の濃度は人間が生活できる限界を超えた。そして、気温も平均気温が六十度を超え、もはや地球上に人間が生きていける場所は無かった。
そして、人類はまだ、未完成なジオフロントに傾れ込む。しかし、まだ受け入れられる状態が整っている状態のジオフロントはほとんどなく、奪い合い、殺し合った人々もようやくジオフロント内に入れても、そこでも地上と同じように飢餓に苦しまなければならなかった。
狭いジオフロント内に多すぎる人口を抱え、ジオフロント内での争いも絶えなかった。実際、それによって全滅してしまった所も少なくなかった。しかし、ジオフロント内だけで完結しているのであればまだよかった。食料や、領地拡大の為、ジオフロント内の住人を先導して、他のジオフロントを攻める事で活路を見出そうとしたところも少なくは無かった。
人類はジオフロント間の戦争で更にその数を減らし、もはや地球上、至る所にいた九十億人にも上る人口の数は約十分の一、十億人を下回るほどしかいなかった。しかし、この十億人と言う数も、正確な数ではない。もしかするともっと下回っている可能性も有った。
この大災害で、人類はこのまま衰退していくかの様に見えた……