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皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~  作者: 網野ホウ
ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期
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王女二人 そして滞在は三日目へ

 ロワーナは、ギュールスと初めて出会ってからのことをミラノスに話して聞かせた。


 『混族』は神様同然。

 『混族』に対するこの国での、そんな定義を払拭したミラノスは、どんな話でも聞き入った。


 初めてギュールスを見た時の騒動の話には、悲しみと憤りの気持ちを表し、

 初めての出撃の話では、ギュールスに批判の目を向ける第一部隊に対して、それは仕方のないことと諦めの感想を述べるが、目の当たりにしたわけではないが魔族の力を全く使わずに撃退した彼の機転の速さ、そして活躍ぶりに興奮し、二度目の出撃での魔族の性質を利用した攻撃の話には、目を輝かせて聞き入っている。

 三度目の出撃には、ロワーナが体験した話には感銘したが、巡回部隊の目撃談の中での傭兵達には怒りを隠さず、そしてギュールスの様子を想像しては苦しそうに顔を歪める。


 オワサワールとほとんど変わらないこの国の生活習慣。

 ギュールスの日常は、ミラノスもかなりずれている感想を持つ。

 次第にその話も盛り上がっていくが、この国に対してどうしたかったのかという話は当然出来ない。

 自身はおろか、ひょっとしたら何かを企んでいるかもしれないギュールスの立場も危うくなる。

 ただ、ギュールスは、自分の持つ魔族の性質や力を好ましくは思ってはいない事は伝えた。


「多くの人を助けることが出来る力を、どうしてあの人は遠ざけようとしていたのでしょう?」


 ロワーナはその理由を知っている。

 しかしその前に、彼女にもミラノスに聞きたいことは山ほどある。


「私から見れば、好まない自分の力を称える者達ばかりがいる場所に腰を落ち着ける方が不思議です」


「自分を嫌っている者がたくさんいる場所よりは居心地はいいかとは思いますが」


「もちろん好意を持ってくれる者が多い所ならそうでしょう。ですがこの場合は、彼が嫌う自分の特徴を好む者がいる、ということですから」


 ロワーナの言い分ももっともである。

 だがそれならば


「ロワーナ王女は、彼のことは好ましく思っておられたのですよね? ならばなぜそちらの国から出ていかれたのでしょう?」


 ひょっとしたらこの国をどうにかするために自分の判断で出奔したのか。

 だとすれば憶測でしか話は続けられない。


「ミラノス王女は、彼と話をすることはないのですか?」


「肝心な話になると避けられてしまいます。それにギュールスも式を挙げてからはいろいろと忙しいようで。父上とはいろんな重要な話や議論は頻繁に交わしているようですが」


 もう少し二人きりの時間を増やしてほしい。

 そんな不満をロワーナにこぼす。

 ロワーナはミラノスに対し、警戒を解くことは出来ない。

 しかしミラノスは、第一と第二の格差はつくがギュールスの妻という立場に立った者としてロワーナを見ているのか、すっかり気を許している。

 そのせいか、次第に表情が豊かになっていった。


 ロワーナも少しばかり気が晴れる。

 ミラノスが聞きたがる話は、ひょっとしたらすでに彼女は知っていて、それでいて自分を試すために質問しているのではないだろうかと疑いもする。

 しかしロワーナは知っているすべてを話さないまま会話を続けるが、それを咎めるようなことを言わないミラノスに、知らないことはギュールスから聞き出そうとしても聞くことが出来なかった話なのだと感じ取った。


 いくらかは気が紛れたロワーナはベッドから起き上がって腰掛け、当たり障りのない会話を始め、ミラノスはそれに応じる。

 まるで他愛のない話を楽しんでいる友人同士にも見える二人。

 そうこうしているうちにロワーナの気分もやや回復。

 無理をしない程度に、ミラノスの王宮内の案内を受ける。

 その間も談笑は続く。

 いつの間にかギュールスに、結束して彼の知っていることを洗いざらい話をするよう迫る計画を練る。


 初めての魔族討伐までの間のことは苦笑いや憐れみの表情を浮かべる。

 この国に辿り着く前までのギュールスの話は、ロワーナは彼自身から聞くことがなかったものばかり。

 問い詰めるのは夕食時。

 しかし物事は都合よく進まないのは世の常である。

 王のニューロスと妃のヘミナリアの二人も同席。

 これでは年甲斐のないいたずらのような真似はできない。

 二人の様子を見て訝しがるギュールス。

 それでも、昼食後の不調のロワーナを見ていた彼は、かなり回復した彼女の姿を見て安心はしたようだ。


 夕食はつつがなく終わる。

 ロワーナは大事をとって早めに休息をとる。

 別室で宿泊する親衛隊も、この夜は交代でロワーナのそばについた。


 …… …… ……


 一日の仕事を終えて浴室から寝室に入るギュールス。

 先にいた、寝室は一緒のミラノスに話しかける。


「……何やら急に仲良くなったみたいだな」


「えぇ。あなたの昔のこと、ロワーナ王女から聞かせていただきました。……オワサワールにもいらしてたんですね。どうしてお話ししてくれなかったんですか?」


 ミラノスは政治的な話や世界情勢についてはあまり詳しくは知らない。

 知っていることと言えば、せいぜいレンドレス共和国は他国と外交がないことくらいである。

 だからこの国の対抗勢力があることも知らない。

 その中心となる国からやってきたことを知られれば、あらぬ嫌疑がかけられる。

 言わずに済むなら言わないに越したことはないのだが、どんな会話が展開されたのかはギュールスは知らない。


「……今後おそらくロワーナ王女とは言葉を交わす機会が多くなるな」


 ギュールスの問いに、ミラノスは満面の笑顔で「もちろん」と答える。

 親しい者が多くないミラノスにとっては、大切な友人どころか、新たな親しい身内が増える。そんな感覚だ。


「……お前に選択してもらう必要が出てきた。それは、ロワーナ王女と親しくなればなるほど、義父、この国の王でもあるお前の父親との関係をそれなりに弁えてもらう必要が出てくる」


「どういうことですか?」


 ミラノスは自分のベッドの上で座り直し、やや険しい顔でギュールスを正面に捉える。


「お前はおそらく父親から、母親と共に政治関係から遠ざけられている。そして俺はニューロス王から、この国の政治について学ばせてもらっている上、お前達にすら秘密の研究にも立ち会い、参加させてもらっている。王を、義父を余計なことで煩わせたくはない」


 そんなミラノスに、真剣な顔でやはり正面から受け止めるギュールス。


「私と父は親子なんですよ?! 断絶しろというのですか?」


 その言葉に逆に驚くギュールス。


「ロワーナ王女をブレア家に招くのだ。オワサワールの事情なども王の元に入ってくるだろう。だがその情報はどこから来るのかによって受け止め方が変わってくる。彼女と仲良くなれば、彼女に情が移るだろう」


 ギュールスは、不満を持つミラノスに向かい優しい口調で説いて聞かせる。

 ミラノスからのかの国の話が出れば、それには彼女の思いも込められることになる。

 間違いではないが正確な情報にはなり得ない。しかし既にニューロスが正確な情報を仕入れていた場合、食い違いが生まれる可能性もある。

 ミラノスが聞いた話は自分が吟味する。

 そして自分からニューロスに伝えるつもりでいること。

 そしてニュースソースはミラノスからのものであることも伝える。

 その必要は絶対にある。なぜなら、自分からの情報とは別の情報が、同じ口から出てくることもあるからだ。

 そこに違いが生まれた場合、その情報の出所が違うことを予めニューロスに知ってもらう必要がある。

 食い違いがあるなら、どちらかの情報を伝えないようにすれば混乱は起きない。

 だが情報の分析がより正確に出来なくなってしまう。国交が少ないこの国にとっては、決してそれはいいことではない。


「今はまだ話せない事はいろいろある。だがロワーナ王女がブレア家に加わったのちに、まだ聞いたことのない話をたくさん聞かせることになるだろう。覚悟しておくように。いいね?」


「覚悟? なぜですか?」


 そんなに重大なことを聞かされるのだろうか。

 この人はどんなことを隠しているのだろう、とミラノスは不安に感じ始める。


「たくさんあるから、一気にすべてを話すとなると一晩二晩じゃ終わらないかもしれない。睡眠不足に陥るかもしれないから覚悟するように、ということさ」


「まったく……。心臓が止まりそうになったではありませんか。変な言い方は止めてください。悪趣味ですよ?」


 丁寧な言葉遣いで、不安から解放された心境をギュールスに伝える。

 すまんすまん、と笑いながら許しを請うギュールスは、ミラノスを愛おしく頭をなでる。


「さて、明日はこのオリノーアの名所の案内の予定だな。そして明後日が帰国ということなるか。明日も朝は早い。ミラノスももうお休み」


 ギュールスはそう言うと自分のベッドに入る。

 ロワーナから二人きりでないと離せない話題を提供してもらったような気がしたミラノスは、今夜はきちんとギュールスからいろんな話を聞き出すつもりだったが、やはりいつもと変わらない夜を迎えることになった。


「……いつか、きちんとお話ししてくださいね」


 ギュールスに聞こえないほどの小さな声でそう言うと、それをあいさつ代わりにミラノスも自分のベッドで眠りについた。


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