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皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~  作者: 網野ホウ
ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期
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交差点から離れた道の道しるべ

 レンドレス共和国の魔族と魔術師による、ミアニム辺境国の占拠と撤退の意味不明な動きを見せてから、オワサワール皇国ではその対応に迫られることになった。


 オワサワール国内では、幸いにもという表現は正しいのか、魔族の自然発生の頻度が低くなる。

 だがこの国の周辺にはミアニム以外にも八か国ほど辺境国があり、この二週間のうちに三度、ミアニムのようにその国に何の被害も与えずに占拠。オワサワール国軍が現れるとすぐに撤退する事変が起きていた。


 軍には所属していないロワーナには、その情勢は伝えられるが親衛隊への援軍要請はない。

 あの青い人物はギュールスなのだろうか、と一刻も早く事実を確認したい気持ちに駆られているロワーナは、報告があるたびに援軍要請が出ないことに不満を感じ、その報告書に目を通せる時間が待ちきれない。

 しかし報告書に目を通しただけでも、軍の対応した状況を読めばギュールスに構っている場合ではないことはわかる。そもそもまだ青い人物はギュールスと確定されたわけではない。


 占拠と撤退の標的となる小国は、オワサワール皇国と隣り合った国のみである。

 応援に駆け付けるオワサワール皇国の軍は、被害はゼロだが疲弊していく。

 同盟国からの援軍は、要請しても間に合わないくらい、レンドレスは素早く撤退する。


「民も軍も、そして他の物も何の被害も受けてないのだからそれはそれで良しとすべきではないか?」


 小国と国交がなかったり、同盟に加入してない小国がその被害に遭うと、同盟国からはそんな声が上がり始める。

 しかしオワサワール皇国は、その神出鬼没ぶりと姿を現してから占拠するまでの迅速さに、レンドレスに対し不気味さを感じるようになった。


 その事変はさらに二週間、ミアニム国の占拠と解放から数えて約一か月続いた。

 オワサワール皇国と隣接する小国すべてがレンドレスによる占拠と解放を経験する。

 小国は、オワサワール皇国が駆けつけてくれたおかげで被害に遭わずに済んだと喜んでくれたが、オワサワールはそれどころではない。

 理由も分からない。いつ行動に出るのかも読めない。


 そしてそれは突然やってきた。

 レンドレス共和国から、オワサワール皇国へ友好条約を結ぼうではないかという勧誘の通知が届く。


 その事変は、オワサワール皇国も他の国々も気付いていなかったが、神経戦の様相を呈してきたのである。

 それに気付いたのはロワーナとその親衛隊のみ。

 なぜならその通知は、ロワーナ王女をその遣いとしてレンドレス共和国にお出でいただきたいという内容だったからだ。


「オワサワールへ攻めようと思えばいつでも攻め落とすことは出来る。それが嫌なら人質をよこせ。そう言っているも同然ではないですか!」


「……反レンドレス同盟国は、はっきり言えば何の意味もないし価値もない。お前は外見上は婚約している身だが、国交断絶しているレンドレスにはそんな物にも意味はないのだろう。そんな話が耳に届くはずはないのだからな」


 兄でもあり次期皇帝であるエリアードに、腰抜けと思わず罵りを上げずにいられなくなる。

 しかしその思いはすぐに打ち消した。


「……ガーランドのみがレンドレスと隣り合っている。我々が感じ始めているレンドレスへの危機感と、あの国はいつも対面し緊張し続けているのだ。こちらは急にレンドレスからの侵攻の危険に晒され始めている。そんな国にどうして頭を下げて頼めようか」


 ガーランドのために、その危機感を少しでも和らげられる努力を我々はしているか?

 その後にすぐ同じ口から発せられた言葉。

 これにはロワーナも打ちひしがれた。


 都合のいいことばかり考えていた。

 守ってくれる者は、まず自分の身を守ることが始めていなければ、他者を守ることは出来ないのである。


 ギュールスに対してもそうだったのかもしれない。

 まず生きろ。最初に約束させたこと。

 だがすでに彼は、その努力をしていたのだ。

 それでも彼は、常に捨て石になることを最初に思い付いていた。


 努力はしたが、その結論は既に出ていたのだ。


 ひょっとしたら彼に見放されたのかもしれない。


 ロワーナは力を落とす。

 だが、自分でもできることはあるのではないかと思いなおす。

 交渉の場はレンドレス共和国国内。

 国交断絶してからは国外の者は足を踏み入れたことはないはずである。


 国内から細工をし、魔族との関係を壊滅させることが出来るかもしれない。


 自分だけが背負える役割があることに気付いたロワーナ。

 感情に振り回されるばかりの心の中に、どんなことがあっても見失ってはならない目的が植え付けられた。


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