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部隊内外の諍い 食堂にて

 朝の点呼で第一部隊で話題に上がったのは、他の部隊からのギュールスの待遇への非難。

 その話し合いで一応の意思統一を図ることが出来た。

 他にもロワーナから聞かされた話は、世界情勢と討伐した魔族についての報告。

 魔族と協力し合っているという聞き逃せない情報が絶えないレンドレス共和国。

 その国内で不穏な動きがあるという情報があり、オワサワール皇国並びにレンドレスに対抗するために同盟を組んだ国々の領域内で人為的な魔族の襲撃が起きた時には、レンドレスに追い返さず、その場で殲滅するという方針に決まったこと。

 そして今回討伐した魔族は、自然発生した物であると判明したこと。


「それと、普通の者なら、即時影響を及ぼすものではないが、何世代化にわたってから悪影響を及ぼす可能性があるため、食用を禁ず、とのことだ」


 ここでその話は重要か? と全員から疑問の声。


「あれだけ食用がどうのと騒いでいたではないか。白黒はっきりさせたことのどこが悪い」


 と言うロワーナに、全員返す言葉がない。

 普通の者、というところがミソで、ギュールスは既に魔族の体の一部を取り込んでいる。

 特性などを取り込み、すべてを自分の体の利益とする力を持つギュールスの『混族』の特性は例外と見なされた。


 以上で話は終わり、第一部隊も解散となった。

 ギュールスは、ずっと腕にしがみつかれていたメイファに引っ張られ、食堂に連れていかれる。

 他の全員もその後をついて団長室を後にした。


「やれやれだ。まぁ休暇と出撃のメリハリがつけられるあいつらや第二第三部隊は頼れる部下達だから構わんか。それより、やはり第四部隊以下が問題だな。彼女たちのように理念をしっかり持っていてくれれば全部隊平等に任務にあたらせることが出来るのだが……」


 苦悩と言うほどではないが、兵達の目線はどこにあるのかということも、兵士の等級審査に影響される。

 等級次第で部隊の編成も決まってくる。

 高い地位の兵士は自ずと皇族からの信頼も高く、等級の上下の差が激しければ与えられる任務にも差が生まれる。


 自ずと、常に皇族のそばでの護衛役が中心の任務と、国内や友好国の護衛のための外回りとに分けられる基準にもなる。


「……今日は順調に進めば、第五部隊が昼頃に到着するのか。外回りの近衛兵は第四と第六の二部隊で、第七は来月出発か。ふむ」


 ロワーナは全員が退室した後、この日の自分の予定の確認を終わらせた。


 …… …… ……


 もしこの朝食前の時間、メイファがギュールスの腕にしがみついていなければどうなっていただろう?

 間違いなく、中庭の噴水の所に行って、芝生以外の雑草を摘んで食べていたに違いない。

 それは誰もが簡単に予想がつくことだった。


「前にも団長言ってたでしょ? 同じ釜の飯を食うことも大事なことだって。親しくなる必要はないけど、これくらい力づくでアクション起こさないと、ギュールスってばホントに私達の予想越えることしでかすんだからさぁ」


 メイファはギュールスにくっつきすぎと誰もが感じるほど接近しているが、彼女には他意はない。

 ただ、何とかして食堂に連れていく目的のみ。そしてどちらかと言うと命令するのが心苦しいと常に感じているようである。それを両立させた行為。

 そして彼女だけが思っていることではなく、全員がそれに同意する。


 ギュールスにしても、それを無理に振りほどいて中庭に向かう理由もなく、大人しくそれに従う。

 何気ない行動から普段の考え方を理解することは割とある。

 ロワーナ達皇族にしかない能力がなくても、観察力が高い者ならなおさら。

 他界等級の近衛兵なら、それに差はあるとしても全くそれが出来ない者はいない。


「ご苦労様です」


 すれ違いざま声をかける者はいる。

 滞留しているほかの兵科の者達ばかりではない。

 雑用専門の職員もいるし、一般立ち入り可能のエリアならさらに多い。


「あ、ギュールス君。今日もこれからやってくれるのかしら? よろしくね」


 そう声をかけてきたのは清掃業の、人生経験豊富そうなドワーフ族の女性。

 中庭の除草作業をギュールスが手伝った相手である。


「あ、これからですか。じゃあ俺も」


「あ・ん・た・は・こ・れ・か・ら・わ・た・し・た・ち・と・ご・は・ん・で・しょ!」


 腕から離れたメイファが青筋を立てながらギュールスの耳を引っ張る。


「おばちゃん、ごめんね。その仕事、朝ご飯終わった後に手伝わせるから」


「あぁ、いいのいいの。手が空いた時にちょこっとづつやってもらえるだけでありがたいから。兵隊さんたち、忙しいんでしょ? でも二度手間になったりしたら能率悪いから、あたし達は中庭は西側からやってくから、東側から手伝ってもらえるとありがたいなって。よろしくね」


 清掃業の女性はそう言ってその場から去る。


「……あたしらより親し気に話しかけてくるおばちゃん達に、どう取り入ったのやら……」


 エノーラは不思議そうにギュールスを見る。


「……いや、普通に雑草食べてたらいつの間にか」


「雑草を食べること自体普通じゃないから」


 もっともである。

 そこからの話題が広がった雑談をしながら食堂に入る第一部隊。

 駐留中の第七部隊と入り口で対面した。

 部隊の点呼は部隊ごとに行われるが、この日は深夜の時間に出撃した部隊が複数と言うこともあったため、予定がともに変更を余儀なくされた全部隊が、団長室で同時に点呼を取ることにした。そのことで時間を有効に費やすことができるという目的である。

 既に点呼を終えた第七部隊は当然早く食事を済ませることが出来た。


「おっ……って、第一部隊でしたか。おはようございます。あ、深夜に出撃指令が出たそうで、お疲れ様です」


 第七部隊も国内巡回の任務が中心であり、優先すべき仕事である。

 国内の危機ということであれば、どんな部隊でも緊急出動に駆り出される。しかし今回の出動は友好国。

 火急というほどではない緊急出動要請であれば、巡回の部隊は出動は免除となっている。


「第七部隊か。そっちも長期の巡回に臨むことになるのだから、そっちはそっちで調子を整えてもらわねば困るからな。そっちの負担にならんように、滞留組だけで何とか事を終わらせたよ」


 エノーラはややおどけた表現をするが、第七部隊は逆に恐縮する。


「あ、いえ。第一部隊こそ……。あ、入り口で立ち話はみんなに迷惑になりますね。エノーラ一士、そして皆さんもここで失礼します」


 第七部隊は敬礼し、食堂を出る。

 しかしその礼儀正しい行動は、ギュールスとすれ違う一瞬だけ解かれ、嫌悪のまなざしをギュールスに向けた。


「……第四以下は、前々から第一から第三までと何か違うとは感じてたけどさぁ」


 手をギュールスの腕や耳から離したメイファはそれでもギュールスのそばに居たが、その彼女も第七部隊のギュールスに向ける目がいようと感じ取った。


「やっぱり、見た目のせいなのかな」


 ギュールスの頭からつま先まで視線を追わせるメイファ。


「そいえば昨日だったかな。道具屋でギュールスの道具の補充に行った時……」


 ティルがナルアと一緒にギュールスに付き添った時のことを話し出す。

 しかし。


「まずテーブルについてからにした方がいい。ここで話をすると、入り口が詰まってしまうぞ」


 エノーラの言葉で慌てて中に入る第一部隊。

 堂内にはすでに食事を始めている第二部隊と第三部隊がいた。


 第一部隊は彼女らと軽く会釈をしてテーブルに着く。

 メニューを決めて料理が運ばれ、食事が始まると入り口での話の続きも始まった。


「気にしすぎってば気にしすぎかもしれないけど……」


「でも第二部隊と第三部隊は、ギュールスを見ても別に毛嫌いするわけでもなし」


「気位、プライドか……。って、ギュールスは随分マイペースだな」


「んぁい? あっえ(だって)あーう(早く)うって(食って)ああにあえ(中庭で)あっおー(雑草を)


「分かった。食ってる途中で話しかけたのは悪かった。さっさと食え」


 その話題はここで打ち切られ、短時間で食事を終わらせた。

 すでに第二部隊と第三部隊の姿は食堂にはない。


「さて、言いたいことはいろいろあるが、我々に必要なこと、無用な事をきっちり分けなければならん。不満はあるが我々だけでは何ともならんことは団長にぶん投げる」


 エノーラの話を聞いている者達は思わず吹き出す。

 それに構わず話を続ける。


「訓練も必要だが休養も必要だ。私は休養は十分に取れたし栄養補給も出来た。訓練場に行くつもりだが付き合ってくれる者はいるか?」


 メイファ、ケイナ、ナルアの一等近衛兵全員が手を上げる。

 他の者は休養や次の出動に備えるための準備をチェックするようだ。


「ギュールスはどうだ?」


「中庭で除草作業を二十分ほどやってから……道具作りでちょっと気になるところがあるんで、工房で……そうですね、昼まで作業してます」


 エノーラは全員の動向を確認して軽く頷いた。


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