近衛兵のシルフ達 第六、第二、第三部隊、討伐完了 そして
第一部隊が魚の魔族一体を討伐。
もう一体は、第二、第三部隊が魔族の両側から、エラのみに向かって氷結の魔術をかけている。
肉体を持つ存在なら、その維持のためには呼吸が必要であろう。
そう予測した彼女たちは、えらを体に密着させた状態で氷漬けにしていた。
もちろん使っている魔術はそればかりではない。
第一部隊の作戦同様、拘束し、砂地に体を沈ませた上での作戦。
人数は多いものの、その能力は部隊ごとでは第一部隊に劣る。
そして迅速に討伐するより、被害が出ないように活動を鈍らせることを中心とした作戦を立てていたようだった。
しかし、手の空いた第六部隊が魔族に攻撃をしているが、意外にも攻めあぐねている。
「風圧で鱗を飛ばせるか?!」
「一つや二つなら出来なくはないが、力を弱めるほどはムリだ!」
「砂地に沈め切るしかないか?!」
「満潮になったらどうなるか分からん!」
物理的な攻撃は、堅いうろこに覆われていてなかなかダメージを与えられない。
第一部隊の様子を見ていたロワーナからの指示で、善後策がない限り魔族の成長を促す雷撃の禁止とされた。
高熱での攻撃は、それでも魔族の力がを弱めた、エラの氷結を緩めてしまう。
エラがある以上、水関係の魔術は体力回復になると思われる。
僅かずつでも体力を削ることが出来る物理攻撃に頼るしかない。
効果があるのかないのか分からない攻撃の時間が長引いていく。
すると突然第一部隊が倒した魔族がいる方向から、強い勢いで熱風と熱砂が魔族に向かってやってきた。
急激な環境の変化に激しい警戒心を持つ彼女達がその風上の方を見て驚いた。
討伐された魔族は海岸の上に横たわっていた。いつの間にか岸に上がってきていたギュールスがその前にいて、体の形状を巨大なメガホンのような形にさせていた。
熱砂と熱風は、彼の体から放出されていた。
火の魔法により熱くなった砂を、第一部隊全員の風の魔法でギュールスの体が変化したメガホンの狭い口に送り込んでいる。
おそらくギュールス自身の力も入れているのだろう。メガホンに入った熱砂を、三部隊が攻撃している魔族に向けて吹き飛ばしている。
エラの氷結は見る見るうちに溶けていく。
しかし魔族にとってのメリットは、呼吸を取り戻したことだけ。
「みんな! そいつから離れて!」
エノーラからの指示は絶叫と共に彼女達に届く。
咄嗟のことで、すぐさまその場から離れる彼女達。魔族一体だけ取り残されたかたちになる。
その高熱で、氷結ばかりではなく魔族の体の水分もどんどん抜けていく。
魔族の眼球もしぼんでいき、体の上部の方から下に向かって黒ずむ色が広がっていく。
熱砂が付着したことにより、そこから焼け焦げていったことによるものだ。
やがてヒレの先の部分から焼け崩れ、鱗も同様に焦げていき、体から離れ砂地に落ちていく。
「……まさか戦場で、魚が焼ける臭いを堪能することになるなんて夢にも思わなかったけど……」
「ば、馬鹿な事言ってんじゃないっ! な、何よ! あの忌まわしい術は!!」
体の形が変化する現象は、その情報は彼女達には伝わっていなかった。
苦しみながら体を溶かされる、そんな見るに堪えない惨状を連想するギュールスの体の変化。
それが魔族を討ちとる力になるのだが、その手段を真っ当なものとしてとらえることは出来ない第六部隊。
そして二体目の魔族も完全に沈黙。
同時にギュールスの体も元に戻る。
「おいしい所はまたお前に持っていかれたな」
表情を緩めたエノーラが、ギュールスの後ろから肩を叩きながらかけた言葉は、彼への称賛を意味していた。
「あ、いえ。ところであの落雷は……」
「上空に雲があったからな。ひょっとして雷を発生させられるかもしれんと思ってな」
雲の中に氷の粒が増えていくと、それがぶつかり合う回数を増やし、静電気が起きる。
その下ではメイファが得意な雷撃を繰り出している。
その自然現象が強まれば落雷は時間の問題であり、その行き先は魔族であることは予測がついていた。
「前回のお前の粉塵爆発の知恵に、意地で張り合っただけだ」
「意地って……感情で作戦立てちゃまずいでしょうよ。それに作戦会議の時は出さなかったじゃないですか」
「あれなしでも討伐できる算段はついていただろう? それを早めただけさ」
第一部隊のシルフ達の会話が盛り上がる。
しかしギュールスは努めて無感情の口調。
「……お見事、でした」
「ふ。素直に受け取っておこう。だがお前には感電させてしまったかと少し心配だったが」
「落雷の時に、ちょっと体に帯電してたようだったので、取り込みました。放電の能力が備わったみたいです」
「じゃあ戦略が広げられるんじゃない? それも楽しみね。思わぬ収穫よね」
「収穫なら……その魔族の死体……焼き魚に」
「「「「「「「それは止めなさい」」」」」」
ギュールスは全員からストップをかけられた。
任務を完遂し、周囲に警戒すべき対象もないことから一息ついた第一部隊。
しかし彼女達に、不快な感情を露わにして近づく者達がいた。
第六部隊である。
「何なのよ、あれは!」
その不快な感情が高まって怒りの口調で出た文句は、ギュールスにのみ向けられた。
「魔族を討つための手段です」
対して淡々と答えるギュールス。
「フン……魔族が魔族を討ち倒す。同族同士で牙をむき合うなんて、醜いにもほどがあるわ!」
「ヨーナ四士。我々に抗議するよりも、まず先にすべきことがあるんじゃないのか?」
「エノーラ一士、恐れながら申し上げますが、まさかこの『混族』に頭を下げて感謝の意を表せと? 有り得ません!」
「……我々がなぜここにいるのかということを考えたことはないのか? まさか我々がここに来るのは当たり前のことと思っているのではなかろうな?」
エノーラの言いたいことにようやく気付くヨーナ。
「……失礼しました。団長に報告してまいります」
ヨーナはそう言うとすぐに全員を連れて、少し離れたロワーナの元に急いだ。
エノーラはやや厳しい顔をギュールスに向ける。
「……ギュールス。一応お前も第一部隊のメンバーの一人だ。本来は番号の数が大きい部隊が小さい部隊に文句をつけることはあってはならないことだ」
「……なら、この力の使用を控えるか、使わないように」
「お前なぁ……」
確かに魔族の力を使わずに済むのなら、それに越したことはない。
しかしロワーナはその力を受け入れてくれた。
それでもギュールスは、その思いを無下にするようなことを口にする。
意地を張っていると思えなくもないが、全員が、それほどまでに『混族』と言う言葉は彼にとって特別な意味がある物と思い知った。
だが彼女らは、ギュールスが今心に決めたことがあることまでは知ることが出来なかった。