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気が休まらない休養日 隠す彼の感情の矛先

 資料室での閲覧では腰が落ち着かないだろう、ということで、部隊ごとの会議室に移動した三人。

 ギュールスが持ち出した資料は地理について。


 確たる情報があまり多くない魔物よりも、世界情勢の方が今現在もだが将来的にも必要な知識で、今までギュールスには縁のない知識でもあった。


「大陸が一つ。そして周辺に小島か……。海……見たことないな」


「広いぞ大陸の五倍はあるか」


「大きな水たまり」


 アイミがからかい半分でそんなことを言うが、ギュールスは真に受ける。


「晴れたら消えると」


「「消えない消えない」」


 下手な冗談は間違った知識を与えてしまう。

 意外と冗談が通じないギュールスだった。


「川とは違う種類の魚とかたくさんいるね」


「……魔物や魔族は?」


「いないとは言い切れないけど……。住民を襲うより、魚がおいしけりゃ海の中で大人しくしてるんじゃないかな?」


「まぁ海に怪物がいる情報はあるし、漁船が危ない目に合うこともあるが、襲われる事故はないな」


 オワサワール皇国の周りはすべて別の国によって囲まれ、海域に接している区域はない。

 海のことよりも他国の情勢を気にすべき。

 そう教わり、他国の情報に目を向ける。


「小さい国は数はあるが、辺境国……、つまりどこかの国に属していたり、経済などは独立国として成り立ってるが小さすぎるため防衛軍事にまで手が回らない場合がある。そんなときは友好国や隣国の力を借りることもある」


 オワサワール皇国の北方に隣接している国は海域に面している。地図にはミアニム辺境国と書かれていた。

 その国の人口が少ないため税収が見込めない。軍事費にまで予算が回らないために、治安などについてはオワサワール皇国に委ねていた。

 しかし鉱物の資源の産出は豊かでその国内で活用しても有り余るほど。

 その資源を加工する技術がどんどん発達していく。

 その結果、良質な建造物の資材や火薬が作られるようになり、資源そのものを含めた生産物の五割以上をオワサワール皇国のみに輸出。その品物は歓迎され、そしてミアニムも皇国からの治安維持部隊派遣を喜んで受け入れ、オワサワール皇国が結ぶ友好同盟国の一つとなっている。


「頼られっぱなしの同盟国なんてお荷物のその物。だけどこの国は、自分で出来ることは何とかしようって努力して、突出した技術でこっちに貢献までしてくれるからね。それと軍事条約を向こうから結んでくれたのよ」


 ミニアム辺境国とオワサワール皇国の二国と隣接する国があるが、問題はその隣接国の北とミニアムの東北側で隣り合わせになっている、大陸の端に存在する大国がある。


「レンドレス共和国?」


 ギュールスがその国に記された国名を読む。


「そ。ミニアムみたいな小さい国を侵略してこのような大きな国になった。面積だけ見るならオワサワールの方が大きいし、資源産出もミニアムや他の国からの輸入分をなくしてもこちらが上なんだけど……」


 アイミが歯噛みしているような顔になる。

 ギュールスは何か個人的な事情でも抱えてるのかとナルアの方を見ると、ナルアも同じような顔になっている。


「魔族を引き入れてるとか、魔族を支配しているとか、そんな噂が流れてる。どの国も国交がないから正確な情報は入らないけど、魔族の出現回数にその量がここよりも多い」


「噂でしか情報は入ってこないけど、国軍でないと相手に出来ない、こっちで出現する魔族よりも格上なんじゃないかって話もあるのよ」


「……他国を侵略ってのは……」


「魔族の力を軍事力に、いや、魔族を兵士にして扱ってるとか何とか……有り得ないと思うけどね。私達を餌としても見ようとしない魔族を扱うなんてね」


 ナルアとアイミの話を聞いて、ギュールスは思いつめたような顔をする。

 それは、自分にそんな魔族の血が混ざっているからと言うこともあるが、そればかりではない。


「……最近の侵略目的で起こした軍事行動ってのは、いつ頃だったんでしょうか?」


「え? えーと……十年……いや、十五年くらい……いや、さらにもうちょっと前か?」


「ムアラミ自治区、でしたっけ? 国というより、集落って言うか……。どの国もそこを管理しようとしなかったんじゃなかったかな。その地域の住民達は自給自足で生活してて、輸出も輸入もしてなかったし」


「ミニアムとレンドレスの間にあった区域だな。あの区域をレンドレスが抑えてからはしばらく大きな動きはないようだが」


 二人の話に間違いなく耳を傾けつつ、穴が開きそうなくらい地図を見つめるギュールス。

 何かの感情を顔にむき出ししそうになるのを堪えているかのように、顔を引きつらせていた。

 だが二人にはそれに気付かず話を続ける。


「我々近衛兵部隊の国内巡回部隊もそっちに駆け付けて、待機組もミニアムからの救援要請に応じてミニアムは防衛できたがミニアムまでは手が届かなかった」


「ミニアムから見えたあの現場、戦乱が終わった後は焼け野原でしたよね。緑豊かな森林地帯が見るも無残な姿に変わっちゃった……」


 自分たちの力不足を悔やむアイミ。

 しかし今ではもう取り返すことが出来ない。

 だが同じような悲劇を繰り返すことがないよう、オワサワール皇国が中心となって、レンドレスと接しているその隣国、ガーランド王国とその東のミラムーア共和国を始め、他の国々と同盟を組んだという。


 その結果レンドレスは孤立。

 しかし国力は維持は出来ているようで、レンドレス国内での混乱はないとのこと。


「レンドレスも漁業や海域からの資源の産出も出来るからな。警戒は絶対に必要だ」


「魔族と協力関係にありそうなのが問題ですよね。そして他国の侵略行為。この二点を今後絶対にしないと確約出来たら全世界一致で危険のない魔族討伐も実現できるというのに……」


 レンドレス共和国に関する二人の会話は、ギュールスの耳には入らない様子。

 彼の心に響かないその会話をよそに、ひたすら地図上のその国をそのまま見つめ続けていた。


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