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魔族五百体、ギュールス無双

 移送部隊が目的地に到着した。

 そこに待機していた国軍部隊の役目は同時に終わり、国軍本部へと帰還する。

 その際に任務引継ぎのやり取りが行われたが、その前にロワーナから単独行動の許可を取ったギュールスは一人で森林の中に入っていった。


「……こうしてあいつを見ていると、おどおどしていた最初の頃の方がよほど可愛げがあるな」


「結果次第では懲罰ものだ。首を斬るほどではないにせよ、国軍追放は免れまい」


 ギュールスの部隊内からの評価は一気に落ちた。


 …… …… ……


 ギュールスは森林を駆け抜け、広大な草原に出た。

 近衛兵団が来る前からこのあたりの防衛を担当している部隊は、北方の崖下の森林で滞留しているようだ。

 その中にいる魔物は大雑把に数えて百体いるかどうか。しかしさらにその北方には、会議での報告通り、すぐに気配を察知できた数は三百ほど。


 急いで仕掛けを始める。


 高原と南の森林が接する面と北方の森林と接する面、その両端を直線で引くと扇型の面が描かれる。

 その面の南側半分に等間隔で爆薬を、見えないように仕掛ける。

 面積は広く、距離も長い。

 とにかく急いであちらこちらに向かって走り続ける。


「これが最後の一手になるだろ? その一手にする前の仕掛けは……雷撃だけど、その前に融合の札十二枚か」


 そう呟きながら、融合の呪符を、高原の斜面を降りた先の森林との境目辺りに東西方向に等間隔で仕掛ける。

 その後は少し北方に向かって移動。扇型を作る南北方向の斜めの直線上の一点を両端とした、東西にわたるほぼ直線上に雷撃の呪符を仕掛ける。


「風の呪符があったらもっと簡単だったが……。火は使うなって言われてたけど、焚火くらいの強さなら問題ないよな?」


 誰ともなく言い訳めいた独り言を言いながら、ギュールスは南の森林の中に入っていった。


 …… …… ……


「何? 火を消すな?」


「森林の中で火を使うことは禁止と言われたのを忘れたのか!」


「た、焚火程度ですよ。それと火の上方には氷の呪符を用意しました。水の呪符も用意してます。森林の火事にはなりません……」


「氷? 下に火? 何の意味があるのだ」


「意味を知ったら、自分の単独行動の責任が皆にも……」


 全員から詰問を食らうギュールス。

 弱気の虫が出てくるが、それでも自分のやろうとすることを引っ込めない。


「こっちの邪魔にならなきゃ問題ない。ここで押し問答してる余裕はないんだ。いいですよね? 団長」


 ロワーナはあまりいい顔をしない。

 しかし森林にダメージを与えなければ、そしてそれがひょっとしたら五百もの魔物を全滅に近い状態に追い込めるなら悪くはない。

 魔物達に何の影響がなくても、最初から自分も入れて八人で何とかするつもりでいた。


「いいだろう。あぁ、ただしその火の罠に引っかかるとは思えんぞ? 魔物は飛行で移動するらしいからな」


 幸運。

 ロワーナのその一言を聞いて、ギュールスの頭に真っ先に浮かんだ言葉。


「……では作戦実行のため、この森と高原の境目で待機してます。北方の森林にも味方の軍勢はいるんですよね?」


「うむ。今は撤退し始めている。我々の市区防衛線を超えたら本格的に戦闘になる。それまでは防衛のみ」


「じゃあもう一手目打たないと。その後はその味方がこの森林に入ったら動きますんで」


 ギュールスはそう言うと、その一手目として横に広く、等間隔に仕掛けた火の呪符を全て発動させ、その上空に近い位置にある樹木の枝に仕掛けた氷の呪符も発動させる。


「……本当に、これは何か意味があるのか?」


 ロワーナの疑問は他の七人も同じように感じている。

 が、誰もが小手先の、大した効果のない戦術としてか見ていない。

 そしてギュールスはその問いに答えず、自分が定めた目的地に向かって駆け出して行った。


「我々も動くぞ」


 ギュールスの姿が見えなくなってから、第一部隊の全員も所定の位置につき、魔族の迎撃態勢を整えた。


 前方に焚火がある位置についた第一部隊。

 不快ではないがどうにも気にかかる。


「ちょっと、ケイナ、そんなことで魔力使うのやめな」


「魔力使うほどじゃないでしょ、こんなの。余分な熱気が気になるのよ。おまけに上の方から冷たい空気が来るし。彼がみんなから嫌われてるのは体が青いからじゃないんじゃない?」


「何考えてるか分からないから、か? むしろそっちが正解かもな」


「この作戦が終わって本部に戻ったらあいつに注意しとかなきゃね、アイミ」


 ケイナが気になった焚火の熱。

 シルフ族の得意分野である風の魔法で、前方にその熱気を追いやった。

 彼女が言う通り、特異な魔法はさほど魔力を使わない。

 作戦にも魔法を使うことはあるが、この分では何の問題もない。むしろその熱が気にかかる方が、作戦実行に障りが起きる。

 アイミ、そしてケイナの反対側にいるエリンも同じように前方に焚火の熱を追いやった。


「待てよ? 俺の攻撃目標は魔族の集団だから、全部仕留めるにゃ北側に行かなきゃだめだよな。じゃあ撤退する人に頼まなきゃダメか」


 一方森林を出たギュールスはそんな独り言を言い、急いで北の森林に向かう。

 崖を這い上ってくるのか、それともほかにルートがあるのか。

 その確認を忘れていたギュールスだったが、それは杞憂に終わる。


 飛行能力がある魔族を相手にする国軍も、それなりに飛行能力がある。

 高原の北端から見える風景の中で、近寄ってくる味方の動きが次第にはっきりと見えてくる。

 やがてギュールスの頭上を越えていく兵士達。


「……?! 貴様っ……。いや、その鎧はまさか近衛兵か?」


 部隊の責任者らしき者が降りてくる。


「近衛兵師団の第一部隊に配属されたギュールスと言います。主力は南の森林で待機。そちらが全員森林へ撤退すると同時に、防御から攻勢に出ると言ってますが……」


「お、おぅ、それは有難い……が」


 ギュールスの全身を、目を皿のようにして見つめる。

 やはり全身青というのは、どんな時でも見る者すべてを驚かしてしまう。


「お願いがあるのですが」


「何だ?」


「そちらの部隊が全員森林に入ったら自分に知らせてほしいのですが」


 それに何の意味があるのか。

 森林の中には第一部隊の主力がいると言っていたではないか。そっちに伝える方が早かろう。


 そんな疑問をその者は感じたが、腰を半分に折るくらいにまで頭を下げてくるギュールスに気圧される。


「わ、分かった。最後の一人が森林に入ったら、閃光の魔法をそちらに向けよう。問題はないか?」


 それで十分と答えると、魔物が来ると思われる方向に注目する。

 そしてその責任者と思しき者もその場から去り、南の森に向かった。


「? 風、強くなってきたか? まぁ強さよりも効果の長さが問題だからな。あとはっと……」


 第一部隊の数人が起こした風とは思わないギュールス。

 しかしそれもギュールスにとっては思いがけない助け舟になった。

 森林から風が発生し、次第に強くなっていく。

 枝についている枯れかけた葉っぱなども草原の方向に飛ばされ始める。


「ヘンゲ・ギタイ」


 ギュールスの体全てが歪み、辺りに生えている草村と似た色と形に体を変化させる。

 やがて森林から発せられる閃光。

 それを見て融合の呪符を発動。その直後に雷撃の呪符も発動させる。

 そこからウラウナガーンの中心地に向かうと思われる。高原は広いして採用された者がいきなり配属になった。


 そして翼を持つ蛇の魔物の群れが南の森林に向かって飛んでくる。その数約五百。

 しかしそのすべてが集まっても、ギュールスの想像通り、高原全体を覆いつくすことは出来ない。

 魔物の最後尾が高原の上に来る。


 そして最後の一手の爆薬を一度に爆発させる。


「あ、しまった」


 とてつもない爆音が高原で響き渡ったときに、ギュールスは自分の手落ちに気付く。


「でかい音出るかもしれないから耳をふさげって……言うの忘れた……。どうしよう……」


 体をいつもの姿に戻し南方を見る。


「爆薬から出る音よりもでかい音するなんて考えもしなかった……」


 そこには煙が立ち込める高原。そのほとんどを覆う焼け焦げた黒炭。

 しかしギュールスがそれを見ても何の思いも持たない。それよりも気にかかることが出来てしまった。


「……功績手当ゼロで許してくれるかな……」


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